同じ、同じ、また同じ
「アイス、何食べる?パピコのブドウとかどう?っていうか私たち用はそれしかないんだけど」
「アイス食べたいのは悠莉なんだから悠莉が決めたらいいじゃん。というか、パピコなら一人で食べればよくない?半分残したって問題ないでしょ」
「えー、マジでいらないの?アイス。あんなに外暑かったのに。顔真っ赤じゃん、悠妃」
「それは悠莉も同じだと思うけど……」
歩くこと20分。帰宅して早々、リビングのソファに私は沈み込んだ。一方の悠莉は冷凍庫を開けて週末の買い出しの時に買ったパピコを探している。前はアイスの実を選ぶことが多かったけれど、最近はもっぱらパピコのブドウかマスカットで、その半分が私に分け与えられる。アイスの実とは違って2本に分かれて入っているのだから、半分くれるにしても同時に食べなければいけないことはないと思う。
「はい、悠妃の」
「……ありがと」
私の隣に腰を下した悠莉がパピコを渡してくる。案の定パピコは開封済みで、悠莉は毎回ご丁寧にも容器の先っぽのアレまで取って私に渡してくるので私はその場で食べざるを得ない。悠莉がいたずらっぽくニヤッとと笑って私の分のパピコのアレをしゃぶる。何を嬉し気にニヤニヤしているのだろうと思いつつスルーすれば、悠莉は途端につまらなそうな顔をした。
「あーあ、2学期始まっちゃった」
「まぁ、面倒くさいね」
「それもだけど、進路。2学期末にアンケート取るから考え始めろよーって言われたじゃん。どうする?文系?理系?」
「私に聞いてどうするの?」
「気になるに決まってるじゃん?」
「いや、決めるのは自分じゃん。わざわざ私の選択を聞く必要、ある?」
「え、もう決まってるの?」
「いや、決まってはないけど」
「なら聞いたっていいじゃん。それに、一人でぐるぐる考えるより二人であーでもないこーでもないって言いながら考えるほうが楽しくない?今から大学も調べてさ。きっと同じ成績なんだからその方が効率も良いし」
私は思わずパピコの容器を噛んだ。同じ、同じ、また同じ。うんざりだ。これまでずっと私の成績と悠莉の成績が同じなのは確かで、きっとそれはこの先も変わらないだろう。同じレベルの大学を目指すことになることを考えると、二人でリサーチして結果を共有するのが効率的だというのはその通りだ。とはいえ、同じ成績だからって興味関心まで同じとは限らないし、悠莉と一緒に考え始めたら自分の志向を固めるよりも早く悠莉に引きずられてしまうのが目に見えている。
今までの人生を振り返る限り、ずっとそうだった。反応速度、思考速度が共に速い悠莉がさっさと決断するものだから、私に決断の機会は回ってこなかった。それでいいか、と確認を取られるとしても自分の考えがまとまっていないものだから頷くしかなく、悠莉に引きずられてそのまま物事をこなしてきた。不幸にも同じスペックゆえに、悠莉の決断であっても私はうまいこと物事を進めてしまって、結果的に私の意思も反映されていると周囲に思われてしまっている。
だから、今回ばかりは。今まで悠莉に流されてきたばかりの私がちゃんと決断できるか、そもそも独自の意思があるかどうか定かではないものの、まずは一人でじっくり、悠莉の言葉を借りるならぐるぐると、考えなければならないと思う。個々に考えた結果、同じ進路をとるならそういう運命なのだと受け入れるし、最終的に軌道修正して同じになるなら納得する。ただ、最初から悠莉の意見にただ乗りするのではなくて、一度自分のポジションというのを作ってみなければならない。
「……たまには、一人でぐるぐると考えてみるのも必要じゃない?」
私は少し溶けたパピコを一気に吸い込む。まだ私の体には冷たかったのかキーンと頭痛が走るが、顔には出さずさっさと嚥下する。部屋の隅にあるゴミ箱に、ポイッと空になった容器を捨てた。
「え、ちょ、待ってよ!……痛ったーい!」
悠莉の悲鳴が聞こえるが、私はためらわずに自室に向かう。リビングのドアを閉めるのにちらりと振り向けば、悠莉は部屋の片隅で頭を押さえてうずくまっていた。やっぱり同じなのかとため息をつきながら、私は静かにドアを閉めた。
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