第17話 死闘

 バックパックより治癒クリスタルと聖薬せいやくと水筒を出す。

 如月の小さな口に聖薬を押し込み、水筒から水を注いで無理やり聖薬を飲ませる。これで魔障の浸食は止まる。

 そんで外傷を悪化させないために治癒クリスタルを起動させ如月に握らせる。【消気】で如月の気配を薄くし、【光点軌盾】を如月の前に張る。この間約4秒。


 俺は如月から離れ、ミノタウロスの前に出る。

 如月を連れて逃走するのは不可能。アビスが来るまで時間を稼ぐ……!

 今の俺ならミノタウロスの攻撃を捌くことができる。ただ時間を稼ぐだけならできる!


「っ!?」


 ミノタウロスが拳を突き出してきた。その相手は俺ではなく、【光点軌盾】で守られている如月だ。

 俺への攻撃は避けられると直感したか! 如月を使って俺を攻撃の前へ誘う気だ。コイツ、やっぱり悪知恵が働きやがる……!


「ふっざけんなぁ!!」


 【光点軌盾】は気休めに過ぎない。このミノタウロスの攻撃なら良くて1撃しか防げないだろう。あの右拳の後、左を出されたら防ぎきれない。

 俺は如月とミノタウロスの間に割って入り、義手の右腕を出す。

 ダメ元だ。もしかしたらこの一撃で義手は破壊されるかもしれない。それでも、この手しか無かったんだから仕方ない。


 拳と拳が衝突する。

 凄まじい衝突音。弾ける空間。


「ぐ、ぬ……!」


 全身が衝撃で痺れる――が、義手は壊れる様子がない。しっかりとミノタウロスの拳を受け止めている。

 良し! 力勝負に持っていける! 俺の力さえ勝っていれば、押し勝てる……!


「ぶっ飛べよ……!!!」

「グギャ!?」


 俺はミノタウロスの拳を殴り飛ばす。ミノタウロスはよろけて2歩後退する。


「【突竜鎖】!!」


 左手から鎖魔法を発動。鎖を飛ばし、ミノタウロスの右肩に噛みつかせる。


(縮め!)


 鎖を縮めさせ、空を飛び、ミノタウロスとの距離を一気に詰める。その勢いのまま顔面に右ストレートをお見舞いする。

 ミノタウロスは鼻から赤い血を吹き出し、仰向けに倒れる。鎖でしがみついていた俺はそのままもう1回顔面を殴ろうとするが、


「ビャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

「つぅ!!?」


 巨大な叫び声を間近で受け、つい攻撃の手を止め両耳を塞いでしまった。ミノタウロスは起き上がり、その勢いで俺を胸で弾き飛ばす。

 如月の正面にある【光点起盾】に背中から激突。痛がっている暇はない。俺は地面を蹴り、ミノタウロスとの距離を詰める。


 そこからは野生の戦いだった。


 策も何もない、単純な殴り合い。回避、防御、カウンター、攻撃。それをひたすらに繰り返す。


「うおおおおおおおおおおおおっっらぁ!!!」

「ガアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!」


 なんだコイツ!? やっぱり魔物の動きじゃない。まるでボクサーだ。全身を上手く使った打撃を打ってくるし、回避能力も高い!! ジャブとストレートのコンビネーションまで使いこなしてくる。

 間違いなくただの特異体じゃない。


 やっぱり強いよお前は。


 だけどなぁ……!


「前の俺とは違う……!」


 今は俺だって、強い!

 ここでお前を――


「倒す!!」


 右拳をミノタウロスの頬に叩きつける。

 お互い全身血まみれ。だが、ダメージの度合いで言えばあっちの方が喰らっている。


「【月華雷】!!」


 左手から三日月の形をした雷撃を放ち、ミノタウロスの顔面にぶつける。ダメージは期待できないが雷の閃光で目つぶしになる。

 隙のできたミノタウロスの胸に飛び込み、右拳を胸の中心に突き刺す。

 ミノタウロスの心臓は人間と同じ位置だ。特異体とは言え、急所は変わらないはず――


「なんだ?」


 硬い感触。ダイヤモンドのように硬い何かが手に当たっている。

 俺はその硬い物体を掴み、引きずり出す。


「!?」


 それは心臓ではなく――剣だった。

 ミノタウロスの肉片の付いた、紫色の剣。この感じ……まさか、


「オーパーツ……!?」


 オーパーツが魔物の体内に!? ありえない。オーパーツには退魔属性がある。魔物と共存できるはずがない。


「ガアアッ!!」

「なっ!?」


 ミノタウロスの傷口から飛び出た肉の管が俺の手にあるオーパーツに伸び、絡めとる。剣のオーパーツはまたミノタウロスの体内に取り込まれる。

 ミノタウロスのエネルギーの流れがオーパーツを中心に回っている気がする。本来心臓がある位置にアレがあり、心臓が無かったことを考えるに、オーパーツが心臓代わりになっている可能性が高い。


 コイツ、何から何まで異常過ぎる……!


「葉村さん!!」


 如月の叫び声。

 ミノタウロスの体内にオーパーツがあったことで、動揺した俺はミノタウロスの裏拳をモロに腹に喰らった。


「がはっ!」


 吹っ飛び、10メートルは離れていた岩壁に突っ込む。

 致命傷じゃない。立ち上がれる。いくつか骨が逝った感触はあるが、戦える。


「おいおい……」


 ミノタウロスは自分の胸に手を突っ込み、さっきの剣のオーパーツを抜いた。オーパーツは禍々しく変容し、人間が扱うぐらいの大きさだった剣はミノタウロスが握れるぐらいの大剣に変わり、その刀身を真っ黒に染めた。


 オーパーツから黒いエネルギー体が発せられ、魔物に流れ込んできている。やはり、あのオーパーツが魔物にエネルギーを与えている。

 オーパーツが原動力なのはほぼ確定。オーパーツを壊せば奴は止まる、もしくは死ぬだろう。だがオーパーツは基本破壊不可。となると戦えないぐらいに体を削るしかない。幸い、奴に再生能力は無いからな。


「オーパーツを使う魔物とか反則だろ、まったくよ……!」


 こっちもなりふり構ってられないな。


 やるしかない。俺のとっておき――五文字魔法、【幻影自在陣】を。


 ――――――――――

【あとがき】

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