第4話
肌寒い風を感じて目を覚ますと、オレンジ色の夕焼けが目に入る。
どうやら僕はかなり長く眠ってしまったようだ。
寝ぼけた頭でぼんやりと考える僕に、頭上から聞きなれない声が掛かる。
「おはよう。よく眠れた?」
反射的に返事をしながら声のした方に目を向けると、そこには寝起きの僕を見て笑う彼女の姿があった。
彼女はポケットからスマホを取り出すと、僕にスマホの画面を見せながら可笑しそうに笑っている。
「もうとっくに学校終わっているよ?」
スマホの画面に表示されている時刻を確認すると、すでに学校が終わる時間を過ぎていて、僕は思わず眠ってしまった事を彼女に謝罪する。
「ごめん、油断して眠りすぎた。今更なんだけど、君は学校休んでも平気なの?」
慌てる僕を横目に彼女は呑気に笑っている。
「本当に今更だね。最初に眠ったのは私だし。それにたまには学校をサボるのも新鮮で楽しいよ」
優等生だと思っていたけど、彼女は学校をサボった事に全く罪悪感はないらしい。
その図太さが僕は少しだけ羨ましくなった。
「学校では優等生だと思っていたけど、案外いい性格しているよね」
「まあ、人は見かけによらないという事で。それに最初にお昼に誘った時点で学校をサボる予定だった訳だし優等生ではないよね」
彼女に言われて、確かに優等生なら平日の昼間にそんな事はしないと納得した。
僕等は時間的にもこれ以上遅くなる前に後楽園を出て、岡山駅へと向かう事にする。
夕方十八時過ぎになると、駅は仕事帰りの社会人や学校帰りの学生で溢れている。
学校を休んだ手前、平然と学校をサボって遊びに行く彼女も同級生には会いたくないのか、同じ学校の生徒に見つからないように、学生が多いお店の付近を避けて慎重に駅を歩く。
それでも元々が人目を惹く容姿なので、周囲の人からの視線は避けられない。
その点については本人も慣れているのか、一切気にする様子はなく、むしろ隣を歩く僕の方が向けられる視線に居心地の悪さを感じていた。
彼女との別れ際に今日の写真を送るからと言われて、その場の勢いと周りからの視線で押し切られるように僕は彼女と連絡先を交換した。
岡山に引越をしてから初めてアドレス帳に家族以外の人を登録した事に柄にもなく浮かれながら、僕も帰路につく。
帰宅し、リビングで家事をしていた母親に検査の結果は異常がないとだけ伝えて、逃げるように自室へと向かう。
夕飯の時間になり、恐る恐るリビングへ入っても、母親はいつも通りで学校をサボった事を咎める気配がない事に胸をなでおろす。
どうやら、学校をサボった事はまだ耳に入ってないらしい。
そのことに安心して自室で休んでいると、珍しいことにスマホにメールが届いた。
それは当然今日連絡先を交換した彼女からのもので、簡単な挨拶と外部へのリンクがあり、URLにアクセスしてみると、大量の後楽園で撮影したと思われる写真が表示される。
ご丁寧に、共有アプリでアルバムまで作成してくれたらしい。
昼間の庭園の写真や、僕が寝ている間に撮っていたのだろう夕暮れの空、岡山城の写真を順番にスクロールしていると、写真の最後に悪戯のつもりなのか寝ている僕の写真まであった。
こちらも一枚だけ撮っていた、木陰で眠っていた彼女の写真を送ってやろうかと思ったが、色々と誤解を生みそうなので自重する。
気の利いた文章が思い浮かばず、簡単なお礼だけ送信して送られてきた写真を見ていると、すぐ返事が返ってきた。
『どういたしまして、一応今日の確認だけどお互い病気の事は他言しない事、急に仲良くすると学校では怪しまれるから今まで通りにする事、これから色々よろしく』
書かれていたのは、確認と念押しだった。僕らの間の取り決めと取り留めのない言葉を確認した僕は、『了解、こちらこそよろしく』とだけ画面に打ち込む。
自分でも不愛想な返事だとは思うが、今日初めて会話をした人との距離感がわからず、そのまま送信した。
今日は慣れない事が多くあったせいか、昼に眠っていたはずなのに既に眠れそうだ。
疲れて少しだけのつもりでベッドに横になるとすぐに眠気がやってきて、他にもやることが残っていたはずなのにそんな事はお構いなしに意識が遠くなった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます