第31話 不穏な気配
「ただいま~!はぁ、もう本当に疲れた!ああいう会見って本っ当にだるい!ねえ龍也~」
あの会見があった夜、そこまで遅くなる前に美夜が帰って来た。
「おかえり美夜。あんなに大勢に囲まれて大変だったな。お疲れ様」
全身から疲れたオーラを出している美夜をねぎらう。
「うわっ!ほんとにMIYAだ!やっぱお兄ちゃん……じゃなかった龍兄やるね」
妹よ、初対面でうわっ!はないだろう……。
そして、ほとんど同じだからきっと言い変えなくてもいいぞ。
あと、前置きもなく兄の膝の上に飛び乗ってくるのはやめなさい。
「ちょっと、龍也。こいつ誰?これ以上はダメって言った――ってお兄ちゃん?もしかして……」
「ああ、そうだよ美夜。妹の萌花だ」
すり寄ってくる萌花の頭をなでながら美夜に紹介する。
「そっか。この子が龍也の妹ちゃんね。……それは良いんだけどなんでそんなに距離が近いわけ?」
そう言って額に青筋が浮かびそうなほど顔を引きつらせる美夜。
「ねえ、見て!あの天下のMIYAの笑顔が引きつってるよお兄ちゃん!」
こらこら萌花よ、あんまり煽るんじゃない。
そしてもういいのか、呼び方。
「なるほどなるほど。どうやら龍也の周りには厄介な女が多いみたいね!」
「あは!自分のことよくわかりすぎだね美夜さん」
「……いいでしょう、その喧嘩買ったわ!」
ああ、いつもの流れだ。
「残念。喧嘩するまでもなく一般彼女の美夜さんと実妹彼女で婚約者の私にはかないませーん!」
「おい、待ってくれ萌花。俺たちはいつの間に付き合い始めていたんだ?」
「え?さっきだけど?」
なんか妹がブラコンとかそういう次元じゃなくなってるんだけど……。
「ねえ、龍也?これ以上はダメって言ったわよね?」
こっちはこっちで風向きが怪しくなってるぞ。
「はいはい、二人とも。不毛な争いはその辺にしておいて。美夜ちゃん、ご飯食べる?」
だが、そう。
我が家には最強の最終防衛ライン東条亜里沙神がいらっしゃるんだ。
「む、これが年上の余裕」
「不毛って……まあ、良いわ。いただきます亜里沙さん」
戦いの火花が散っていた二人の間はいつも通り問題解決の神、亜里沙によって調停された。
◇◇◇
「そういえば美夜、さっきの会見だけどだいぶ早い発表だったな。俺はてっきりなんだかんだもう少しかかると思っていたんだが」
「そうね。まあ、前々からもうそろそろ潮時かなって思ってたし、伝えてもいたから」
今が最盛期だろうに……いや、業界人だからこそわかるタイミングと言うものがあるのだろうか。
「ええー今が絶頂期じゃないの?潮時って言うには早くない?」
俺と同じことを思ったのか優がまるで俺の心情を代弁するように言う。
「うーん、ちょっと早いのは間違いないけど、どっちみち18歳になる前には辞めるつもりだったから。私、アイドルは好きだけどアーティストっていう意味でのアイドルが好きなのであってパンダになるつもりはないから。面倒が増えそうな前に辞めようとは考えていたの」
なるほど。
確かに18歳になると扱いも確実に成人になって、色々なことができるようになる代わりに厄介ごとも増えそうだというのは納得だ。
「……芸能活動を止めるの?アイドルだけ?」
小さく箸を動かしておかずをつまみながら小夜がそう聞いた。
「とりあえずは芸能活動自体を止めるつもり。まあ、今はyautubeとかそういう所でも活動できるだろうし、これからは自分の好きにやっていきたいなって」
「ま、いいんじゃね。ってか今でもアイドルなのに彼女が6人いる男と同棲して、だいぶ自由にやっているとは思うけどな!」
「それはこの浮気野郎のせいでしょ!別にアイドルが交際禁止なのはアイドルの間だけだし!」
日奈に煽られた美夜がヘイトを俺に向ける。
ジトっとしたみんなの目線が突き刺さった。
「さすが龍兄。罪な男だね!でもみんなごめんね~妹特権で龍兄の膝の上は私がもらうね!」
萌花よ、かわいい独占欲だが今日何度目なんだ?……まあ、あれだけ一緒に居たのに数か月間全く顔を合せなかったから無理もないか。
みんなもそんな俺の心情を察したのか、はたまたもう付き合いきれなくなったのか特に反応することはなかった。
すると優が俺を指さして、
「まあ、これだし……ね?」
と、それに納得するように結芽が
「これですしね」
そう言って反応しないどころか、何かをあきらめたような顔で肩をすくめた後、みんなで顔を見合わせて苦笑いをしていた。
一体どういうことなのだろうか……?
体を萌花の好きにさせながら、みんなの表情の意味について思考した。
◇◇◇
美夜がご飯を食べ終わり、リビングでくつろいでいた時、美夜が思い出したように声を上げた。
「あ、そういえば今日の会見の後、どうしても直接取材したいって人たちに一社につき質問1つ限定で取材する機会を上げるってことになったんだけど、その時に異能力のこと聞いてきた人いたよ」
「ん!?なんだって?異能力?それは確かなのか?」
俺を含めたピークアビスの面々が前のめりになる。
「おお、すごい食いつき。でもうん。ほんとだよ。なんか急な心変わりは異能力が関係していたりしますかって。私、さっきまで何言ってるのかわからなかったけどそういえば異能力って身近にあったなって今になって思って」
「それだけでは……よくわかりませんね。私たち以外にも異能力を使える人はいるでしょうし……まあ、あまり会ったことはありませんが」
「……うん。でも気を付けた方がいいかも」
結芽と小夜が反応する。
特に小夜は何かを感じているのか気を付けた方がいいという顔は真剣そのものだ。
「え?でも気を付けるってどうすれば……」
「そこが難しいところだよな……異能力って。龍也の
「私の
日奈と萌花の言う通りだ。
異能力は『
異能力者ならば異能力に対して、大なり小なり耐性があるがそうでない普通の人の場合影響をもろに受けてしまう。
「明確な対処法はないが、異能力のキモは眼だ。美夜、なるべく誰かと話している時も目を見つめすぎないようにしてみてくれ。多分、今できる対処はそのくらいだ」
「それでも、龍也やノインのように影響力の強い異能力には気休めにしかなりませんが、やらないよりはマシですか……」
「わかった、なるべくたくさんの人とはかかわらずに済むようにしてみる」
「優と亜里沙も念のため気を付けてくれ。特に亜里沙、優は俺達が学校でも近くに入れるけど、亜里沙と美夜はそういう訳にはいかないからな」
「わかった。まあ、大学って基本講義受けたら終わりだから大丈夫だとは思うけど、気を付けておくね」
「ああ、少しでも異変を感じたら俺たちの誰かにすぐに連絡してくれよ」
美夜、優、亜里沙はコクンと頷く。
……やはり最近、俺たちの周りに異能力が頻繁に出てきている気がする。
これは本当に偶然なのだろうか。
何とも言えない不安を感じながら、そんな不安は表に出さず、異能力で色々なコスプレをしてくれる日奈と熱い夜を明かした。
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