第11話 code10
あの日はなんとか方法を考えると美夜に伝えてその場を収めた。
そして俺は今……
今にも崩壊しそうな古屋に来ていた。
「おい、言われた通りここまで来たけど、なんだここは?」
俺をここまで導いたもう一人のオレに問いかける。
(どこって……
「はぁっ?いきなりなんてとこに連れてきてんだよ!」
(まあ、大丈夫だ)
「何が……」
その言葉を言い切る間もなく、体の感覚が変わった。
(おい、せめて替わる前に一言言えよ)
「ああ、悪い。だが……」
俺でも感じられるほどの強い気配があることに気が付く。
「
……硬直した後、壊れたロボットのようにガタガタと体を動かしながら口を開けているノイン。
「……お、お前はヌル?なのか!?」
「ああ、そうだ。間違いなくcode0のヌルだよ」
(本当に仲間だったんだな……)
「当たり前だろ、こんなことで嘘を吐く必要もない」
さっきの挨拶?のあと駆け戻って行った男の声が聞こえる。
「おい、みんな!ヌルだ!ヌルが帰って来た!」
ノインのその言葉を聞いて3人の女性が駆け寄ってくる。
しかしそのうちの二人は俺でも知っている二人だった。
「ヌル!思い出したのですね!」
「やっとかよ!」
「……心配した」
その二人とは……俺とクラスメイトの金髪じゃない方のギャルの二人だった。
「どうして、最近は顔を見せてくれなかったのですか?私、ツヴァイは悲しかったのですよ……」
「ああ、ちょっとな……フィーアとフェムなら分かってくれると思うが、記憶と言うか人格と言うか……まあ色々あったんだ」
「いや、私たちにもわかんないし。全然思い出さない癖に、体の方は変わってなくて余計混乱したよね?」
「……うん。さすがは浮気のヌル」
「お、おい。その呼び方はやめてくれって」
(おい。この間は俺のことを色々言っていた癖に、やっぱりお前も俺と同じじゃないか!)
頭の中で俺が何かを言っているが、無視することにした。
「まあまあ、ヌルの女癖は分かってたことでしょ?戻ってきたことを喜ぼうよ!」
ノインの純粋なフォローが心苦しい。
「そういえばノイン。この間公園で襲われたんだが、あれはお前の
「え?なんのこと?この間っていつ?いや、具体的な日を言われても僕にはそんな覚えはないけど……」
「ヌルが襲われたのですか!?」
ノインが答えきる前にものすごい形相でツヴァイが俺に迫ってくる。
「いや、ツヴァイ。そう怒らないでくれ。正確にはオレじゃない、俺が襲われたんだ」
「?やっぱりヌル、おかしくなってしまったのですね……」
私が治しますとどこからともなくハンマーを取り出し、それをもって立ち上がるツヴァイ。
「まてまて待て!見せるから証拠!おかしくないって証拠を今、見せるから」
瞬間、また体の感覚が切り替わった。
「おい、また、急に!」
「ヌル?」
「いや、俺はそのヌルってやつじゃない。というか驚いたよ、月守さん、陽宮さん」
急な切り替わりに驚いたが、知っている顔があるからか落ち着いた対応ができた。
「「!!?」」
どうやら、この二人が高校に入学して早々絡んできていたのはもう一人のオレと面識があったからのようだ。
派手な方が
物静かな方が
「お前、金木か?最近、学校で会う方の!」
「……なるほど、人格が切り替わっていたの」
「フィーア?フェム?私とノインはついていけていないのですが……」
どうやら二人は理解してくれたようだ。
「その説明は俺がするよ。とは言ってもオレの方だけど」
「まあ、見てもらった通りだ。オレは
「
ツヴァイがどういうことかわからないと言った顔でそう言う。
ほかの3人も全く分かっていなさそうだ。
「チッ、お前らもダメだったか……」
思わず、心の内が漏れてしまう。
どうして誰も覚えていないんだ……。
いや、そんなことを言ったって仕方のないことか……。
「ヌル?私、何かしてしまったのでしょうか?」
滅多に見せなかったオレの怒りにツヴァイが泣きそうな表情をしていた。
「いや、違うんだ。そうじゃない、お前たちみたいに異能力を使い慣れている人でも覚えていられなかったんだなと……まあ、俺の
俺の
だから俺はこの能力に自信を持っていたのだが……。
「ヌル!私たちが何を忘れてるって言うんだよ!」
フィーアが戸惑いを振り払うように大きな声を出す。
(それは俺も気になっていた。×××と音は聞こえても理解することができない、それの正体はなんなのか)
「code10ツェーン、これで思い出すことはないか?」
「code10?俺達
「そうだ!私たちはcode0~9で10人だった!」
ノインとフィーアはそう言うが、ツヴァイとフェムは思案顔だった。
「……いえ、私たちは11人でした!アインスがはしゃいでいたではないですか。サッカーができる人数になったと言って!」
「……うん、私もそれ、覚えてる」
「本当かっ!!」
よかったこれは大きな進展だ。
「ですが、誰かがいたということしか思い出せず……申し訳ありません」
「いいんだツヴァイ、覚えている人がいてくれただけでも俺は嬉しいんだ」
「code10がいるってことは分かったよ。だけどそれと同じくらい気になることを言ってたよね。僕がヌルを襲ったとかそんな話」
「そうでした……。ノイン、まさかあなたがそんなことをするだなんて」
「ちょっと!ツヴァイ!待って、落ち着いて。話が進まないから!そもそも僕、襲ってないって言ったよね?」
また暴走しかけたツヴァイをノインが必死になだめる。
「ああ、そうでしたね。申し訳ありません、ヌルのこととなるとつい頭に血が上ってしまって……」
(こっちのオレも苦労してそうだな……まあきっと自業自得だろうけど)
ツヴァイの発言にはあえて触れず、続けることにする。
「続けるぞ?昔の担任の教師が異能力者になってたんだ。いきなり
俺はあの日の出来事をありのまま伝えた。
「なるほど……それはおかしいですね。そもそも私たちはそのレジスタンスと言う組織を知りませんし、私欲に力を使ったことは……ほとんどありません」
「そこは言い切ってほしかったがまあいい。やっぱりそうか……だとするといったい何が起こっているんだ?」
先生はいったい何だったんだ?
ツヴァイの予知異能で俺達に接触してきたと思ったんだが……。
さらにこいつらもレジスタンスを知らないなんて……どういうことなんだ?
「とりあえず、そのレジスタンス?だっけ?そいつらのこと調べるか?」
フィーアがそう提案する。
彼女の異能力は
千変万化、百面相そんな言葉がよく似合う能力だ。
発動条件は少し特殊で彼女の視界に入っている任意の人物の姿を変えることができる。
「ああ、そうだな。頼めるかフィーア。それともう一つ頼みたいんだが……」
あれについてもフィーアに頼めば完全に解決できるはずだが……。
「何言い淀んでんの?私とヌルの仲っしょ?」
「ああ、そうだな。でもオレの頼みじゃなくて……こいつの頼みなんだ。おい替わるぞ」
急だと文句を言われるから今回はきちんと断りを入れた。
こう、回数を重ねていくと段々この切り替わりにも慣れてきた。
「あ、ああ。その、月守さん。俺と藍野美夜の姿を変えてほしくて……」
「……は?藍野美夜と金木がなんか関係あんの?」
俺がそう言った途端、ツヴァイと言う女性と陽宮さんからの視線が強くなる。
いや、俺は俺でもオレじゃないんだが――――――。
「実は同棲してて……」
「「「はぁぁぁぁぁ!?」」」
(やっぱりこうなるよな……はあ、つくづく女難だ)
「(異能力が……憎いぜ)」
「……俺たちの浮気性のせいだけどな……」
そのつぶやきが声になることはなく、俺達の中で消化された。
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