凶悪な悪役貴族に転生した俺は、ほぼクリア不可能なルートを努力とゲーム知識で生き残るために斬り開く
土偶の友@転生幼女3巻発売中!
第1話 起きればそこは
俺の周囲には親友、友人、部下……共に飯を食べ笑いあった仲間達の死体が転がっていた。
立っているのは俺1人で、仲間の死体の外側には多くの兵士が俺を囲んでいる。
その中の1人が出てきて俺に話しかけてきた。
「投降したらどうですか? 仮にも侯爵の身分をお持ちのあなたを殺すのは忍びありません。それに、あなたは強い。殺すだけでも手勢のほとんどを失ってしまうかもしれない。どうですか?」
俺はそいつの言葉は無視して、大事な仲間達を見つめる。
「……」
しかし、大事だった仲間達はもう動かない。
そんな俺が、降伏して生き残る?
「できるはずないだろうが」
「!」
俺は投降を呼びかけてきた奴に向かって剣を振りかぶる。
しかし、奴もそれなりに腕が立つのか、後ろに下がって躱し周囲に命令した。
「殺せ! そいつは生かしておけばこの世のためにならない! 悪は裁かねばならんのだ! 正義は我らにあり!」
「うおおおおおお!!!」
「邪魔だ」
それから俺は正義に抗い続けた。
「ひ、怯むな! 囲め! 囲んで殺せ!」
囲まれようが、俺が負けること等ない。
そんな時、俺に声がかけられる。
「これを見ろ!」
「!」
俺の大事な仲間が首筋に剣を突きつけられていた。
俺はそれに目を奪われた一瞬。
ドス。
「……これが貴様の正義か」
「ええ、これが私達の正義。悪を滅ぼすためには、どんなことをしても許されるのです。死になさい。ユマ・グレイル」
******
「うわぁ!?」
俺はたった今死んだような感覚を味わって目が覚める。
「びっくりした……。俺がユマ・グレイルになるなんて」
ユマ・グレイル。
それは俺が大好きで、何千時間もプレイし、ランカーにもなった戦略シミュレーションゲーム、『ルーナファンタジア』の悪役貴族だ。
彼の役目は主人公がある程度領地を大きくした後、戦争パートで正面から戦わない大切さを教えること。
正面戦闘からでは絶対に勝てない最強の武将なのだ。
ただ、政治が上手くいかずに領民は殺すわ、そのつけを他領から略奪をするわで嫌われる。
そして挙句の果てに簡単に主人公の挑発に乗るし、頭がよくないので突撃しかできない。
だから、正面から倒すのではなく、罠を張ってからめとって倒す。
そういう役割を持ったキャラクター。
そんな悲しいキャラクターはいるけれど、ゲームは神ゲー。
戦略シミュレーションとは言っても遊び方は多岐に渡り、山賊プレイだったり、経済だけしか行わない経済特化プレイ、宗教で世界を統一する教主プレイ。
等々、その自由度から様々な遊び方をできる神ゲーだ。
「またやり過ぎて寝落ちしちゃったかな……」
そう思って俺は起き上がると、視界には広い部屋と、中世ヨーロッパ風の部屋の景色が映っていた。
「ん?」
俺はそれが信じられず、何度か目を擦った後に起き上がって近くにあった鏡を見る。
「……これ……ユマ・グレイルじゃね?」
そこには何回も倒してきた凛々しい顔立ちに黒色の髪。
蒼穹の瞳は全てを吸い込むように澄んだ色をしていて、年齢は本編が始まる3年前くらいの14歳くらいだろうか。
俺が右手を上げればユマの右手があがり、俺がソーラン節を踊ればユマがソーラン節を踊る。
「俺……まじでユマ・グレイルになってる!? やった!? いや最悪か!?」
ユマ・グレイル。
それは最強キャラであると共に悪役キャラである。
それと同時に一度主人公でゲームをクリアしてから使えるプレイアブルキャラでもあるのだ。
ただ、一つ問題がある。
「こいつのストーリー……まじでえぐい難易度なんだよな……」
最強キャラを使うんだから、それに相応しい難易度が必要だろう?
と言わんばかりにユマの時だけ敵の強さがえげつないのだ。
主人公の時は簡単な罠を仕掛けてきたから、こちらはそれを回避したらいいと思うだろう。
しかし、その罠を掻い潜ってもさらなる罠が何重にも張ってあり、少しでもミスをすると全滅する。
そして、その主人公を超えた後でも、困難に次ぐ困難で、あまりの理不尽さに大多数のプレイヤーが攻略を諦めるほど。
なんとかユマを生かそうと行動しても、なぜか死ぬ。
他のキャラは亡命して生き残るエンドや、他のキャラの配下になって下から支えるルートもあるのに、ユマだけはどのルートを行っても、世界を統一して皇帝になる以外は死亡することになっていた。
皇帝になる以外、幸せなどないと決められているように。
俺は当然クリアをしたけれど、正直もうやりたくない。
でも……。
「俺が……本当になったのだとしたら……」
コンコン。
「ど、どうぞ」
「失礼します。ユマ様、朝食のお時間です」
入って来たのは執事のゴードン。
彼は確か……護衛もできる万能執事だ。
年齢はかなりいっているが、日々鍛えているからかその肉体は素晴らしい。
ステータスは……。
名前:ゴードン
統率:62
武力:78
知力:65
政治:54
魅力:23
魔法:68
特技:指導、家事、サポート、護衛、盾魔法
というステータスだった気がする。
なんで覚えているのかというと、俺がゲームに熱中しすぎて、このゲーム全てを自分のものにしてやろうと思っていた時に覚えたからだ。
統率は兵士を指揮する上手さ、武力は個人での強さ、知力は頭の良さ、政治は駆け引きの上手さ、魅力はその人に引き付けられる何か、魔法はその者が使える魔法の上手さ。
数字は100をマックスにして、90あればほんの一握りの天才、80あれば一線級の逸材、70あればかなり有能な者、60あればそれなり、50は平凡、40以下はほとんど使えない。
という感じだ。
そして、特技はその行動をした時に、追加で恩恵が得られるというもの。
ゴードンだと、指導をした時に相手の成長スピードがあがるし、護衛をしている時はステータスがあがるといった感じだ。
そして、俺のステータスは最終的には……。
名前:ユマ・グレイル
統率:99
武力:100
知力:97
政治:92
魅力:95
魔法:98
特技:突撃、鼓舞、斬魔法、猛将、破軍、一騎当千、神速、神将
という見るからに強い数字になる。
特技もほぼ全てが強く、有用な物でどれか1つ持っていたら当たりという物も複数所持している。
ただ、これは最終的にこうなるというステータス。
ゲーム開始時点では……。
名前:ユマ・グレイル
統率:64
武力:85
知力:26
政治:10
魅力:31
魔法:5
特技:突撃
という脳筋すぎるステータスだったはずだ。
武力は高いが、それ以外が悲惨すぎる。
ただ、これもユマルートで成長したら、最初のステータスになっていくし、もしかしたらより上を目指せるかもしれないのだ。
これだけ強くても、成長途中であれば簡単に死んでしまうほどに難しい難易度なのだ。
でも、俺は死にたくない。
この大好きなゲームの世界にどういう訳か生まれ変わって、最強キャラに転生することが出来た。
願って止まなかったことが起きたのだ。
絶対に最後まで……生き続けてやる。
そのためには力だ。
俺のステータスは強いけれど、今の年齢では上のステータスにはなれていない。
そのためには強くなるために努力しなければならない。
俺は最強のキャラになれる……いや、なるしか生き残る道はない。
だから……。
「ゴードン」
「はい。いかが為されました」
「俺を最強にしてくれ」
「は? すでにユマ様は剣の腕は相当お強くあられますが……」
「それ以上だ。剣だけではない。魔法からなにから、俺が最強になれることは全て教えてくれ」
「最強……」
「そうなんだ。俺は最強にならなければならない」
そう、そうしなければ、俺は生き残ることができないだろう。
これから訪れる、乱世では。
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