凶悪な悪役貴族に転生した俺は、ほぼクリア不可能なルートを努力とゲーム知識で生き残るために斬り開く

土偶の友@転生幼女2巻発売中!

第1話 起きればそこは

 俺の周囲には親友、友人、部下……共に飯を食べ笑いあった仲間達の死体が転がっていた。


 立っているのは俺1人で、仲間の死体の外側には多くの兵士が俺を囲んでいる。


 その中の1人が出てきて俺に話しかけてきた。


「投降したらどうですか? 仮にも侯爵の身分をお持ちのあなたを殺すのは忍びありません。それに、あなたは強い。殺すだけでも手勢のほとんどを失ってしまうかもしれない。どうですか?」


 俺はそいつの言葉は無視して、大事な仲間達を見つめる。


「……」


 しかし、大事だった仲間達はもう動かない。

 そんな俺が、降伏して生き残る?


「できるはずないだろうが」

「!」


 俺は投降を呼びかけてきた奴に向かって剣を振りかぶる。

 しかし、奴もそれなりに腕が立つのか、後ろに下がって躱し周囲に命令した。


「殺せ! そいつは生かしておけばこの世のためにならない! 悪は裁かねばならんのだ! 正義は我らにあり!」

「うおおおおおお!!!」

「邪魔だ」


 それから俺は正義に抗い続けた。


「ひ、怯むな! 囲め! 囲んで殺せ!」


 囲まれようが、俺が負けること等ない。


 そんな時、俺に声がかけられる。


「これを見ろ!」

「!」


 俺の大事な仲間が首筋に剣を突きつけられていた。


 俺はそれに目を奪われた一瞬。


 ドス。


「……これが貴様の正義か」

「ええ、これが私達の正義。悪を滅ぼすためには、どんなことをしても許されるのです。死になさい。ユマ・グレイル」


******


「うわぁ!?」


 俺はたった今死んだような感覚を味わって目が覚める。


「びっくりした……。俺がユマ・グレイルになるなんて」


 ユマ・グレイル。

 それは俺が大好きで、何千時間もプレイし、ランカーにもなった戦略シュミレーションゲーム、『ルーナファンタジア』の悪役貴族だ。

 彼の役目は主人公がある程度領地を大きくした後、戦争パートで正面から戦わない大切さを教えること。

 正面戦闘からでは絶対に勝てない最強の武将なのだ。

 ただ、政治が上手くいかずに領民は殺すわ、そのつけを他領から略奪をするわで嫌われる。

 そして挙句の果てに簡単に主人公の挑発に乗るし、頭がよくないので突撃しかできない。

 だから、正面から倒すのではなく、罠を張ってからめとって倒す。

 そういう役割を持ったキャラクター。


 そんな悲しいキャラクターはいるけれど、ゲームは神ゲー。

 戦略シュミレーションとは言っても遊び方は多岐に渡り、山賊プレイだったり、経済だけしか行わない経済特化プレイ、宗教で世界を統一する教主プレイ。

 等々、その自由度から様々な遊び方をできる神ゲーだ。


「またやり過ぎて寝落ちしちゃったかな……」


 そう思って俺は起き上がると、視界には広い部屋と、中世ヨーロッパ風の部屋の景色が映っていた。


「ん?」


 俺はそれが信じられず、何度か目を擦った後に起き上がって近くにあった鏡を見る。


「……これ……ユマ・グレイルじゃね?」


 そこには何回も倒してきた凛々しい顔立ちに黒色の髪。

 蒼穹の瞳は全てを吸い込むように澄んだ色をしていて、年齢は本編が始まる3年前くらいの14歳くらいだろうか。


 俺が右手を上げればユマの右手があがり、俺がソーラン節を踊ればユマがソーラン節を踊る。


「俺……まじでユマ・グレイルになってる!? やった!? いや最悪か!?」


 ユマ・グレイル。

 それは最強キャラであると共に悪役キャラである。

 それと同時に一度主人公でゲームをクリアしてから使えるプレイアブルキャラでもあるのだ。


 ただ、一つ問題がある。


「こいつのストーリー……まじでえぐい難易度なんだよな……」


 最強キャラを使うんだから、それに相応しい難易度が必要だろう?

 と言わんばかりにユマの時だけ敵の強さがえげつないのだ。


 主人公の時は簡単な罠を仕掛けてきたから、こちらはそれを回避したらいいと思うだろう。

 しかし、その罠を掻い潜ってもさらなる罠が何重にも張ってあり、少しでもミスをすると全滅する。


 そして、その主人公を超えた後でも、困難に次ぐ困難で、あまりの理不尽さに大多数のプレイヤーが攻略を諦めるほど。

 なんとかユマを生かそうと行動しても、なぜか死ぬ。

 他のキャラは亡命して生き残るエンドや、他のキャラの配下になって下から支えるルートもあるのに、ユマだけはどのルートを行っても、世界を統一して皇帝になる以外は死亡することになっていた。

 皇帝になる以外、幸せなどないと決められているように。


 俺は当然クリアをしたけれど、正直もうやりたくない。

 でも……。


「俺が……本当になったのだとしたら……」


 コンコン。


「ど、どうぞ」

「失礼します。ユマ様、朝食のお時間です」


 入って来たのは執事のゴードン。

 彼は確か……護衛もできる万能執事だ。


 年齢はかなりいっているが、日々鍛えているからかその肉体は素晴らしい。


 ステータスは……。


名前:ゴードン

統率:62

武力:78

知力:65

政治:54

魅力:23

魔法:68

特技:指導、家事、サポート、護衛、盾魔法


 というステータスだった気がする。

 なんで覚えているのかというと、俺がゲームに熱中しすぎて、このゲーム全てを自分のものにしてやろうと思っていた時に覚えたからだ。

 統率は兵士を指揮する上手さ、武力は個人での強さ、知力は頭の良さ、政治は駆け引きの上手さ、魅力はその人に引き付けられる何か、魔法はその者が使える魔法の上手さ。

 数字は100をマックスにして、90あればほんの一握りの天才、80あれば一線級の逸材、70あればかなり有能な者、60あればそれなり、50は平凡、40以下はほとんど使えない。

 という感じだ。

 そして、特技はその行動をした時に、追加で恩恵が得られるというもの。

 ゴードンだと、指導をした時に相手の成長スピードがあがるし、護衛をしている時はステータスがあがるといった感じだ。


 そして、俺のステータスは最終的には……。


名前:ユマ・グレイル

統率:99

武力:100

知力:97

政治:92

魅力:95

魔法:98

特技:突撃、鼓舞、斬魔法、猛将、破軍、一騎当千、神速、神将


 という見るからに強い数字になる。

 特技もほぼ全てが強く、有用な物でどれか1つ持っていたら当たりという物も複数所持している。


 ただ、これは最終的にこうなるというステータス。

 ゲーム開始時点では……。


名前:ユマ・グレイル

統率:64

武力:85

知力:26

政治:10

魅力:31

魔法:5

特技:突撃


 という脳筋すぎるステータスだったはずだ。

 武力は高いが、それ以外が悲惨すぎる。


 ただ、これもユマルートで成長したら、最初のステータスになっていくし、もしかしたらより上を目指せるかもしれないのだ。


 これだけ強くても、成長途中であれば簡単に死んでしまうほどに難しい難易度なのだ。


 でも、俺は死にたくない。

 この大好きなゲームの世界にどういう訳か生まれ変わって、最強キャラに転生することが出来た。

 願って止まなかったことが起きたのだ。

 絶対に最後まで……生き続けてやる。


 そのためには力だ。

 俺のステータスは強いけれど、今の年齢では上のステータスにはなれていない。

 そのためには強くなるために努力しなければならない。


 俺は最強のキャラになれる……いや、なるしか生き残る道はない。

 だから……。


「ゴードン」

「はい。いかが為されました」

「俺を最強にしてくれ」

「は? すでにユマ様は剣の腕は相当お強くあられますが……」

「それ以上だ。剣だけではない。魔法からなにから、俺が最強になれることは全て教えてくれ」

「最強……」

「そうなんだ。俺は最強にならなければならない」


 そう、そうしなければ、俺は生き残ることができないだろう。

 これから訪れる、乱世では。

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