第47話 堕魔
「如月がオーパーツを? ありえないだろ。だってオーパーツを持ってる奴はシーカーにされ……」
いや、ありえなくはない。
オーパーツを持っていてもサポーターになるパターンはある。
「“スクラップ”か!」
俺が聞くと、如月はコクリと頷く。
スクラップは本来、屑鉄とかガラクタという意味を持つ。ここで言うスクラップとは
「オーパーツの中には使い方のわからない物や破損していて能力を発揮できない物がある。それらを俗にスクラップと我々は呼んでいるわけだが、如月ちゃん……君の記録を見たけど、君はこのスクラップを持っているね?」
「はい……」
如月は自身の首元をまさぐり、金属のネックレスを引っ張り出す。
ネックレスの先にはひし形の宝石のような物が付いている。初めて見た。恐らく普段から服の中に隠しているのだろう。
「このネックレスなんですけど、ぶつけても何も起きないし、首に掛けても、燃やしても冷やしても何も起きないんです……それでも一応オーパーツの身体補助効果のみは発動するので、こうして身に着けているのですが……」
そういえば如月の身体能力はシーカーに匹敵するレベルで高かった。アレはオーパーツを持っていたからだったのか。
「剣とか槍とかなら効果がわからずともシーカーに回されるが、そのペンダントじゃぶつけた所でたかが知れてるし、サポーターに回されて当然だね」
剣なら特殊な効果を持っていなくとも、『退魔属性を持つ刃物』というだけで価値はある。けどペンダントじゃ、さすがに厳しい。
「それを利用して君を改めてシーカーに登録する」
「ペンダントの能力が判明した、ってことにするわけか」
「そう。表向きだけ如月ちゃんをシーカーとして登録し、君は依然サポーターとして登録する。だけど迷宮に入ったら役割を交換し、葉村君がシーカー、如月ちゃんがサポーターとして動く。これでどうだろうか」
「……」
本当なら表向きもシーカーとして生きたい……けれどこの腕、オリジンの出どころを考えると、下手なリスクは背負えない。
選択肢はあるようでないな……仕方ない。
「わかった。それでいこう」
「だ、大丈夫です葉村さん! 報酬はちゃんと9対1! 葉村さんを9割にしますから!」
「いやいや折半で良いよ。俺を飯塚や美亜と一緒にするな。シーカーとサポーターで報酬に差は作らない」
そもそもシーカーよりサポーターの方が命がけなんだ。貢献度で言えばさすがにシーカーが勝るかもしれないが、リスクや疲労度はサポーターの方が高い。その点をしっかり考慮して報酬は分配すべきだろう。
「よし決まりだね。これから如月ちゃんは僕と一緒にギルド協会へシーカーへの転向届けを出しに行ってもらうよ。葉村君は今日はもうゆっくり休みたまえ。さすがに疲れただろう」
「そうだな……そうさせてもらう」
体も頭もどっと疲れたな……。
それからアビスと如月と今後について軽く打ち合わせをし、解散となった。
---
迷宮都市の外れ――
所属する医者はたった1名、看護師も1名。入院許容人数は3名。その2階建てのクリニックに飯塚敦は運ばれていた。
「お目覚めですか?」
3つのベッドが並ぶ2階、病室。そこにウルは訪れた。
部屋にはウルとベッドに寝転がる飯塚のみだ。成瀬は普通の大手の病院に運ばれた。
「お目覚めだよ! テメェだな、俺をこんなちっせぇ病院に運んだのは!!」
「はい。でも腕は確かでしょう?」
飯塚は言葉を詰まらせる。
飯塚の顔はすでに腫れが引いており、潰された喉も治っている。まだちらほら包帯が目立つが、すでに走り回れるぐらいには回復している。あれだけの怪我が1日かからず治るのは
「まぁな……」
「それで、これからどうします? 葉村志吹に復讐しますか?」
葉村の名を出した瞬間、飯塚は身を丸くし、体をガタガタと震わせた。
「や、やめろ……! アイツの名を出すな!」
「おやおや、完全にトラウマになってますねぇ……」
「うるせぇ! クソクソクソクソクソクソクソッ!!!! ありえねぇんだ! 俺があんな奴に負けるなんざ……クソォ!!!」
怒りと恐怖が混在している。
飯塚は今、人生で最も力を欲している。
この恨みを晴らせるだけの力を。
この恐怖をひれ伏せるだけの力を。
今の飯塚の姿こそ、ウルが望んでいたモノ……。
「強くなりたいですか?」
「……なりてぇに決まってるだろ。だがな……! ちっくしょう!! 認めたくねぇが、俺は……俺はもう、頭打ちなんだ……!! もう3年ぐらい前から、一切成長してねぇ!! もう、もう……今の俺が最高到達点なんだ……!!!」
「諦めるのは早いですよ」
ウルは飯塚の背中を撫でる。
「……実はね、手っ取り早く強くなれる方法があるんですよ。もし、私を信じてくださるのなら……葉村志吹よりも、唯我阿弥数よりも、強くして差し上げますよ」
「ふ、ふざけんな! そんな方法があるわけ……!」
「ありますよ。知っていますか? オーパーツはその力に枷を掛けていることを。本来の力の2割も出していないことを……」
「な、なんだと……!?」
「ええ。A級シーカーでようやく3割ほど、S級シーカーでも精々半分。あなたもまだオーパーツの性能を3割程度しか引き出せていない」
「で、でも、それってつまり、俺にも伸びしろがあるってことじゃねぇか……!!」
ウルは口角を上げる。
「その通りです! 私について来ればその枷を完全に外して差し上げますよ!」
そう言って両腕を広げるウルが、飯塚には天使に見えた。
「ただまぁ、副作用として、多少……
「構わねぇさ! そんだけ強くなれるんなら身長が縮もうが太ろうが痩せようがどうだっていいぜ!!」
まるで少年漫画の主人公のように瞳を燃やす飯塚。
ウルは「わかりました」と言い、飯塚に背中を向ける。その顔はニッタリと笑っていた。
「奥の部屋に来てください」
――――――――――
【あとがき】
『面白い!』
『続きが気になる!』
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何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!
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