第10話 まだ敵が?
「ふぅ……よく寝た」
翌日、俺は目を覚ましてテントの外に出ると、そこは惨状だった。
「うぅん……むにゃむにゃ」
「酒だ……もっと酒を持ってこい……」
「今攻められたら壊滅だったろうな」
ある兵士は全裸で寝転がり、ある兵士は空になった酒ダルにすがりついて眠っている。
ただ、彼らの顔は気持ちよさそうで、俺も勝てて……皆が無事で良かったと思う。
「そのために、俺は人を手にかけた。あの判断が間違っていたとは言わないけど……流石に……な」
あの時はああしなければならなかった。
だから……。
「あ! ユマ様!」
「ん?」
俺が少し考えていると、村の少女が駆け寄ってくる。
手に持っている掃除道具等を見るに、朝から片づけをしてくれていたのだろう。
彼女は俺の側に駆け寄ってきてくれて、頭を下げる。
「昨日は本当にありがとうございました! ユマ様が居なかったらどうなっていたか、村の兵士の方々から聞かされていて……後1時間遅かったらもう入られていた……と」
「その助かった命、大事に使うといい」
「はい。ありがとうございました!」
「ああ」
彼女はそう言って頭を下げ、掃除に戻る。
俺はそれを見た後、どうするかと思っている所に、10歳くらいの少女が人形を抱いて走ってくるのが見えた。
「おねーちゃーん!」
「ミーネ……どうしたの?」
「あのね! お母さんが呼んでたよ!」
「そうなの? すぐ行く」
「うん!」
そう言って姉は俺に一礼をした後すぐに走り去っていく。
俺はその背を見送った後、足元に何かがいることに気づいた。
「うお」
「お兄さん。偉い人?」
「あ、ああ。そうだな。この兵士達を連れてきた中では一番偉いな」
足元にいたのはミーネと呼ばれた少女だった。
俺に気づかれずに足元に来るとはなかなかやる。
彼女は俺にしゃがむように手招きをした。
「どうしたんだ?」
「あの……あのね。この村を……助けて欲しいの」
「……どういうことだ? この村を襲っていた敵は倒したと思うが?」
「それがね……この村の近くにはまだ山賊がいて、酷いことをしているみたいなの」
「酷い……詳しく聞かせろ」
「うん……この前なんだけど、友達が山に薬草を取りにいったんだけど、その……酷い状態で帰ってきたの」
俺は少し息を整えて、続きを促す。
「それで?」
「全身酷い傷で……生きているかも怪しい状態だって……それから、少しして……お葬式をして……」
彼女はそれ以上言うことが困難だったようだ。
俺は彼女の頭を撫でて、言わせないようにする。
それと同時に怒りの炎が全身を駆け巡ったのが分かった。
「言いにくいことを言わせてしまってすまないな。だが、やることは分かった。どちらの方向かだけでも分かるか?」
「あの山の山頂……」
「あそこか」
彼女の指し示した方角は、事前に知識にいれていた場所からすると、ゲーム主人公の領地との境い目にある場所だ。
そこには確か結構重要なキャラが住んでいた……というはずだったけれど、誰だったか。
攻略本を5周したと言っても全部覚えている訳ではない。
誰だったかな……。
「お願い、村の人達は脅されていて言えないらしいの。だから……助けて」
「分かった。ちょっとお使い程度にやるだけだ。すぐにはできないが、任せておけ」
「……ありがとうございます。これ……わたしがお渡しできる宝物です」
彼女はそう言って抱いていた女の子の人形を差し出してくる。
俺は彼女の気持ちに嬉しくなり、その手を降ろさせた。
「その気持ちだけで俺は十分だ。それは君が大事に持っておくといい」
「いいの?」
「ああ、俺は次期領主としてこの村の治安を守るだけだ。だから気にしなくてもいい。その代わり、お母さんの言葉を聞いていい子にしているんだぞ?」
「うん! 分かった!」
彼女は花が咲いたかと思うような笑顔を浮かべた後、走り去っていく。
「またね!」
「ああ、またな」
それから、俺は日課の剣の素振りをしたり、起きてきたルークに昼には出立できるように準備をさせたりする。
「もう行くのですか?」
「ああ、やることができた。しっかりと準備しておけ」
「……それは……もしかして?」
「恐らくそうなるだろう。酒は絶対に残させるな」
「かしこまりました」
そう言ってルークは兵士達を起こし、酒を抜かせるために水を飲ませたり色々と行動をしてくれていた。
俺は俺で考える時間が出来て助かる。
後はこの情報の裏を……取るかどうかだ。
昨日の村長は何かを隠しているようだった。
それに、ミーネの言う様に、山賊がいるならどうして村長はそれを隠す?
この村はやはり山賊に襲われた後? 人質をとられていて、それで言うことを聞かされている……とかか?
それならどうして今俺達に言わないのか。
人質のことを考えている?
もしくは村の中に奴等の仲間がいるからか?
それなら、襲ってきた山賊と、山頂にいる山賊は敵対している?
「襲ってきたやつらと友好関係ではないと思うが……どうなっているのか」
何にしても情報が足りない。
なら、することは一つ。
「ルーク!」
「はい!」
「野盗の中で偉そうな奴らを数人連れてきてくれ」
「分かりました!」
俺はルークが連れてきた奴らを天幕にいれて話を聞く。
抵抗されるかと思ったけれど、俺を見るなり全員ガタガタと震え出して聞いていないことまで言ってくる。
「あの山には誰がいるか知っているか?」
「し、知らねぇ! 俺達はただこの村が手薄だから襲う様に言われただけなんだ!」
「そうだ! 俺達嘘つかない!」
「俺は知っている! あそこには義賊とか名乗る奴らが陣取っているんだ!」
「義賊……?」
その言葉に何かが喉から出かかる。
でも、その何かが思い出せない。
ルーナファンタジアでそんなキャラ……いた……か? そもそも、このグレイル領に義賊なんて……いた……ことない気がするが……。
それもこれもグレイル領内の不穏分子はほぼ全部ユマが消したところから物語が始まるからだ。
なので、他の切り口から情報はないかと野盗達に質問をする。
だけど、何回質問を変えたりしても、義賊がいる。
という情報以外に出てくることはなかった。
「連れていけ」
「は!」
時間だけ無駄にした気がしないではないが、一応……確認のために行くべきだろう。
兵士の酒が抜けるのを待ったり、情報を集めていたら、そろそろ昼時だ。
夜の森や山道は危ない。
今すぐにでも出発をするべきだろう。
「ルーク。動けない兵士達と、その護衛を含めた20名は置いていく」
「かしこまりました。ですが、30人でその……賊を討ちに?」
「そうなるかもしれん。話が通じたら話す。そうでなければ……まぁ、場所を探るだけでも問題ない。後日潰しに来る方がいいかもしれん」
「はい」
それから、俺達は不思議がる村人達に、昨日の野盗の残りがいないかを確認するための警備と言って村を出る。
場所は分からないけれど、ある程度の把握さえできればいいかとも思う。
そうやって馬を走らせていると、これ以上行くには馬をおいていかないといけないという所まで来てしまった。
「これ以上は無理か……」
「そうですね。大分暗くなってきました」
引き返すかそうかと思っていると、部下の1人が口を開く。
「ですが、あの山……山城にするにはとてもちょうどよくないですか?」
「……なるほど」
ゲーム知識としては確かに納得できそうな雰囲気なので、それっぽいことを言って頷く。
「しかし、このまま行くのは危険では……」
「ふむ……では、俺一人で一度見てくる。何かあったら帰ってくるので、すぐに撤退する準備だけはしておけ」
「危険すぎます! 山の中で遭難されたらどうされるおつもりですか!」
「適当に獣でも食って帰ってくる」
「いやそんな狩人みたいな……」
「という訳だ、全員待機!」
俺はそう言って1人で山を登っていく。
これにはまぁ……理由がないわけではない。
というのも、俺は……強い。
足も速いし、力も強い。
不測の事態にいざとなれば1人で逃げることだってできるだろう。
だが、他の大事な兵士達を連れていてはそれはできない。
ということで1人で進むことにしたのだが……。
「お待ちください!」
「ルーク……お前、待っていろと……お前達もか」
ルークの後ろには、彼を含めて20名もの兵士達がついてきていた。
「ユマ様を1人にはできません! ご一緒させてください!」
「そこまで言うのであればいいだろう。だが、撤退の指示をした時は聞くんだぞ? 正直山賊と山で戦うのならそれなりの装備を持ってこないといけないからな」
「はい! その際は我々がユマ様の盾になります!」
「自分の命を守れ」
俺はそれだけ言うと、山を登り始める。
そして、これなら少し登って引き返そうかを考えていた時に、明らかにアジトらしき場所を発見してしまった。
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