第18話 図書館司書 岡田葉子(24歳)②

太郎は、田中梨沙子と岡田葉子の「バトル」は見たくない。

そうかといって、久我古書店店主であるので、ここで隠れるわけにはいかない。

慎重に声をかけた。

「田中さん、今日は何の本をお求めで?」


しかし、岡田葉子の対応は、太郎の想像を超えていた。

「あら、梨沙子ちゃん、ごきげんよう」(にっこりと笑うのである)

「今日は世界史の試験だったでしょ?どうだったの?」(さすが地域図書館の司書、どこからでも学生の試験情報は入るようだ)


ただし、田中梨沙子も、タダモノではない。

(にっこりと笑いながら)

「太郎先生に教わったこと書きました」

「ですから、今日の成果は、私と太郎さんの、愛の結晶です」


岡田葉子は、「愛の結晶」発言を、せせら笑った。

「梨沙子ちゃんって、試験の答案程度が、愛の結晶なの?」

「まあ、可愛いのね」(まだまだ、コドモとの嫌味を込めた)


田中梨沙子はめげなかった。

「いや、その愛の結晶にいたる過程で」

「太郎先生と、あんなことや、こんなこと」

「もう、手取り足取りですって」

「先生、やさしくしてくれたり、時々、厳しくて・・・」

「でも、それが、愛なんです」

(言っていて、かなりな飛躍とコジツケであるが、田中梨沙子も必死である)


岡田葉子は、また笑った。

(大人として、太郎の妻候補を自認するものとして、小生意気なガキ娘に因果を含めるべきと思った)

「梨沙子ちゃん、愛ってわかっているの?」

「人それぞれに、いろいろあるの」


少し厳しめな口調に変えた。(そろそろ、女子高生を叩き潰そうと思った)

「特に太郎さんみたいな、いろんなものを背負っている人にはね」

「太郎さんのかっこよさ、だけじゃないの」

「作家の苦しみ、この店での接客対応、不動産の経営、地域の名士」

「それを抱えた辛さに、梨沙子ちゃん、全て対応できるの?」

「ただ、可愛くてベタベタしたって、太郎さんを癒せるとは思えないの」


(田中梨沙子は、ポロポロと泣き出した)

(懸命に抗弁を開始した)


「でも、太郎さんのこと、好きなんです」

「だから、毎日ここに来て」

「未熟ですよ、それは」

「葉子さんみたいに、賢くないし」

「どうすればいいのか、わかりません」

「でも、梨沙子は、太郎さんの隣にいたいんです」

「それだけで、幸せだから」


黙っていた太郎が口を開いた。

「あのさ、いいかな」(厳しい口調だ)

(岡田葉子と田中梨沙子は、ハッと我に返った)


太郎は続けた。

「その話は、この店では厳禁」

「少なくとも、営業時間内はやめて欲しい」


少し間を置いた。

「結婚の前に、やるべき仕事が満載」

「執筆だけでも、10本未完成」

「不動産の仕事は、気を抜けない」

「ここでしか・・・気を休める場所がない」


田中梨沙子は、すっと太郎の左隣に座った。

(太郎は、岡田葉子と田中梨沙子に挟まれた)

岡田葉子は太郎の手を強く握った。

田中梨沙子も、同じように強く握った。

(太郎は、結局、気が休まらない)

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