第16話 小さな嫉妬
「フィナ、何かあったの?」
「あっ・・・そ、その、変わった夢を見まして・・・」
朝、目が覚めたところで、フィナの様子が少しおかしいのに気付いて声をかければ、そんな答えが返ってくる。
「夢かあ・・・ただの夢ならいいけど、もしも不安が消えないとか、身体に不調があるなら、詳しく教えてね。私だけじゃ難しければ、リリネにも相談するから。」
「あ、ありがとうございます・・・今のところは、大丈夫です。」
「それなら良いけど、無理はしないでね、フィナ。」
「はい、お姉ちゃん・・・」
抱きしめて頭を撫でれば、私の胸にぎゅっと身体を押し付けてくる。
あの時の戦いで、精神的に疲れているかもしれないし、今の私に出来るのは、こんなところかな。ここで穏やかな時間を過ごすことが、良い方向に働いてほしいけれど。
「今日は、穀物・・・
「ああ、私がこの前頼まれて、マハベールから持ってきたやつか。そうだね、主食に出来そうってところかな? 上手くやれば、知識にある謎に柔らかいパンとか・・・」
「ベルシアさん? 私はパン職人ではありませんし、贅沢を言い出したら切りがないですからね。まあ、この麦もよく使われているらしい、『保存』に全振りしたような保存食からは、脱却したいところですが。」
「リリネ、やっぱり食に不満はあるんだよね・・・?」
「こほん。それは否定しませんが、程々に・・・というところですね。ルビィと私の目で、元気の良い種は選別済みですし、ベルシアさんに焼いていただいた灰の肥料で、土も良い状態です。
今日から畑で、しっかり育ててゆきますからね。」
「また植物魔法を使って、あっという間に収穫したりはしないの?」
「ベルシアさん・・・それは相性の良い何種類かの植物だけです。魔法もそこまで万能じゃないですからね? まずはどんな子かをしっかりと理解して・・・うん、仲良くなろうね。」
リリネが麦の種に、笑顔で話しかけ始めた。実の知識にある地の、『ドン引き』という言葉が頭に浮かぶけれど、植物魔法が得意なリリネなら、多少はね・・・
「あっ・・・」
「どうしたの? フィナ。」
「ルビィさんが、ちょっと怒った顔でリリネさんを見てます・・・嫉妬、でしょうか。」
「うわあ・・・そいつは大変だ。それにしても、フィナも嫉妬なんて無縁そうなのに、よくそんなことが分かったね。」
「えっと・・・お姉ちゃんがリリネさんとばかり話してる時の、私と似た気持ちなのかなって・・・」
「ごめんね、フィナ。」
その言葉を聞いた瞬間、私に出来る全力の速さでフィナを抱きしめる。
「リリネと話すのは、大事なことも多いから仕方ないけど、フィナのことを忘れる時なんてないからね。
私が一番大切なのは、いつだってフィナだよ。」
「あ、ありがとう・・・我儘言ってごめんなさい、お姉ちゃん。」
顔を赤くしながら、フィナが少し申し訳なさそうにしているけれど、こんな我儘なら、いくら言ってもいいんだからね。
「痛っ! え、ルビィ? ちょっと待って、この種だって、あなたと私の子供みたいになるんだから、少し落ち着こうね・・・!?」
私には見えないけれど、さっきフィナが言った通り、リリネが妖精の嫉妬を受けているようだ。
それに、フィナの嫉妬の原因も、何割かはリリネにあると言えるので・・・うん、実の知識にある、『罪な子』ってやつか。
「ねえ、三人とも、何やってるの?」
うん、ヴィニアだけ蚊帳の外になりつつあるけれど、どう説明したら良いだろうか。
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