リボンの子供
世の中には様々なリボンをロゴマークにした社会運動がある。しかしクドウさんはそんなロゴマークを苦手としているらしい。彼曰く『リボン自体が苦手』だそうだ。その理由は小学生の頃にまでさかのぼるという。
「別に誰が悪いとかそう言う人間がどうにか出来ることでもないんでしょうけどね」
まだリボンをマークにした運動などほとんど知られていなかった時代、小川で遊んでいた。そんな時、川の中程に女の子が立っていた。その子がつけていた鮮やかな水色のリボンは今でもしっかり覚えている。そのときは友達? だったっけ? とよく分からないままその子と遊ぼうと岸辺からそちらに向かった。
少し進むと途端に足が浮いた、そう言えばこの川は浅瀬と深いところの差が極端になっているのを忘れていた。溺れそうになったところを一緒に遊んでいた友人の父親が腕を引っ張り助けてくれた。ただ、親への連絡は水でびしょ濡れになっている以上避けられず、ひどく怒られてしまった。そのときに友人の父親も友人も『女の子なんていなかった』と言うし、そもそも考えてみれば自分が溺れるようなところより向こう側へ、自分とそう年の変わらない子供が膝くらいまでしか水に浸かっていないのがおかしい。あの場所なら足がつくはずは無いだろう。
そのときは言い訳をしようとしたと思われてこっぴどく叱られただけだった。溺れたといってもずぶ濡れになったところですぐに助けてもらったので水を飲んだりはしていない。だからだろうか、その事をそれ以上両親も咎めなかった。
次にリボンをつけた子供を見たのは高校生になったときだ。高校まではそれなりに距離があり、かと言ってバスや電車が使いやすいような場所ではない、そこで必然的に原付免許を取ってそれに乗って通学をしていた。
ある夕焼けの中を帰っていたときのこと、下り坂が続いていたのでついつい制限の30kmをオーバーしたときに突然女の子が道路に飛び出してきた。信号も横断歩道もなかったので油断しており、全力でブレーキレバーを引いたので前後輪共にロックして派手に転んだ。せめてもの救いは対向車線ではなく道路脇の方へ滑ったことだろう。後続車に救急車を呼ばれ、初めて救急車というものに乗った。そのときに思っていたのは救急車の赤色灯はさっきの娘がつけていたリボンの色にひどく似ているという呑気なものだ。
結局、捻挫ということになり大した怪我はなかったが、元々中古の原付だったので修理するより買い替える方が安いと言われ、格安の原付に買い替えた。そのときも親にひどく怒られたが、子供のことは誰一人見ていないと言われてしまった。
それからしばらくリボンをつけた子は見なかったのだが、社会人になって勤めだした頃、しばし現場を見てこいといわれ現場に行ったのだが、そのときには黄色いリボンをつけた女の子が工場の中を歩いていた。危ないと思いどこから入ったのか分からないが、とにかく捕まえなくてはと思って追いかけようとしたとき、荷物を積んでいたパレットが崩れて目の前に雪崩のように滑ってきた。
責任者にはげんこつ一つと始末書を書かされたのだが、女の子のことを話すとそれは大変だと騒ぎになり総出で探したのだがその子は見当たらなかった。結局見間違えということになり追加で叱られることになった。
結局、節目節目で現れる女の子の正体は分からない。ただ、クドウさんが言うには『あの子には自分に対する殺意を感じる』ということだ。彼によると、もし自分に何かあったときにその女の子が本当にいたのか確かめてもらえるよう話しておきたいとのことだ。
分からないことは多いのだが、今彼は女の子が絶対に入ってこないような場所で働くために転職活動をがんばっている。
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