第40話 超都市高校の文化祭

 9月下旬。時刻はお昼の12時。天気は晴れ。気温は適温。観光客が来るには良い日だった。


 超都市高校の制服は黒づくめ。黒い集団が目立っていたが、半分くらいは観光客で溢れていた。白薔薇高校の白の制服はあまり目立たない。作戦は成功。


 屋台でフランクフルトと焼きそばを買い、3人で食べる。


「青野1年生。この後、どうする?」


「もちろん戦います」


「え?」


「僕たちも臨時で屋台を出しましょう」


 海人は超都市高校に無断で、勝手に屋台を出すことを計画した。しかもお客さんからお金を取ることまで計画済み。


 AI自動車の車の乗車会をやった。


 広大なグラウンドの隅っこでAI粒子を用いて即興のお店をつくる。そこへさっき乗っていたAI自動車を収納スペースから出してお客さんを乗せる。日本ではまだ法整備が整っていない新車のAI自動車の乗車会。1回100円と割安でお客さんを呼んだ。


 道場破りならぬ文化祭破り。固定費はかからず、原材料費もゼロ。お客さんを一人呼ぶごとに100円が丸々利益になる。機械愛の『AI革命』は経営向きの能力だった。


 可愛い空が看板娘をしてお客さんを呼んだ。訳の分からない文化祭破りに、ノリの良い超都市高校生はパフォーマンスの一環として喜んで参加してくれた。


 四人乗りの車を5分間で100円。AI自動車の中はミニシアターでテレビが見れた。


 出し物は好評で、すぐに長蛇の列が並んだ。


 お客さんが待っている間は機械愛が『AI革命』を使って、飛行機を作ったり、船を作ったりして、お客さんを喜ばせた。超都市高校の校内で、「グラウンドで何か面白い企画をやっている。しかもパンフレットにない即興の企画だ」と噂になり、長蛇の列がさらに長蛇の列になり、校内にいたお客さんのほとんどがグラウンドに出てきた異例の事態になった。


 空と海人が急いで交通整理をやっていると一人の背の高い女性が空に話しかけた。


「白薔薇高校の生徒ですか?」


「はい。そうです」


 空が対応する。


「素敵なイベントをありがとうございます。しかし、生徒会に無断で他校の生徒が、他校の文化祭で企画をやるのはちょっと残念ではないですか?」


 背の高い女性は見覚えがあった。龍虎。超都市高校の生徒会長の獅子祭本人。


 写真や映像で見た姿だと、空も気づく。


「すぐにやめましょうか?」


「いえ結構です。お客様も喜んでおられます。それに、白薔薇高校の機械愛さんの『AI革命』がどんなものか気になります」


 ありとあらゆるクラフトができる機械愛の『AI革命』は、まさしく本人の体力が続く限り、無限に殺戮兵器を生み出せることを証明していた。


 獅子祭は、長身の女子生徒だった。170㎝はある身長、細長い体、黒の制服に、髪をちょっと茶に染めている。イヤリングにアクセサリーと、生徒会長からイメージのズレた格好をしていた。茶髪の長さは肩のあたりまで。鋭い眼光に。おしゃれな女子生徒だった。スカートはちょっとミニ。垢抜けていた。


 超都市高校の名門ほど、おしゃれに寛容な感じ。逆に深海古都は真っ黒でおしゃれに疎く芋っぽいイメージ。


 ギャルっぽい長身の獅子祭が空に質問する。


「我々は来月、白薔薇高校と全面戦争をおこなうことになっています。機械愛さんの文芸部を研究しています。あなたは文芸部について何か知っていることはありませんか?」


 空が何も考えずに質問に答える。


「文芸部は3人。機械先輩。海人。そして、深海古都さんです」


「海人とは?」


「私の彼氏です」


「なるほど。その彼氏さんが、白馬の王子様など、ふざけたネーミングで古都をかどわかした張本人ですね」


 空が失言する。


「海人はそこにいます。機械先輩は深海古都さんの大ファンなんです」


 空が指を海人の方に向ける。続けて、獅子祭の鋭い眼光が海人を捕らえる。殺気を放っていた。


「我々のお姫様を白薔薇高校の文芸部に誘拐するのはご法度ですよ。海人さん?」


 ドッと海人の背中から汗が出る。龍虎の獅子祭。危なかった。睨みつけられただけで悪寒が走った。文化祭で超都市以外のお客さんがいる前でなかったら、たぶん殺されていた。本能がそう告げた。


「なるほど。文芸部総出で偵察に来たのですね。わざわざご足労様。大変そうなので……」


「なので……?」


 海人はゴクリと唾を飲み込む。殺されると思った。


「大変そうなので、私がお手伝いします。あなた方が勝手にやったイベント。お客様が満足するまで帰ってはいけませんよ」


「え?」


 殺されるかと思った海人は、拍子抜けする。全面戦争をやる相手だから警戒していたが、思った以上にウェルカムで歓迎ムードだった。


「機械愛さんの能力は見ていて楽しいですね」


 龍虎が超能力を発動する。『千変』。10人の獅子祭が登場する。


「交通整理をするならば10人くらいで事足りるでしょう。手伝います」


「なぜ?」


「生徒会は人数不足のイベントに手を貸しているのです。私は1000人まで分身することができる。龍虎の『千変』は、だてに超人(レベル5)ではない」


「ありがとうございます」


 海人からケンカを吹っ掛けた文化祭破りは、なぜか好評につき、生徒会長の獅子祭から快く歓迎された。ぶっちゃけると追い出されると思っていたが、案外、悪くない性格だ。


 2時間に及ぶ、AI自動車の乗車会は大好評で、なんとか長蛇の列を消化しきった。1万円以上の利益を得た。また、お客様が列に並んでいた際におこなった機械愛の見世物は絶賛の嵐で、AI自動車に乗り終わった人もしばらく機械愛のAI粒子の凄さに驚いていた。


 何もない空間から、原寸大の飛行機や船ができるのだ。びっくりするのは当然。


 グラウンドに集まった100人以上の人から拍手喝采を得た。


 午後3時。分身の獅子祭が声をかけてきた。


「今日は文化祭を盛り上げてくれてありがとう。海人。空。機械愛。お礼に全面戦争のアドバンテージになる情報でもあげよう」


「いいんですか!?」


 ラッキーに思う海人。


「ああ、古都の小説家の夢は私は賛成なんだ。ただ、兄貴の方がな……正直、束縛のし過ぎで困っている」


 深海海斗。獅子祭の彼氏で深海古都の兄。大の付くほどのシスコンで妹ラブの危険人物。


「だから私は勝っても負けてもどちらでもいい」


「さっき殺気を感じましたけど?」


「誤解だ。私は生まれつき目つきが悪い。ただ見ただけで、殺気は放っていないよ」


「ホッ。ありがとうございます。では、ぜひ問題の深海海斗の情報をください!」

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