第2話
教室に戻っている途中、いきなり背後から突かれた。
「うわっ!」
驚いて振り向くと、そこに立っていたのは京葉。相変わらず心の奥底が読めない不思議な微笑みを湛えている。
「大光さん。こんにちは」
「あ……う、うん。こんにちは」
まだ何か言われるんじゃないかと思い身構える。
「大光さんにお願いがあって」
「お願い?」
「や、責任を取ってもらおうかな〜と」
ん? 責任?
「……何の!?」
「運命の人、ですよ」
京葉はウィンクをしながらそう言った。
「何それ……」
「や、私占いが好きなんですよ」
「うん、知ってる。それで?」
「この前、よく当たる占い師の人に見てもらったんです。その時に言われてたんですよ。今日、この日に『好きだと言ってくれる人が運命の人』だって」
「じゃあ俺じゃなくて依頼人だな」
「いえ。大光さんですよ。だって、好きだと直接言ってくれたのは大光さんですから。よって、私の運命の人は大光さんなんです」
「依頼人がそれを知ってたら直接告白してたんだろうな……」
「や、そういうたらればの話はいいんですよ」
「占いなんてたらればの塊みたいなものじゃないのか……?」
京葉は「ま、そうですね」と受け入れる。占いが好きと言う割にはディスられても受け入れていることから、また彼女の不思議な面が際立ってくる。
「ま、それはそれとして。放課後は暇ですか?」
「あ、う……うん。夜までなら暇だけど」
「星座は何座ですか?」
「蟹座だけど……」
「お、じゃあそろそろ誕生日ですね。今日のラッキーアイテムは……ジェラートですよ」
京葉がスマートフォンを見ながらそう言う。なんだかんだで占いは好きらしい。後は……血液型占いとMBTI診断だろうか。
「へぇ……ちなみに血液型はA型」
「や、それはいいです。血液型で4パターンに分けて占うのはさすがに大雑把すぎるので」
「そこは違うんだ!?」
「科学的根拠もありませんからね」
「それは星座占いも同じじゃないのか……?」
わからん! 京葉の線引きが分からん!
「ま、そういうわけで、放課後に校門の前で待ち合わせしましょうか。駅前の商店街に最近ジェラート屋ができたらしいのでそこに行きませんか?」
「あ……う、うん」
「ふふっ。それじゃ、放課後に校門で待ってますね」
掴みどころのない笑みを浮かべて京葉が立ち去る。
告白代行、コスパがいいバイトだと思っていたのだが、初日から中々大変そうな人に絡まれてしまったらしい。
◆
廊下の曲がり角から、大光と京葉が話しているところをこっそりと見つめていたのはもみじと璃初奈のふたり。
「なんで私達がこんなコソコソしないといけないのよ!?」
璃初奈がもみじに耳打ちする。
「えー、だって一応邪魔しない方がいいかもしれないし? やっぱり京葉ちゃんは本気なのかなぁ?」
もみじは新しいゴシップを見つけたからなのか、一人で楽しそうにそう言った。
「あんな嘘告白を本気にするなんてどうかしてるわよ」
「あ、璃初奈隊長! 二人はジェラートを食べに行くらしいでありますよ!」
二人の会話に聞き耳を立てていたもみじがそう言う。
「ジェラートか……もみじ、ジェラート食べたくない?」
「えへへ〜、食べた〜い。ジェラシージェラートがいいなぁ」
「べっ、別に嫉妬なんかしてないわよ!」
「でも、ついていくんだよねぇ?」
もみじのおちょくるような視線に対し、璃初奈は顔を赤らめながら頷いた。
「告白の代行とかふざけんじゃないわよ。言われる側のことを何も考えてないじゃない。もう一度あいつときちんと話したいの。こんなこと、馬鹿げてるから」
「ふ〜ん。また別の人の代行で急に告白されちゃうかもよ?」
「そっ、それは……まぁ……仕方ないわね」
もみじはニヤニヤしながら「誘い受け〜」と言い、璃初奈の手を引いて大光と京葉に見つからないようにしながら教室へと向かった。
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