金気を感じる
カナデさんはその日、実家から届いたお茶を飲んでいた。今年の茶葉は当たり年なので是非娘のマキさんにも味わって欲しいということだ。
「そのときなんですが……なんだかお茶が……美味しいことは美味しいんですけど、違和感みたいなものがあって、でもわざわざ大学で県外に出てる私に贈ってくれたものに文句なんて言えないじゃないですか? だから気にせずお茶を飲みきったんです」
一杯の急須が空になって、なんだか金属のような味がしたなあと言うのが感想だった。しかし、ポットを普段から使う習慣がないのでヤカンを棚から取り出してお湯を沸かしたのだが、そのとき使ったものが金属製だったので、金気がお茶に移ったのだろうと思っていた。
それからお茶を毎朝一杯飲んでスッキリした気分で出かけていたが、いろいろなお湯の出し方をしても金気は消えなかった。一回茶葉をパックに入れて、それを水に入れてから陶器製のマグカップをレンジで温めた。これならどこにも金気が出る要素は無いはずだ。そうしてマナーの悪い淹れ方をしたお茶を口に付けたのだが、やはり金気はあった。
どうしてだろうとは思ったが、たぶん今年はそういう茶葉がとれたのだろうと思っていた。
そうしてお茶を空っぽになるまで飲んでいたら年末になった。就職したら帰省が難しくなるのは分かっているので、年末年始は帰省をすることにした。
早速1年次にとった運転免許で某軽自動車を走らせ実家に着いた。高速を使うと結構な額になるので全て下道で帰った。着いた頃には日が落ちていたので実家の父母はなかなかに歓迎をしてくれた。
『お前ももう就職するのか』
そんな他愛ない様々な事を話していた。卒業して就職してしまえばこんな気軽な会話も電話ごしになるのだろうと残念に思えた。
そんな時、母から思わぬ事を聞いた。
「あのお茶、飲んでくれた?」
「飲んだよ、美味しかったね」
さすがにここであまり美味しくなかったとは言えない。そのため誤魔化しつつ美味しかったと答えると母は続ける。
「良かった! あのお茶はもう取れないだろうし、きっと最後にあなたが飲めて良かったわ」
最後、と言う言葉が引っかかったのでどういう意味なのかと訊いた。
「最後って? お茶を作るの辞めちゃうの?」
その茶畑は有名なところで、毎年良質なお茶を売っており、突然中止するとは思えなかった。
「あそこの跡継ぎ、息子さんが居たでしょ? そろそろ今の人が後を譲ろうかって聞いたんだけど、その後息子さんが怪我をしちゃってね、命に別状はないんだけど血が結構流れるような怪我をしたのよ、それが原因で手に力が入らなくなっちゃったのよ」
血がたくさん? その言葉に嫌な予感が頭をよぎる。だが、彼女はそれを尋ねることはしなかった。わざわざ人の怪我の事情を聞いて嫌な思いをしたくはなかった。もうすでにお茶は全部飲んでしまっているのだから今更気にすることでも無いだろう。
「そうなんだ、ざんねん」
そう答えて無難な年末年始を過ごし、大学を卒業したカナデさんは毎年帰省はしているのだが、昔美しい景色を広げていた茶畑はすっかり見る影も無くなってしまったらしい。
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