冒険213.『たかぎ』の災難
====== この物語はあくまでもフィクションです =========
============== 主な登場人物 ================
大文字伝子(だいもんじでんこ)・・・主人公。翻訳家。DDリーダー。EITOではアンバサダーまたは行動隊長と呼ばれている。。
大文字[高遠]学・・・伝子の、大学翻訳部の3年後輩。伝子の婿養子。小説家。EITOのアナザー・インテリジェンスと呼ばれている。
一ノ瀬[橘]なぎさ一等陸佐・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「一佐」または副隊長と呼ばれている。EITO副隊長。
久保田[渡辺]あつこ警視・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。皆には「警視」と呼ばれている。EITO副隊長。
愛宕[白藤]みちる警部補・・・ある事件をきっかけにEITOに参加。伝子を「おねえさま」と呼んでいる。愛宕の妻。EITO副隊長。
愛宕寛治警部・・・伝子の中学の書道部の後輩。丸髷警察署の生活安全課刑事。
斉藤長一郎理事官・・・EITO司令官。EITO創設者。
夏目房之助警視正・・・EITO副司令官。夏目リサーチを経営している。EITO副司令官。
村越警視正・・・副総監付きの警察官幹部。あつこがEITOに移ってから、副総監の秘書役を行っている。
増田はるか3等海尉・・・海自からのEITO出向。副隊長補佐。
金森和子二尉・・・空自からのEITO出向。副隊長補佐。
馬場力(ちから)3等空佐・・・空自からのEITO出向。
馬越友理奈二曹・・・空自からのEITO出向。
大町恵津子一曹・・・陸自からのEITO出向。
田坂ちえみ一曹・・・陸自からのEITO出向。
浜田なお三曹・・・空自からのEITO出向。
新町あかり巡査・・・みちるの後輩。丸髷署からの出向。副隊長補佐。
結城たまき警部・・・警視庁捜査一課からの出向。
安藤詩三曹・・・海自からのEITO出向。
日向(ひなた)さやか一佐・・空自からのEITO出向。伝子の影武者担当。
飯星満里奈・・・元陸自看護官。EITOに就職。
稲森花純一曹・・・海自からのEITO出向。
愛川静音(しずね)・・・ある事件で、伝子に炎の中から救われる。EITOに就職。
工藤由香・・・元白バイ隊隊長。警視庁からEITO出向。
江南(えなみ)美由紀・・・元警視庁警察犬チーム班長。EITOに就職。
伊知地満子二曹・・空自からのEITO出向。ブーメランが得意。伝子の影武者担当。
葉月玲奈二曹・・・海自からのEITO出向。
越後網子二曹・・・陸自からのEITO出向。
小坂雅巡査・・・元高速エリア署勤務。警視庁から出向。
下條梅子巡査・・・元高島署勤務。警視庁から出向。
高木貢一曹・・・陸自からのEITO出向。剣道が得意。
筒井隆昭・・・伝子の大学時代の同級生。警視庁からEITO出向の警部。伝子の同級生。
青山たかし元警部補・・・以前は丸髷署生活安全課勤務だったが、退職。EITOに再就職した。
河野事務官・・・警視庁からのEITO出向。
財前直巳一曹・・・財前一郎の姪。空自からのEITO出向。
仁礼らいむ一曹・・・仁礼海将の大姪。海自からのEITO出向。
橋爪警部補・・・丸髷署生活安全課刑事。愛宕の相棒。
久保田嘉三管理官・・・EITO前司令官。斉藤理事官の命で、伝子達をEITOにスカウトした。
中津健二・・・中津興信所所長。
中津[西園寺]公子・・・中津興信所所員の1人だが、中津健二と結婚している。
中津敬一警部・・・中津健二の兄。捜査一課、捜査二課、公安課、EITOとの協同捜査等を経て、副総監付きの特命刑事となる。警視庁テロ対策室所属。村越警視正の部下。
高崎八郎所員・・・中津興信所所員。元世田谷区警邏課巡査。
泊哲夫所員・・・中津興信所所員。元警視庁巡査。元夏目リサーチ社員。
根津あき所員・・・中津興信所所員。元大田区少年課巡査。
山城順・・・伝子の中学の後輩。愛宕と同窓生。今は、非常勤の海自事務官。
山城[南原]蘭・・・山城の妻。南原の妹。
物部一朗太・・・伝子の大学の翻訳部の副部長。故人となった蘇我義経の親友。
依田俊介・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。あだ名は「ヨーダ」。名付けたのは伝子。やすらぎほのかホテル東京支配人。
依田[小田]慶子・・・依田の妻。やすらぎほのかホテル東京副支配人。
小田祐二・・・やすらぎほのかホテル社長。伊豆のホテルが本店。箱根にもホテルがある。小田慶子の叔父。
福本英二・・・伝子の大学の翻訳部の後輩。高遠学と同学年。大学は中退して演劇の道に進む。今は建築設計事務所に非常勤で勤務。
福本[鈴木]祥子・・・福本が「かつていた」劇団の仲間。福本の妻。
南原龍之介・・・伝子の高校のコーラス部の後輩。元高校の国語教師。妻文子と塾を経営している。
南原[大田原]文子・・・南原の妻。
服部源一郎・・・南原と同様、伝子の高校のコーラス部後輩。
服部[麻宮]コウ・・・服部の妻。
渡伸也一曹・・・EITOの自衛官チーム。GPSほか自衛隊のシステム担当。
草薙あきら・・・EITOの警察官チーム。特別事務官。ホワイトハッカーの異名を持つ。
大蔵太蔵(おおくらたいぞう)・・・EITOシステム管理部長。
本郷隼人二尉・・・海自からEITO出向のシステムエンジニア。本郷弥生2等陸佐の弟。
中島空自二佐・・・MAITO班長。
島袋英一警部・・・高速エリア署交通課課長。
西部警部補・・・高速エリア署刑事。
鈴木栄太校長・・・高峰舞子の通う小学校の校長。ある事件以来、伝子とEITOの協力者になる。
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==EITOとは、Emergency Information Against Terrorism Organizationを指す==
==エマージェンシーガールズとは、女性だけのEITO本部の精鋭部隊である。==
午後1時。やすらぎほのかホテル東京。宴会場。
今日は、伝子の退院祝いのパーティが行われていた。丸テーブルが幾つも並び、テーブル席以外にも、料理が用意されている。まるで、誰かの結婚式披露宴だ。と言うのも、実は、式のキャンセルが出たので、小田社長が無料招待し、用意させたのだ。本来は、依田や慶子はスタッフだが、「大文字伝子の身内」という出席をしている。しかし、進行は依田と慶子が行っている。
「何はともあれ、ご挨拶を副部長から。」と、依田は、マイクまで移動し、物部を呼んだ。「ん。依田はやっぱりMCが上手い。さて、大文字。流産にもめげず、よくリハビリしてくれた。事件が起こる度、陰でエマージェンシーガールズをサポートしてくれた、と一佐から聞いている。俺達も鼻が高い。DDメンバーのリーダーを誇りに思っている。とにかく、乾杯だ。退院おめでとう。乾杯!」
皆、異口同音に乾杯した。
伝子が手招きをしたので、慶子が伝子のテーブルにハンドマイクを持って行き、伝子に渡した。
「みんな、こんな豪勢な退院祝いしてくれてありがとう。実は、一つ謝っておかなければいけないことがあります。」「何ですか?」と福本が、つい発言した。
「あなた、聞きなさいよ、先輩の話を。」と慶子が窘めた。
伝子が、子供のことを告白するのでは?と高遠は内心ヒヤヒヤしたが、そうでは無かった。
「昨日の退院襲撃は、予想し警戒した上のことでした。そこにいる、中津興信所の根津所員から連絡を受け、大町と警戒態勢で出発しました。敵は、高速で待ち受けていました。トラックは燃料を殆ど空にしてから、横転しました。そう、ハンドル操作を誤ったのではなく、わざと横転させたのです。」
「え?スタントですか?」と若い高木が思わず叫んだ。
「凄いテクニックだな。」と山城が呟き、蘭が袖を引いた。
「そうです。南部さんにお願いして、東栄経由でフリーのスタントマンを見付けました。事故を110番したのは、後続車のドライバーではなく、彼自身でした。発火装置を着けて、キャンピングカーに一緒に乗りました。交通整理の偽警官は、バイトの素人を半グレが雇ったんです。」
「今朝、レンタルの衣装を返しに来たそうよ。手下がすぐに警察に逮捕、連行したわ。」と、みちるが言った。
「取り調べをした橋爪警部補によると、闇サイトのバイト募集に応じたようです。映画の撮影だと信じていました。」と、愛宕が言い添えた。
「最近は、色んなサイトがあるんだなあ。」と、服部が感心した。
「半グレの会社のPCに、以前犯罪に使われたChot GPTがアバターの姿で指示を出していました。」
「じゃ、大文字。『操られ系』の犯罪か?」
「そう。サンドシンドロームが直接関与していなくても、ダークレインボーとは無縁とも言い切れません。」と高遠が伝子の代わりに応えた。
「僕から、少し、補足しましょう。Chot GPTとは、過去のデータから推測するプログラムのことです。過去に、闇ネットに利用され、その指示通りに罪を犯した者達がいます。今回は、そのパターンです。そのプログラムは、材料となるデータを入力すると、こういう犯罪が可能という、言わば『犯罪のレシピ』を造ってくれるのです。」と本郷が説明した。
「レシピ・・・じゃがいも・牛肉って入れたら、カレーとかすき焼きのレシピ出してくれるとか、そんな感じかしら?」と、文子が言った。「それは、便利ね。」とコウは同調した。
「うまい例えですね。そんな感じですね。」と、本郷は笑った。
「僕は、そのレシピに従い、先の文章を見ると、誘拐した我々とお金を那珂国人に渡して、麻薬を入手する計画を掴んで、先回りして貰ったんです、エマージェンシーガールズに。そして、愛宕さん達に連絡して、待った。」と、高遠が言った。
「横転と、DDバッジのショートが想定外だったけど、上手く行った。」と伝子が言ったが、「以前のもそうだったけど、そのPCからは盗撮されていて、失敗とみるや通信記録を消した上で、自動的にアプリを削除しています。」と高遠が残念そうに言った。
「ま、皆が知りたがっているの事件の概要は、こんなところだ。小坂と下條は襲われることを知らなかったが、よくやった。」と伝子が言い、だから褒めたんだよ。」と、あかりが言った。
「先輩―。」と言いながら、小坂と下條は、あかりの両頬にキスをした。
あかりは、目を白黒した。
「さあ、そろそろ、目の前にあるご馳走から頂こうじゃないか。」と物部がまとめた。
宴会は3時間でお開きになった。一日貸し切りではないのだ。
「井関さん。これ、上で待機しているジョーンズさんに。ツナサンドと卵サンドです。」と、慶子が井関に渡した。
皆は次々と、ホテルから出て行ったが、愛宕は、陰に潜んでいた中津健二に尋ねた。
「異常は?」「おおあり。様子を伺っていた者を、ウチの高崎、泊が尾行中です。油断大敵という言葉がありますが、大文字さんには隙がないのですね。」
「いえ。そんなこと言ったら、怒られますよ。隙を突かれたことは、何度もあります。だから、入院中に、昨日のことや今日のことの善後策を練っていたんです、ベッドの上で。」
「やっぱり、叶わないな。兄貴が『普通の人じゃない』って言う訳だ。」
感心する中津に、「じゃ、我々は署に戻りますので。」と言って愛宕は、待っている、みちるとあつこの元に小走りで近づいた。
「俺達も、一旦会社に戻ろう、根津。運転頼む。」「了解しました。所長、飲んでいるんですか?」「ちょっとな。交通ルールは守らないとな。」
2人は駐車場に急いだ。
その様子を物陰から見ている者がいた。更に離れた所で、監視している者がいた。
午後4時半。やすらぎほのかホテル東京。屋上ヘリポート。
元来は、救急のヘリポートだが、オスプレイが2機とまっている。
なぎさが、伝子を呼び止めて、「おねえさま。愛宕さんから、やはり張り込みしている人間がいた、と報告がありました。」と報告した。
「そうか。EITOに着いたら、今日はバイクで送ってくれ。」「いいんですか?」「台所の出入りはリスクが大きい。止むを得ないだろう。」「了解しました、おねえさま。」
午後5時。
なぎさは、バイクでEITOを出発した。志願した江南と工藤が距離を置いて、追尾する。
高速入った直後に、バイクが追走してきた。
念の為、高遠は別行動で物部達の自動車で帰宅することにして良かった、と伝子は思った。
追走してきたバイクは、引火し、ドライバーは火だるまになったまま、走った。
なぎさは、すぐに減速、カーブに差し掛かる時に、バイクを反転した。
伝子を振り落とすことなく、リターンした。
バイクは炎上している。
「MAITOは間に合わないな。あ。来たか。」
前方からMAITOのオスプレイが、到着した江南達のバイクの後方から、パトカーがやって来た。MAITOから消火弾が落ちて、すぐに鎮火した。
MAITOのオスプレイから中島空佐が、パトカーから、島袋警部と西部警部補が近づいて来た。
「初めまして、EITO隊長の大文字伝子です。」「また、遭いましたね、皆さん。副隊長の橘です。」釣られて、3人も自己紹介をした。
伝子となぎさが挨拶すると、「お美しい。」と西部が言い、「いいんですか、素顔になっても?」と中島が言った。
「お身内ですから。他の車が来たら、ヘルメット被ります。どうも時限装置で発火したようなのですが・・・。」と、伝子が中島に言うと、中島の部下が「仰る通り、時限装置らしき破片があります。」
間もなく、救急車がやって来た。伝子達は、ヘルメットを被った。
「後処理はお任せ下さい。道中、お気をつけて。」3人は、それぞれ敬礼をした。
午後6時半。伝子のマンション。
伝子のスマホが鳴動した。伝子はスピーカーをオンにした。
「おねえさま大変なことが分かりました。火だるま男は、先日トラックを横転させた男でした。半グレの仲間だと思っていたら社員にはいませんでした。おねえさま達を監禁した後、行方知れずでしたが・・・ちょっと待って下さい。」と、あつこは、電話を保留にした。
「おねえさま。Zedで確認して下さい。サンドシンドロームが声明を出したようです。」
高遠は、スマホでZedを起動し、サンドシンドロームの動画を再生した。
《
頼みもしないのに、余計なことした者がいる。こちらで、処分したから、安心しろ。次の計画は、明日中に発表してやる。楽しみにしていろ。
》
「楽しみには、ならないな。やはり、別口だったというのは確かに助かるニュースだけど。・・・。」
「今夜は早寝出来ないな。」「うん。午前0時1分でも明日だからな。」
翌日。午前0時1分。
高遠がZedを見ていると、しっかり、サンドシンドロームのアップロードがあったようだ。
《
小学校の生徒、小学校の父兄、小学校の教師、小学校の校長が酷い目に遭うとしたら、どうするね?隊長さん。
》
「今度は、『大文字伝子』って言わなかったね。まあ、死んだことになってるけど。」
EITO用のPCが起動した。
「起きていたのか、大文字君。」と夏目警視正が驚いた。
「まだ、宵の口ですよ。どうやら、他の『幹』のようにヒントを与えていたぶる方針に変えたようですね。キーワードは、『どこの』より、『何故、対象を4種類羅列した』か、ですね。」
「私も、そう思う。明日、会議しよう。午前9時だ。お休み。」
画面の警視正の姿は消え、もう映っていない。だが、伝子はまだ見ていた。
「お風呂、今沸かしてる。」「気の利く婿だ。来い!可愛がってやる。」
伝子は高遠を無理矢理、寝室に連れて行った。
やっぱり、普通の家と違うんだろうな、と高遠はおぼろげに思った。
午前9時。EITO本部。会議室。
「昨夜、学とブレーンストーミングしました。小学校を連呼しているのは、同じ名前だろうという結論に達しました。学校のことなら、と南原に電話しましたが、鈴木校長のルートで調べたらどうか?ということになりました。そこで、今朝、出勤前の鈴木校長に電話して、校長の名字と小学校の名前が一致する小学校を調べて貰うよう、依頼しました。」
その時、伝子のスマホが鳴動した。伝子はスピーカーをオンにした。
「ありましたよ、大文字さん。1件目が『たかぎ』、2件目が『しばた』、3件目が『なりた』、4件目が『やまなか』。東京都では以上です。他府県なら、もっとありそうですが、東京都だけでいい、ということで。平仮名で判断して欲しい、ということなので、1件目は漢字では違う文字だけど、入れました。大文字さん。ひょっとしたら、誘拐ですかね?」「可能性は高いと思います。その場合は、救出が遅れれば、命が危険です。」
「ああ、心配だなあ。結果、教えて下さいね。」電話は切れた。
「資料は、学のPCアドレスに送るようにお願いしてあります。届いていれば、転送しています。」と、伝子が言うと、「よし、警察から小学校に協力依頼して貰おう。久保田管理官。」
「了解しました。河野事務官。そのデータを、こちらにも転送して下さい。」久保田管理官の画面は消えた。
「おっと、理事官。こちらにも転送願いますよ。聞き込みは任せて下さい。」中津健二の画面も消えた。
「教師と校長は一致するのかしら?校長先生も教師ですよね。」と静音が言った。
「父兄と生徒も同じ家なのかしら?」と馬越が言った。
午後1時。会議室。
「高来小学校の高木校長、この小学校には、高木校長の娘、高木鈴子が教師として勤務している。そして、小学2年生の高城美佐がいる。ところが、美佐ちゃんには、家族がいない。事故で亡くなったからだ。それで、里子になった。里親の名字は小鳥遊だ。小鳥が遊ぶ方だ。高い梨の木じゃない。ここで行き詰まってしまった。そこで、中津君のアイディアで、校長に、子供の名字が『たかぎ』でない、養父母の名字が『たかぎ』のケースを探して貰った。1つだけ当てはまるケースがあった。生徒の名字は山口だが、養父母の名字が『たかぎ』だ。こちらは、高い樹木の方の『たかぎ』だ。」と理事官が説明した。
「4つの名前が揃ったところで、皆が集合する場合と言えば、運動会だ。明日は、運動会の予行演習だ。」と伝子が言うと、浜田が「隊長、いつですか?予行演習と言えば、入場行進とかですよね。」と伝子に尋ねた。
「いや、その前に準備だ。今すぐ行こう。『酷い目』が気にかかる。みんな、行こう。中津さん達に、マルタイ、いや、高木校長と高木先生から目を離さないように言って下さい。」
午後3時。高来小学校。
入り口近くに、自動車が2台止まっていた。オスプレイからホバーバイクが降り立ち、その自動車の近くに停まった。ホバーバイクとは、民間開発の『宙に浮くバイク』をEITOが採用、改造した、運搬・戦闘用バイクである。
EITOガーディアンズの青山が降りて、中津に尋ねた。「中の様子は?」
「30分位前に、職員室が占拠されました。立てこもりですね。指示通り、一旦引いたのは正解でした。」と応えた中津に、警察を呼ぶことも出来ないでしょうね。」と青山は言った。
「SATには連絡してありますが、飽くまでも隠し球です。」「分かりました。潜入ですね。」と公子は言い、勝手に校庭から職員室に向かった。
「高崎。お前はお父さん役だ。」と、中津健二は言い、青山にウインクした。
公子と高崎が渡り廊下を進んで行くと、校舎から男が2人出てきた。
「どこへ、行く?」「職員室。」「許可はとってあるのか?」「おまいう。誘拐犯のくせに。」「何?」気色ばんだ男達の背後から、稲森と大町が送襟絞めで落した。
更に公子と高崎が進むと、やはり校舎から男が2人出てきた。
今度は結城と財前が出てきて、背負い投げで男達を倒した。
公子と高崎が職員室に入ると、隅に教職員達が縛られていた。公子はすかさずDDバッジを押した。
職員達を見張っていた男達が全員振り向いた。「校長先生。明日の予行演習では、寸劇も行うのでしょうか?」公子は言ってすぐ、高崎と逃げた。
追手の数人に、陰から出た、田坂、安藤、浜田が矢を放った。怯んだ彼らに、あかり、下條、小坂のシュータが跳んだ。シュータとは、うろこ形の手裏剣で先端にしびれ薬が塗ってある。足止めのシューティングは、あかりが一番上手い。
一方、職員室には、催涙弾が投げ込まれ、金森とあつこがブーメランで敵を倒した。
猛毒ガスを身に着けた、馬場と井関が職員達を誘導した。
「おねえさま、職員室には、親子がいないわ」。と、あつこはインカムに叫んだ。
「了解。職員と生徒の誘導は、あかり達に任せて、井関と校庭に出てくれ。」伝子の指示に、あつこは頭にたたき込んだ、この学校の見取図を思い浮かべ、裏口に回ってから校庭に出た。
校庭では、ケージに入れられた数組の親子が見えた。そして、そこに続々と武装した集団がトラックに乗って集結をしていた。
目を凝らして見ると、ケージの中の親子には、ダイナマイトのジャケットが巻かれている。「成程ね。井関君。分かってるわね。」「勿論です、警視。」
トラックから降りた男達を、リーダーらしき男が見渡して言った。
「よし、揃ったな。」とリーダーが言うと、「点呼は要らないぞ。」と言う声が聞こえた。
リーダーが、声の方を見ると、装甲車が2台、こちらに向かってくる。装甲車の上には、エマージェンシーガールズの姿の伝子と、なぎさが乗っている。
「馬鹿な!!」集団の男達は、装甲車目がけて拳銃や機関銃を乱射した。
伝子となぎさが、素早く飛び降りると、静かに併走してきた、高木と青山が運転するホバーバイクに乗り移った。
SATの装甲車は、容赦なく集団に突っ込んでは蹴散らして行く。
どこからか現れたエマージェンシーガールズは、ペッパーガンと水流ガンで敵に射出した。ペッパーガンとは、胡椒等を主成分にした弾を撃つ銃で、水流ガンとは、射出するとグミ状に変化しる水を撃つ銃である。
敵の戦闘能力の殆どを奪ったエマージェンシーガールズは、バトルスティックで男達の電磁警棒やバットに向かって行った。バトルスティックは3段階に変化する棒で、この先端にも痺れ薬が塗ってある。
午後4時半。
闘いを終えた伝子は、長波ホイッスルを吹いた。
その時、集団の男達の乗って来たトラックが爆発炎上した。
伝子は悟った。長波ホイッスルを利用されたことを。敵は既に長波ホイッスルの周波数を解析している。それで、メッセージを送る際にその周波数の音声を仕込んだりする。
長波ホイッスルの長波で、トラックの起爆装置を作動させるのは造作もないことだ。
トラックの爆発で、近くにいた男達は吹き飛んだ。サンドシンドロームは失敗には容赦がない。やはり、あのスタントマンは殺されたのだ。
救急車のサイレンが聞こえる。MAITOのオスプレイがやって来て、爆発したトラックを鎮火した。なぎさが呼んだのだ。
エマージェンシーガールズ、EITOガーディアンズが伝子の元にやって来た。
後ろから、あつこが声をかけた。「おねえさま。誘拐されていた人達を、一足先に病院に運ぶわ。」「うん、そうしてくれ。」伝子があつこに応えると、あつこは井関、飯星と共にオスプレイに向かった。
「やられたな。」そう言ったのは、SATの守谷隊長だった。
運動場の端の方では、逮捕された集団が警官隊に連行されていく。
大町達が戻って来た。「隊長。避難誘導した生徒や職員達、帰宅させてよろしいでしょうか?」
「うん、そうしてくれ。」と、伝子が応えると、ホバーバイクの筒井がやって来た。
沢山の機器を箱に入れてある。「戦闘を記録する積もりだったようだな。すぐに通信不能にした。戦闘中も探したが、もう無かった。」
「捕まった人達に死傷者がいなかったのは、幸いですね。」と、愛宕が言った。
「筒井。長波ホイッスルは改造が必要になった。」伝子は手短に状況を説明した。
「敵は、どの程度、我々の戦闘力を把握しているか分からない。困ったもんだ。お前の正体も知っているから、もう替え玉で誤魔化せないし。」
2人の会話に公子が入った。
「それでも闘う。かっこいいわ。主人捨てて、大文字さんと不倫をしようかな?」
「中津さんが泣くな。」と伝子が言うと、「ボスの泣き顔、想像しちゃいました。」と、中津興信所の泊が言い、あきが笑った。
中津警部と中津健二がやって来た。「お前、後悔してるだろ?」「流石は、兄貴だ。」
MAITOの中島二佐がやって来て、伝子に、あるものを手渡した。
「トラックの下に受信装置があったようです。炎上したトラック以外のものは不発だったようです。どこからかリモートしたんでしょうね。」
「大文字、そろそろ、引き上げるか。」「そうだな。なぎさ。」
「了解しました。」なぎさは、にっこり笑って言った。
「未亡人か。感じさせないな。」と思わず言った、中島に「MAITOが火傷しちゃ洒落にならんでしょう。」と橋爪警部補が呟いた。
愛宕と筒井は必死に笑いを堪えた。
―完―
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