第22話 近付く気配

「皆さん・・・先日、西のほうへ飛ばした綿毛について、状況をお話したいと思います。」

全員が集まった昼食の席で、リリネが少し改まった様子で口にする。


あれ以来、畑仕事の合間にも、そちらの方角を気にしているように見えたり、今日は朝から集中して気配を探っているようだったから、そろそろ話があるような気はしていた。


「その顔は・・・あまり良い内容では無さそうだね。」

「ベルシアさん。ネタバレは良くないことだって、禁断ちえの実の知識にありませんでしたか?」


「あった気はするけど、これってどちらかと言えば、考察のほうじゃない? まだちゃんと何かを聞いたわけでもないし。」

「そ、それもそうですね・・・」

どうやら『実の知識』をもとに、冗談を言ってきたようだけど、その調子もどこか優れないので、彼女の心境がどこか伝わってくる気がする。


「お姉ちゃん、後で『ねたばれ』って何か、教えてくれますか?」

「うん、もちろん!」

そっと耳打ちをしてきたフィナには、少しばかり余計なことを、気にさせてしまったかな。

個人的な気持ちとしては、可愛くてとても癒されたけれど。


「・・・・・・すみません。何となく話の内容が想像できましたが、私が言い出したせいですよね・・・」

「よく知らない言葉だけど、森には関係なさそうなのは、分かった。」

うん、森のことしか考えてなさそうなヴィニアはともかく、リリネは気にしすぎないほうが良いんじゃないかな。



「それでは、本題に入りますが・・・飛ばした綿毛が、十分な範囲へ行き渡ったと感じた頃から、人の気配が出てきました。

 いくつかに分かれてはいるのですが・・・全体として、こちらへ近付いてきているのが、不気味なところですね。」

「・・・想像にはなるけど、辺りを調査しながら、私達のほうへ向かっているとか?」


「マハベールからの報せと合わせると、それがあり得そうな状況かと・・・旅人や商人の可能性もありますが、それにしては気配が穏やかではないんですよね。」

「盗賊? それとも、別の戦う者?」

私に続いて、ヴィニアが尋ねる。この前の話は聞いているから、想像はついているのだろう。


「推測ですが、盗賊とは違ったものを感じます。もう少し、今回の場合は嫌な意味で、しっかりしていそうな気配が・・・」

「なるほど。『実の知識』をどこまで参考にできるか分からないけど、『国』を名乗るだけの勢力が派遣した、軍隊ってところか。」


「はい。あちらの知識で想像するような規模では無さそうですが、統率が取れていた場合、嫌な相手になりますね。」

「そうだね・・・警戒は強めたほうが良いってところか。」


「私が森の端まで出て、近付く者は全て射ればいい?」

「そういうのはまだ早いからね!?」

いずれは、そうなるのかもしれないけれど、まだ分からないことも多いし、下手に攻めないほうが良いだろう。



「現状の対応としては、交代で森の端近くまで行きまして、見張りと気配探知をするのはいかがでしょうか。組み合わせは、考える余地は無いかと思いますが・・・」

「うん。私とフィナ、そしてリリネとヴィニアだね。」

私達を別々の組にしようと言うのなら、何故そんな考えに思い至ったのか、じっくりと話し合う必要があるだろう。必要なら、武器も手にした上で。


「ベルシアさん、妙な気配が漏れてますけど、今言った組分けで、もちろん合ってますからね!? どうかご安心ください。むしろ私が生きた心地がしな・・・何でもありません。」

うん、私が原因だとは思うけど、少し失礼なことを言われた気がする。


「まだ戦いが起きたわけではないですし、こんな場所ですから、夜は警備の時間から外します。仲良くなった草木にも任せられますし。

 日中を先程の組分けで、交代で見張ることにしましょう。何かあれば、マハベールとの連絡と同様に、蝶でやり取りするということで、いかがでしょうか。」

「うん、それでいい。」


「私とフィナも、もちろんいいよ。」

「はい・・・!」

実質、ヴィニアも賛成したところで決まりだけど、私とフィナも改めてうなずき、これからの方針が決定される。


「それで、蝶というのは、マハベールとの連絡用の他に、予備が居たんだったよね。名前は何だっけ?」

「タテイフィアとセセイリですよ、ベルシアさん。ちゃんと覚えてあげてくださいね。」

・・・どうやら、妖精の力で作られた蝶の命名については、リリネは開き直ったようだ。


「可愛い名前ですね。もし大丈夫なら、私も使い方の練習をしたいです!」

うん、フィナも気に入ってしまったようだし、私はこれ以上突っ込むのは止めておこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る