第43話 天陽学園教師からの評価
交流会1日目は予定通り進む。
第2プログラムも第1プログラム同様に天陽院生徒らは余力を十分に残しクリアしていった。
今は第3プログラムの共闘訓練。ランダムに組み分けされた生徒たちが協力して複数の式神を撃破する訓練だ。
天陽院生はどの班でも戦力の中心として据えられていた。それを見守る観戦席の我修院 遥。その横へと悠が訪れた。
「ども、遥先生」
「悠か。我修院と呼べと言ったろ」
「いやぁ〜下の名前の方が可愛い響きですし、生徒の妹さんとかと混じりません?」
「先生で分かるわ!」
「それもそうですね! あはは〜!……それはそうと、うちの生徒はどうです?」
ひとしきり遥を揶揄った後本題に入る悠。それに遥は呆れたように溜息をつき、それぞれの生徒を見て評して行く。
「まずは白波 響。典型的な憑依型だが、膂力と瞬発力が高い。術も見える範囲では平均以上……そして剣術も中々のものだ。優秀だな」
たった今、群れを成す式神6体を一瞬にして切り裂いたのを見て評する遥。
「次に天鈴 空。今の所は平均的な放出型だ。ただ術の発動が早いな。それに、膨大な陽力を隠しているのだろ?」
「あ、知ってたんですか」
「噂は聞いている。『影人』を殴り飛ばしたとな。白波 響も一撃入れたとも」
響達が『影人』と交戦した一件は天陽学園教師にも共有されていた。それ程異常な事件だと言うことだが、同時に生き残った響達の評価も密かに高く見積もられていたのだ。
「そういう意味ではもう1人の『影人』を撃破寸前まで追いやったあの2人も中々だ」
遥の視線は空とは少し離れた結界に居る秋に移る。
「武見家相伝の特質陽力を受け継いで生まれ、雷を操る武見 秋。憑依型ではあるが、放出系の術も高いレベルで扱えてバランスがいいな」
響のように式神を切り裂いた後、離れた式神へ『雷華』を放つ秋。異なるレンジの術を器用に切り替える様は万能型と言うに相応しかった。
「そして尾皆 陽那。式神を複数体同時使役しながら自身も術で援護するのはかなりの高等技術だ。素晴らしい」
陽那はいつも通り楽しげに式神と鞭で波状攻撃を仕掛け、目標を華麗に殲滅する。
天陽院1年生を評した遥は次に2年生へと視線を移す。
「
舞うように放たれた文香の炎は式神が近づく前に焼き尽くしてしまう。
「坂田 臣也。奴も放出型……五行は土か。使役する岩の腕は文字通り手足の如く操れている。式神は使えないようだが、式神使い同様に多対1の状況を作れるのは流石と言うべきか」
文香のようにアウトレンジから一方的に式神を倒す臣也。どちらかと言うと陽那のような多角的な攻撃が得意と見える。
「どれも粒揃いだな」
「でしょ? 自慢の生徒ですよ」
結界内では天陽学園の生徒が戦いながら愚痴を零す。
「くっ……! あいつらなんなんだ!?」
「強い……!」
「この俺が……獲物を先取りされるだと……!?」
多くのものが天陽院の生徒に辛酸を舐めさせられていた。
そうしている内に第3プログラムは終了。生徒一同は開会式のように朝礼台前に集められた。
「午前の部は先程の第3プログラムを持ってして終わりだ! 一先ずここまでの健闘を讃えよう!」
高らかに一同を労う我修院 遥。そのパワーのある語気に疲労の色を見せている生徒には辛そうだと響は何となしに感じる。しかし、続く言葉は驚くべきものだった。。
「天陽院一同にはまずは謝罪しよう。侮った事、誠に申し訳なかった」
そうして響達に向き直り深々と頭を下げる。予想だにしないしおらしい姿で謝罪され、響達は困惑の表情になる。
いや、天陽院の生徒だけでは無い。学園内で鬼の我修院と恐れられている教師が、他校とはいえ生徒に頭を下げていると言う事実にそちらの生徒の方が驚きを隠せずに居た。
「マジ……!? あの我修院先生が……!?」
「俺、頭下げてるとこ初めて見た……」
「私も……」
口々に同様した声が上がる。それを面を上げた我修院が元の雰囲気に戻り一喝する。
「静まれ愚か者共!」
その一声でピタリと止むざわめき。それを確認してまた口を開く。
「さて、私がしたくも無い嘲笑と謝罪をする事になった訳を話そう。全ては多くの1年のヒヨッコ共! お前らの為だ!」
矛先が自分達へと向かい、飛び上がってしまいそうなくらい背筋が伸びる天陽学園1年達。
「お前らは常日頃から陰陽師の家系の生まれとして誇りを持ち研鑽しているな。それ自体は良い……だが! それに固執するあまりお前たちは相手を侮らないという戦場の常を忘れている!」
その言葉にハッとする生徒たち。我修院 遥はエリート意識とも言える自信が驕りへと至ってしまっていると気づかせる為、わざわざ一肌脱いだのだった。
「恥を覚える者も居るだろう! だが! これに懲りたなら自他の実力を正しく測るようになれ! それこそが生き残る為の一歩だ! 以上!」
「えぇ〜ありがたいお言葉が身に染みましたね! 本当にありがとうございました! それでは次のプログラムまでお昼休憩となります! 各自、英気を養いましょ〜!」
我修院 唯華の締めの言葉でその場は解散となった。各々テントに戻る中、天陽学園の生徒が響達の元へ顔を出した。
「なんだ?」
「済まなかった。君達を侮り、無礼な態度を取った。この通りだ」
少年の言葉を皮切りに謝罪を口にし頭を下げる生徒達。
「反省したならもう兎や角言わねぇよ」
響は振り返り、天陽院の仲間に問いかける。勿論、皆も同じだと頷く。
「手な訳だ。午後も手ぇ抜かねぇから」
「ありがとう……そして、望む所だ」
不敵に笑う両校生徒。燃ゆる闘志は先程までより健全なものであった。
そしてまた1人響達の元へ生徒が歩み寄る。
「お兄様! 澄歌はお兄様とご友人方の力を信じておりました! 」
秋の妹の武見 澄歌が目を輝かせながら褒め称える。
「澄歌も中々だったよ。最初のとか10秒切ってたよね」
「えっ! 見て下さったのですか!? 光栄ですお兄様〜!」
「俺は何を見せられてんだ……」
感激とばかりに秋に抱きつく澄歌。度を越したブラコンぶりとそれに平静で対応する秋に響は呆れた声を漏らしていた。
それからは昼食を済ませ、午後のプログラムが始まる。
天陽学園の1年生は午前では遅れを取っていたが、響達の実力を認め、自身の驕りを痛感するようになってから動きが良くなる。
いつもはプライドが自信となり陽力の質を上げていたが、午前の部の初めに打ち砕かれた事で逆に質を大きく落す結果になっていたのだ。
だが遥の思惑を知り、己の驕りに気がついた生徒。午後の部からは正しく自他の実力を押し計り、己を律して訓練に励む。
───心の持ちようが変われば肉体も変わる。
生徒たちの動きは良くなり、成績の平均は大きく上がるのだった。
「へぇ……! こりゃ、こっちも負けてらんねぇな……!」
その様子を見て響達もやる気が満ちる。互いに良い影響を与え合う生徒達の姿は、正しく交流会の趣旨を体現しているのだった。
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