500字以下の奇妙なショートショート集

Tempp @ぷかぷか

第1話 ひと夏の人間離れ

「俺は人間をやめるぞ!」

 そう叫んで家を飛び出した弟を、家族は誰も心配しなかった。何年か前の夏も同じように叫んで飛び出し、その時は雪男になるんだといって夏山でサバイバル生活をしていた。弟は夏、特に猛暑の夏には時折発狂して暗黒面に堕ちるようで、半月ほど行方を晦ます。そんな異常にもいつしか家族は慣れていた。弟は外からはそう見えないが、何もなくても半月ほど生き抜くことが容易なほどには、サバイバル慣れしてタフだった。

「お前、どうしたんだ」

「え? 何」

「何って……顔が緑色だぞ」

「あれ。変かな」

 今年、弟は帰ってきたとき全身の皮膚が真緑だった。何かの冗談かと狼狽えていれば、弟は平然と職場に電話して休暇の延長を申請した。そして3日も経たないうちに日焼けが薄まるように自然と皮膚は肌色に戻り、出社するようになった。

 あれから何度か市役所に様子を見に行ったが、普段通り働いている。もう少し気にかけていたほうがよかったんだろうか。


note たらはかにさんのSSのイベント用

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る