第30話 太郎とソフィー
久我太郎の母(太郎が小学生の頃、ガンで他界)と、ソフィーの母マルグリットは、O女子大の同級生だった。(マルグリットは、日本文化研究のために、留学していた)
太郎とソフィーは、小学生の時に、それぞれの母に出会い、その後は兄と妹のように親しく育って来た。
太郎の母は亡くなる三日前に、ソフィーとマルグリットの手を涙ながらに握った。
「私は、もうだめ」
「太郎をお願いします」
※(太郎は、父と医師に呼び出され別室にいた)(医師は「深刻な状態」を強調した)
マルグリットは、太郎の母を抱きかかえた。
「私、太郎君のお母さんになります」
「だから、天国で見守ってね、心配いらないよ」
ソフィーは手を握ったまま大泣きになった。
「私が、太郎さんのお嫁さんになります!」
「日本で暮らします」
ソフィーの父も外交官だった。(太郎の父とは仲良しだった)
ソフィーの父は、マルセイユでのテロに巻き込まれ、(ソフィーが7歳の時)命を落とした。
ソフィーに最初に電話したのは、太郎だった。(父から情報がいち早く入った)
ソフィーは泣き叫んだ。
「もう!フランスなんて嫌!」
「太郎の日本に行きたい!」
「ねえ、結婚して!今すぐに!」
マルグリットに最初に電話したのも、太郎の父だった。
「僕にできることがあれば、何でも言って欲しい」
「彼とは違うけれど」
「マルグリットとソフィーを命にかけても、守る」
「そうさせて欲しい」
マルグリットは、迷わなかった。
歴史と血統を誇るロレーヌ・ギーズ一族に言い切った。
「日本人の久我と結婚します」
ロレーヌ・ギーズ一族は、数多くの相続人を持つ大所帯。
マルグリットとソフィーがフランスからいなくなったとして、影響はない。
むしろ、マルグリットとソフィーの安全面から、太郎の父との結婚を祝福した。
(実際は、前夫が亡くなって3年後に挙式をロレーヌ家の古城で行った)
(当時太郎は、14歳、ソフィーは10歳)
太郎もロレーヌ家の城で、父の結婚式に参列した。
ソフィーにとって焦りだったのは、太郎が数多くいる従姉妹連中の人気を集めてしまったこと。
太郎のフランス語はたどたどしかったが、その美しい顔、肌に全員が注目した。
「女より美しい肌!」
「ムダ毛がない」
「目が可愛いなあ」
「ソフィーには、もったいない」
「私とパリに住んで!」
従兄弟連中も太郎を歓迎した。(主にテニスとヴァイオリンのセンスに)
「俊敏で的確、いいね」
「ヴァイオリンもカルテット組みたい」
「笑顔に嫌味がない」
「頼もしい従兄弟だ」
ロレーヌの大人連中は、太郎の「知識」「マナー」に感心した。
「古代ローマから近代フランス史まで、よく勉強している」
「今の若いフランス人より、詳しい」
「食事の所作も完璧、美しいの」
「フランス語が上達したら、いろんなことを教えたい」
「フランスに来ても、日本に帰っても、全面支援させてね」
「できればギーズ家の歴史を書いて欲しい」
そんなことで、ソフィーは太郎の「人の気を引く資質」が、不安でならなかったのである。
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