【応募用】 文官してたら姫騎士に脳筋だとバレて前線送りになった

けーぷ

第1話

タッシュマン王国。大陸東方に位置し、北・東・南の三方を魔物の領域に接している人類の最前線国家である。


その地理的な特性から軍事国家の趣が非常に強い国家であり正規の王国軍だけでも第1軍団から第10軍団まで存在している。王族も前線に立つのが当たり前であり、齢40を超える現王ラムセス・タッシュマンも数々の武勇伝を持つ。


一見すると完全に脳筋国家なタッシュマン王国ではあるが、戦線を維持するための補給などのロジスティクスの重要性は理解されており軍部以外の文官たちもそれなり以上に重要視されている。


そんな国家の内務省に務めるのが若手官僚のジェズ・ノーマン。26歳。18歳のときに王立高等学校を卒業し、そのまま文官となった彼は現在は内務省に勤めている。内務省では国家内のあれやこれやの調整やら内政やらの補佐を担当しており忙しく国内を飛び回っていた。


ある日のこと。久々に1ヶ月ほどゆっくりと王都で仕事をしていたところ、突然小言が多い上司に呼び出されるとそのまま南方戦線方面の地方都市行脚の出張を命じられた。


どうやら南方戦線で魔物の活動が活発になっているようで、王国軍側も戦力の増派を考えているらしい。これを見据えて事前に各都市間の調整や物資の手配などを現地入りして対応してほしいとのこと。


へいへい、相変わらず人使いの荒いことでと内心で軽く愚痴りながらも急いで準備を整えたジェズはその日の内に荷物をまとめて馬車に飛び乗り、王都を離れて南方都市群に向けて出立した。


・ ・ ・


王都を離れてから約1週間が経過し、特に何事もなく道程の半分ほどを超えた。残り1週間ほどで南方都市群に到着する。この日もジェズは馬車に揺られながら、ケツいてぇ……とぼーっと空を見たり、御者のおっさんと駄弁ったり、たまに手元のメモ帳に何かを書きつけたりしながら過ごしていた。


そんなふうにのんびりと馬車の旅を過ごしていると、突然


「旦那!賊だ!!!」


と御者のおっさんが慌てた声をあげる。それを聞いたジェズは馬車内から御者台に移り御者のおっさんが指差す方向を見た。


「……まずいな。どこか逃げたり隠れたりできる場所はあるか?」


「この辺りの丘陵地帯は逃げ隠れには向いてないですよ!くそ、こんなことならしっかり護衛もつけておくんだった!!!」


この御者のおっちゃん。基本的には商人をしており、空いたスペースでついでに人間も運ぶタイプの商人である。南方戦線に動きの気配ありと聞いたおっちゃんは王都で物資を買い込みそれを南に運ぶ途中だった。王都でたまたまジェズと遭遇し、そのままジェズを乗っけてきたという流れである。


なおタッシュマン王国内は基本的に治安が良い方であり、護衛を付けずに旅をするケースも多いのだが昨今の南方戦線の活性化に合わせて色々と賊の動きなども変わってきているらしい。


いずれにせよおっちゃんからしたら不運なこと極まりなかった。


「……馬車ごと荷を捨てれば逃げられるか?」


と顔面蒼白にしながらぶつぶつと呟いているおっちゃんを見たジェズは「……しゃーないな」と一言つぶやくと


「おっちゃん、これから見たことは内緒にしといてくれな」


とおっちゃんに一言声をかけると特に気負う様子もなく馬車から飛び降り、賊に向かって一直線に


・ ・ ・


数分後。唖然とするおっちゃんの所に返り血で血まみれになったジェズが戻ってきた。


「……あんた冒険者か騎士だったのか?」


眼の前の惨劇に驚き御者台の上で腰を抜かせたおっちゃんがそう問いかけると、ジェズはにやっと笑い


「いや、ただの文官だよ。まぁ色々と面倒だから黙っといてくれ」


と一言声をかけた。さて一休みしたら移動するかとジェズが思案していると遠くから地響きと共に多数の騎馬が駆けてくるような音が聞こえてくる。


そして遠くからおっちゃんとジェズがいた馬車を見つけると、あっという間に十数騎の騎乗した騎士達が駆け寄ってきた。


「諸君!無事か!?」


そう馬上から声をかけてきたのは、まさに”姫騎士”と呼ぶにふさわしい美貌と凛とした雰囲気を併せ持った女騎士だった。


・ ・ ・


彼女たち騎馬隊の話を総合すると、この街道で先を進んでいた旅人がどうやら賊の集団とジェズ達の馬車が遭遇しそうな所を見かけたらしく、慌てて付近の街まで通報に行ったらしい。


そしてその街にはたまたま彼女たちの騎馬隊が立ち寄っており、現場まで急行してきたとのことだった。


一連の話が完了すると馬から降りていた女騎士や現場の実況見分を終えた騎士たちが興味深そうにジェズのことを見てくる。そして代表して女騎士が尋ねてきた。


「で?これは君がやったのかい?」


まるで獲物を前にした猛禽類のような女騎士の気配を察知したジェズはにこやかな表情を変えずに


「いえ、私ではありませんよ。たまたま通りすがりの傭兵さんに助けていただきました」


「……いや、その返り血と血濡れの拳でそれは無理があるだろう。ひとまず付いてこい」


と女騎士に連行されそうになるが、咄嗟に


「すいません、私は商人でして。この先も急ぐのです。騎士様たちには大変申し訳ないのですが……」


といって何とかこの場を離脱できないかと画策していると、現場検証をしていた他の女騎士が近づいてきた。


「……ジェズ、久しぶり。さっきから何してるのさ?姫様、彼は商人ではなく官僚です。命令を出されると良いかと。彼はジェズ・ノーマン。確か内務省に努めていたはずです」


「エリン!?何でこんなところにいるんだよ!」


ジェズの学生時代の同級生、エリン・セイラーが横から声をかけてきた。エリンの言葉を聞いた女騎士はまるで肉食獣かのような獰猛な笑みを浮かべると。


「なるほど。そういえば自己紹介がまだだったな。私はタッシュマン王国軍第7軍団 軍団長にして第3王女レネ・タッシュマンだ。ジェズ・ノーマン。私に付いてこい」


「……はい」


・ ・ ・


前世:業務改善コンサルタントの男が、転生先で幼少時に一瞬俺Tueeeeeをしようと思ったものの想定以上に物騒だった異世界で文官として前世知識チートを活かしてそこそこに平和に生きていこうとした矢先、うっかり事務処理(物理)の現場を姫騎士に見つかってしまい前線へ引きずっていかれるお話。


「……すいません、お腹痛いので帰っていいですか?」


「前線を10km押し上げてからなら」

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