第35話 2対2
廃墟はどれも背が高く、大体7階ぐらいはある。
屋上から見下ろせば目立つが、5~6階の窓からそっと覗く程度ならばまず地上を歩いている人間にはこっちの位置はバレないだろう。
俺と一色さんは12階建て廃墟の9階から辺りを見渡す。俺は【望遠】を使い視力を強化させ、一色さんは持ち込んでいた望遠鏡で索敵する。
「相手が隠れている可能性は?」
「ないですね。堂々と道路の真ん中を歩いていると思います」
アイツらは俺達を舐め腐っているからな。
「ホントだ」
一色さんが肩をツンツンと指先で叩いてくる。
一色さんが見ている方を見ると、飯塚と美亜が並んで道路の真ん中を歩いてた。
「馬鹿なの?」
「馬鹿ですよ」
もしも普通の相手なら罠かどうか疑うが、アイツらの場合、罠である可能性はまずない。
「不意打ちならまとめて潰せる」
「そうですね。【拘束釘弾】で相手を束縛し、俺が【幻影自在陣】で叩きます」
「うん。それで行こう」
奴らは足を止め、各々持ってきていたバッグを開きだした。
「今です」
俺と一色さんは気配を消しつつ、足音も鳴らさずに階段を駆け下り、物陰を移動して2人の背中から15メートルの位置を取る。
ここなら詠唱の声が聞こえず、【拘束釘弾】も届く。
「?」
俺は2人の服に違和感を抱いた。
2人は見たことのない毛皮のマントを羽織っている。スタート前には羽織ってなかったモノだ。さっき上から見た時には着てなかったから、俺達が降りてくる間に羽織ったのだろう。さっきバッグを開いて取り出していたのはアレか。
どこか――異質なモノを感じる。
「一色さ――」
「【拘束釘弾】」
俺がマントについて言うより先に、一色さんが魔法を放つ。
黒い楔が12本放たれる。それぞれ6本ずつ、飯塚と美亜に向かっていくが――
ガキン! と楔はマントに弾かれた。
「なに……!」
「おっと、釣れたか」
飯塚と美亜はしたり顔で振り向く。
俺は今のマントの反応で、マントの素材を理解した。
「魔物からのドロップアイテムで編んだマントか!」
「そうよ。アンズーの毛皮で作ったの」
アンズー。獅子の顔をした鷲の魔物だ。その毛皮は加工しやすいことで有名だ。
アンズーの皮は特殊な性質を持っていて、オーパーツには滅法弱いが魔法には強い耐性がある。
「侮り過ぎたみたいだね」
「すみません……」
「私も油断した。あんな簡単な対策に気づかないなんて……」
さすがにちょっとは作戦を練ってきたようだな。
「ははは! 馬鹿丸出しならテメェら!!」
クソ。飯塚に言われるとマジで腹立つぜ……!
「敦君。ここは各個撃破といきましょう。元々単独で動く予定だったわけだし、2対2は望む所じゃないでしょ?」
美亜は飯塚とのコンビネーションの悪さを自覚しているんだろうな。
「前は団体行動派じゃ無かったか?」
「3対1は分が悪いと思ってただけ。1対1なら余裕」
「俺はなんでも構わねぇ! あのクソ腕サポーターさえ貰えればなぁ!!」
「……仕方ないわね」
美亜は多分、俺と戦いたかったんだろうが、飯塚に真っ向から逆らうわけにもいかず引いたようだ。
「じゃ、私はあっちの女ね」
一色さんがこっちに目線を向けてくる。
「私はあっちの案に乗りたい。成瀬美亜……あの女には個人的に多大な恨みがある……!」
ゴゴゴ……! と効果音が聞こえるぐらいの威圧! 一体美亜に何をされたんだ?
「でもせっかくアレだけコンビの練習をしたのに……」
「……」
無言の圧が飛んでくる。
「わ、わかりました。1対1に持ち込みましょう」
なるべく仲間同士固まる方針だったが、まぁいいだろう。
「はっはぁ! じゃあ始めるぜェ!!」
飯塚が地面を蹴り砕き、俺に接近してくる。
「喰らいな! 俺の必殺……グレートアックス!!」
飯塚はオーパーツの斧を巨大化させ、振り回す。俺はそれを義手で受け、遥か後方に吹っ飛ぶ。
「ホームラン! だけどまだ終わりじゃねぇぜ!!」
飯塚は大きく吹っ飛んだ俺を追いかけてくる。
俺は地面に両足で着地、追い打ちにきた飯塚に向かって走る。
「なっ!?」
飯塚は俺が涼しい顔で着地したことに驚いた感じだ。
俺は義手を突き出す。飯塚は斧で受けるも、後ずさる。
「テメェ……!」
「さっきの1撃はわざと受けたんだよ。あの場から離れるためにな」
飯塚との1対1……負ける要因が見当たらない。
「覚悟しろ飯塚……さっき言った通り、完膚なきまでに、一方的に潰させてもらう。戦いにはならないだろう。これから始まるのはただの『処刑』だ」
飯塚は額の血管を浮き上がらせる。
「ほんっっっっっとうにムカつく野郎だな。その残った腕もぶった切ってやらぁ!!」
――――――――――
【あとがき】
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『続きが気になる!』
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何卒、拙い作家ですがよろしくお願いします!
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