第二十六話 礼と犬
さて。
時はフェンリルを倒した夜。
俺は自分の部屋で泥のように眠っていた……のだが。
なにか、部屋に誰かがいる気配がして俺は目を覚ます。
上半身を起こし、部屋を見回してみるとそこにいたのは——。
「おはよ」
「……」
「夜なのに『おはよう』は変か……っていうか、何見てるし?」
「いや……え、飛鳥!?」
一気に脳内が覚醒した。
夜中に目が覚めて、上半身起こして部屋を見回したら窓枠に飛鳥が座っていたのだ。
覚醒しないわけがない。
「身体は、怪我は大丈夫なのか!?」
俺はすぐさま飛鳥の身体を上から下まで、しっかりと観察していく。
すると一見、飛鳥の身体は何も異変はない。
全くの無傷に見える——失っていた肩から先もしっかりと復元されている。
ように見えたのだが。
「大丈夫、とは言えないみたいだし」
と、失っていた方の腕を前へと掲げてくる飛鳥。
その腕はよく見ると。
「透けてる?」
しかもなんだか淡く発光しているのだ。
と、俺がそんなことを考えていると。
「この腕、まだ感覚も殆どないし、何かを触ろうとしても通り抜けちゃう見せかけみたい……あと、まだ相当無理しないと『グラビティコア』は使えないし」
「っ」
ということはあの時。
俺達のことをフェンリルの氷柱から守ってくれたあの時、飛鳥は相当な無理をしてくれたのだ。
「飛鳥、ごめ——」
「まーじで、ごめんって感じ。いや、やらかした〜」
「え?」
「あんたにうちのこと、背負わせちゃったよね? 有望な新人は強くなるまで、なるべく楽させてあげたかったんだけど……マジでミスったし」
「いや、俺は——」
「クレハから聞いたし。あんたの能力のおかげで、うちはこうして助かったって……しかも内容的にあんた、絶対いろいろ考えてるっしょ?」
「クレハから聞いたって、は?」
どういうことだ。
どのタイミングでクレハと飛鳥は話した?
俺が知ってる限り、飛鳥を召喚獣にしてから二人は会話していない。
となると。
まさか召喚獣が居るという、例の空間で話したのか?
そういえば、クレハが部屋がどうのと言っていたし。
と、俺がそんなことを考えていると。
「そろそろ限界みたい。まだ長時間外に居るのは厳しいって感じ。まぁ、言いたいことは言えたからいいかな……あぁ、あと」
と、まるで消える前兆のような光の粒子を纏いながら、俺の方へと近づいてくる飛鳥。
彼女は突然俺の頬へと唇を優しく触れさせると。
「うちのことを助けてくれてありがとう。あんな風に命を救われたらさ、あんたの事が好きになっちゃうかもだし」
「え、ちょ——」
俺が言いかける間にも完全に消えてしまう飛鳥。
最後に爆弾発言していってしまった。
「な、なるほど……」
ちょっと落ち着こうか。
あれってひょっとして、ひょっとしなくても告白なのではないだろうか。
いや待て、まだ早い。
あれ、この子ひょっとして俺のこと好きなんじゃね勘違いほど痛いものはない。
整理だ。
状況を整理しよう。
飛鳥はさっきこう言っていた。
『あんたの事が好きになっちゃうかもだし』
そして、追撃というか同時に頬にキスのおまけ付き。
う、うん。
「…….」
好きなんじゃね!?
俺のこと好きなんじゃね!?
頬にキスしながら好き発言とか、どう考えても友達レベル超えてるだろ!!
「でも待て、ダメだ!! 落ち着け!!」
俺は天音が好きなんだ。
告白こそしてないものの、俺は小さい頃から天音が大好きなんだ。
ここで飛鳥に手を出そうなものなら、俺は俺の気持ちを流れで裏切ることになる。
だがしかし。
もしあれが本当に告白ならば、飛鳥だって本気で言ってくれたはずだ。
「ぐっ、俺はいったいどうすればいい…….っ!?」
ポンっ!!
と、突如俺の視界に現れたのは天使の格好をした二頭身デフォルメ天音だ。
彼女は俺の前でお祈りポーズをしながら。
「琥太郎! 琥太郎は自分の気持ちに従えばいいんです! ても、琥太郎はあたしの方が好きですよね!? うぅ……あたしは琥太郎が大好きです!」
「あんた、何言ってるし?」
ポンっ!!
と、現れたのは悪魔の格好をした二頭身デフォルメ飛鳥。
彼女は小狡い笑みを浮かべながら。
「うちの方が好きっしょ? だって琥太郎、時々うちの胸ガン見してたじゃん」
「そんなわけないです! 琥太郎はそんなエッチじゃないです! 琥太郎はあたしへの純愛を糧に生きてるんです!!」
「自分で自分のこと純愛とか言っちゃうのやばいっしょ!」
「うぅ……でもあたし——」
「うっさいな! これでもくらえ、『グラビティコア!!』」
「きゃぁあああああっ!!」
と、吹っ飛んでいく天使天音。
っていうか!!
「天音も飛鳥もこんなこと言わん!!」
俺は残った悪魔飛鳥の額へと、優しくデコピンアタック。
「ぐわぁ!!」
と、悪役のような声をあげて吹っ飛んでいく飛鳥。
やばい——先ほどの飛鳥告白?が強烈すぎて、変な幻覚を見てしまった。
とりあえず、今結論を出すようなことじゃない。
告白を断るにしても、もっとよく考えるべきだ。
適当な気持ちで答えるのは、飛鳥に失礼がすぎる。
「……とりあえず寝るか」
と、俺がベットに再び横になろうとした。
まさにその瞬間。
カチャッ。
開く俺の部屋の扉。
深夜、美しい月の下——俺の部屋へ入ってきたのは。
「くぅん……っ」
純白の旧スク水をその身に纏った天音。
しかも何故か犬耳と犬尻尾を装備し、首には首輪とそこから伸びるリードが付いてる。
俺はそれを見て思わず。
「……は?」
えーと、どういうこと?
思わず口にしたことと同じようなことを、内心でも考えてしまった。
だっていや、マジでどういうこと?
「琥太郎ぉ……あたし、エッチな犬になっちゃいましたぁ」
と、まるで発情したような……甘い声を出しながらこちらへと歩いてくる天音。
彼女はペロリと自らの唇を妖艶に舐めたのち、いきなり犬の芸でよくあるチ○チンポーズを取ってくる。
「あたし、琥太郎にエッチな調教……されたい、ですっ」
「ちょっ」
これあれだ。
もしかなくても『比翼連理』の副作用だ。
天音さん、完全に発情していらっしゃる。
「琥太郎ぉ……これ」
と、天音は俺へとリードを渡してくる——天音の首輪へと伸びているリードをだ。
なるほど、わからん。
「えと、なにこれ?」
「これであたしに……エッチな調教、してくださいっ」
「な、何すればいいの?」
「このまま外に出て、あたしをお散歩させてください……そ、それで……人通りがあるところに行くんです」
「お、おん」
「あたしが嫌がっても……琥太郎はやめてくれなくてっ。それで……あたし、罰と称して琥太郎にエッチな調教、されちゃうんです…….きっとめちゃくちゃにされてそれで……」
と、自らの下腹部を愛おしげに触る天音。
彼女はまるで聖母のような顔で。
「ここに……えへへ、琥太郎の…….欲しいです」
「……」
ダメだこいつ。
早くなんとかしないと。
このあと。
俺は結局天音に押し切られ、深夜のお散歩に出撃したのだった。
いったいその間に、天音と俺の間に何が起きたのかは敢えて省いておこう。
なんせ明日はブレイバー協会で、今日のことを説明しなければならないのだから。
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