19 お高い買い物

 自然環境適用。

 そんなものを見つけた。


 夜がさ、ダンジョンの天井は星空に見えるのにさ、虫の鳴き声とかないから不気味だったんだよね。だから虫モンスター出すしかないのかなって思ってダンジョンスマホを眺めてたら、いいのがあった。


 でもちょっとお高い買い物になるよ。

 オートで整えてくれるみたいだから便利ではあるよね。


 水場にはアメンボとかザリガニとか。

 畑にはミミズとか芋虫とかダンゴムシとか。

 林には鈴虫とか蝉とか天道虫みたいなの。蝶々とかも出てくるみたい。


「どう思う? 僕はいいと思うんだけど」


「太一くんの好きにするべき。失敗しても、それは学びになるわ」


「ミミズがいるなら、畑もいいものになりそうですね」


「つまりさらに美味しいお野菜ができるってこと? お義母さん」


「そうなります」


「じゃあやるしかないじゃん!」


 どうせなら自然環境を整えるなら、1~3層全部にしたほうがいいよねえ。

 水場、土、草木にそれぞれ5,000ポイント。

 そして3層分で45,000ポイント。


 こういうことをやっていかないとダメだから、階層を増やすっていうのは結構大変って理解したよ。貯めるとなると、僕だけじゃ2日以上かかるポイントだ。今はレーナ姉ちゃんもいるから、1日チョットあれば貯まるけど。


 でもさ、普通なら人を呼び込んだりさ、お宝とか戦闘用モンスターとか迷路とかも用意するんだろうしねえ。


 みたいなことを言ったら、レーナ姉ちゃんからダンジョンマスターの普通はまだないってお返事をもらいました。

 そういえばレアスキルだったよ。


 ダンジョンによって、みんなそれぞれ違うみたい。


 僕なんて今はリビングで相談しながら、ダンジョンの改造をやってるしなあ。ポチポチするだけだからね、ダンジョンスマホを。他のダンジョンマスターは、基本的にダンジョンの中にいるみたい。


 僕がダンジョンに入らなくても操作できることに気付いたのは、冒険者ギルドの地下室に階段を設置するとき。

 実は結構最近です……。


 支部長と相談したときには、全然考えてなかったんだあ。

 レーナ姉ちゃんは僕がスマホでやってるのを見てるから、できるものだと思い込んでたそうだし。


 できなかったらただのポンだったよね。

 アブナイアブナイ。


「じゃあ行こうか、太一くん」


「分かったー。行ってくるね」


 今日はねえ、冒険者さん用の自動改札機が来る日なんだ。だから僕とレーナ姉ちゃんは、ギルド側の出入り口のところで待機するのです。 

 予定ではあと30分くらいで到着するって連絡が来たよ。


 僕らはメーカーさんが設置してくれるのを、見てるだけなんだけどね。

 でもさ、自分ちに自動改札が付くってテンションが上がると思わない?

 普通は駅にあるものなのに、自分ちにあるんだよ。


「謎のワクワクが襲って来てるっ」


「太一くんが使うわけじゃないのに」


「そうなんだけどねー」


 僕はギルドに登録してないからギルド証持ってない。

 つまり……ピッてできないんだ。


「残念」


「Bランクに上がらないとゲートも開かないわ」


「無念んん~」


柄山からやまくん、メーカーのかたをお連れしていいかい?」


「あ、支部長さん。お願いします!」


 ついに来たよ。


「西芝の東です。今回は当社を──」


 メーカーさんの責任者の人から挨拶されたけど「ハイ」くらいしか言うことがなかった僕。

 だいたいレーナ姉ちゃんと支部長さんが進めてくれた。


 大人の力が僕には足んない。


「それで設置はどちらにいたしましょうか」


「あ、それは1層と2層を繋ぐ階段前にお願いします。こっちです!」


 案内する。

 僕のダンジョン、階段は広くしてるから大型の荷物も運びやすいよ。スロープも付いてるからね。


 元々は婆ちゃんが軽トラを、ダンジョンに入れられるほうが楽かなって思ったからなんだけど。野菜を積み込んでそのまま運び出せるしさ。さすがにギルドの地下室には車で入れないから、分解された改札を人力で運んでる。


「失敗だったかなあ。ウチから入れてもらったほうが楽だったかもです」


「いえいえ、問題ありませんよ。移動距離は少ないですから」


 確かに、みんな余裕そうではあるかな。

 だって視線が僕の頭に行ってることが多いし。

 チーちゃん大人気。


 そんなチーちゃんは、いつものように指示を出してる感じで、行く方向に頭を向けながらチーチー鳴いてるよ。「IGLみたいっすね」だって。

 チーちゃんは指揮官だったかー。


 そこもいいとこっ!


「ここ、ここにお願いします」


 2層への階段前に自動改札機を設置中。その間にレーナ姉ちゃんと駅の改札口みたいにしようかって相談する。駅員さんじゃないけど、改札横で見守るモンスター待機所みたいなのを作りたいかなって。


「それは素晴らしいアイデア。ぜひやるべきよ」


 じゃあさっそく──って思ったら、ダンジョンスマホを取り出す手をレーナ姉ちゃんに止められた。


「太一くん、それは誰もいないときにする。ダンジョンマスターの極秘部分」


「……そうでした」


「すぐ油断する」


「ははは、そういうことは慣れないと難しいものがありますからなあ」


「主任、設置終わりました」


 電源はもう付けてあるので改札口も稼働できまーす。コンセントと、魔力を電気に変える変換アダプターを設置してるからね。


 グランピング施設にもバッチリあるから、安心して欲しいです!

 電子レンジだって使えるし、冷蔵庫だってちゃんとあるよ。


「おー、なんかカッコイイし感動する」


「そう言っていただけるのは、こちらとしても嬉しいですね。で、ですね──」


 メンテナンスのことを説明された。ICカード専用機だから、費用はそんなにかからないんだって。しかもさあ、組み込んであるAIが判断するから、異常があったりとか、メンテナンスのタイミングとか、メーカーさんから連絡をくれるそうだよ。


「じゃあ、あとは改札の横を通れないようにするだけだね」


 これはみんなが帰った後の作業だ。

 さっき注意されたので、覚えてるからそんなに警戒しなくてもいいよ?

 レーナ姉ちゃん。


 では私どもはこれで、ってメーカーさんたちは帰って行った。

 ちなみにダンジョン動物園のファンが多いって言われたので、レーナ姉ちゃんに許可をもらって、ハムハムたちと一緒に撮影会をチョットだけ開催した。


 大好評でなによりですー。

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