第15話 弁護士山田あき子①

陽子は、上機嫌で帰って行った。

太郎が少し寝て(疲れを癒し)着替えて、一階の純喫茶「アラビカ」に入ると、店主夏目欣二とウェイトレス島倉結が渋い顔。

太郎は、店内を見回して、すぐに渋い顔の理由を理解した。


窓際の席で、ピンクのジャケットの中年女性が、若い女性を前に、大声を出している。

「だから、そんな男と別れなさい!」

「慰謝料しっかり取って、あなたの人生を取り戻しなさい!」

「迷う理由なんてある?」

「そこで迷うから、女が馬鹿にされるの!」


店主夏目欣二が、太郎に耳打ち。

「弁護士で大学教授の山田あき子さん」

「その前に座っている人は、彼女の教え子らしい」

「何でも、教え子さんの亭主が、ニューヨーク支店に栄転」

「少し不安を言ったら、離婚しろと、お説教」


島倉結は嫌そうな顔。

「他のお客さんもいるのに」

「マジに迷惑です」

「でも、何か言うと、もっとキレられそう」


太郎は、苦笑い。

「周りの客も、途中から聞かないよ」

「結局、他人事だから」


夏目欣二は頷いた。

「男女の仲は、当人しかわからないから」

「仲が良さそうで、あっさり別れることもある」

「喧嘩ばかりして、最後まで続くこともある」


島倉結は、嫌そうな顔から、不安な顔に変わった。

「山田先生が変です」

「グラス持って」


直後だった。

若い女性の顏に、山田あき子がグラスの水を思いっきりかけてしまった。

「ほんと、意気地なしだね、あなた!」

「女の屑だよ」

「あなたみたいな女がいるから、女の地位が向上しないの!」

「恥ずかしいと思わないの?」


太郎も嫌そうな顔に変わった。

「確かに、うるさいよな」

「女性の地位とか人権もあるけれど」

「その前に関係ない他人に迷惑をかけない節度があって、しかるべきでは」


水をかけられた若い女性が泣き出したのを見て、店主夏目欣二が、動いた。

「大丈夫ですか?」と若い女性に、タオルを差し出した、


しかし、山田あき子は、ますます興奮した。

「うるさいわね!」

「お茶屋の店主フゼイが!」

「大事な話の邪魔するんじゃないよ!」

(そのまま、店主夏目欣二に、熱い紅茶を浴びせかけてしまった)


今度は、太郎が動いた。

山田あき子の前に立った。

「どなたかは知りませんが」

「今の行為は、暴行にあたるのでは?」

「それと、お茶屋の店主フゼイと、差別的な言葉」

「大声も回りのお客様に迷惑です」

「落ち着きたくて、この店に来るお客様が多いのですから」


山田あき子は、怒り顔を変えない。

「あんた、誰よ!」

「私の仕事の邪魔しているのは、あんたのほうでしょ!」


太郎の顏が厳しくなった。

「久我不動産社長、この店のオーナー、久我太郎です」

「あなたの言動は、全て録画しています」

「警察を呼びます」


山田あき子の顏は、途端に真っ青に変わっている。

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