喧嘩を始めようか

 あれは多分小学生くらいだったと思う。

 僕は周りの子達よりだいぶ体が小さかった。

 そのせいか


「おい、チビスケ!!金出せよ!!」


 毎日他の生徒達にいじめられていた。

 当然、当時の僕に自分より体の大きい子に、やり返す気力も力もあるわけがなかった。

 そんな日常が続いていたある日、一人の転校生が僕の目の前にやってきた。


「どうも〜〜喜早で〜〜す」


 いつでも明るいその男の子は、すぐにクラスに馴染んでいった。

 だが僕のいじめの日々は終わらなかった。

 そんな苦痛の続くある日のことだった、僕はいつものように体育館裏でいじめられていると、たまたま喜早くんが僕らの前に現れた。


「お前らそれ何してんの?いじめ?」


 喜早くんは真顔でそう言った。今思えばあれは怒ってたのかもしれない。

 だがただの子どもに相手の心情を感じる能力があるはずがなく、

 僕はただビビっていることしかできなかった。


「ああそうだぜ。チビスケをいじめてんだ、お前もやるか?意外と楽しいぞ」


 僕をいじめているガキ大将らしい体の大きい男の子はそう言った。

 その言葉を聞いて、僕はただまたいじめられる相手が増えたんだと本気でそう感じていたんだと思う。


「へーー」


 だけど喜早くんはそんな質問にまるで、興味がないように返した。


「だからよぉこっち来て一緒にいじめようぜって言ってんだろ?早くこいよ」


 ガキ大将らしき男の子が手を伸ばした、その瞬間だった。

 ”ドゴッ”という音とともに喜早くんの足がガキ大将の顔にめり込む。


「アグッ!!」


 そんな悲痛の叫び声を上げながら、ガキ大将らしき男の子はその場に沈み込んだ。


「おい!!お前何すんだ!!」


 当然男の子の周りにいた奴らは急に友達を殴られたことで、怒っていたのだろう。

 喜早くんに殴りかかるがそれらはすべて喜早くんに返り討ちにされてしまった。


「お、お、覚えてろ〜〜〜」


 気づけばガキ大将たちは、泣きながらどっか行ってしまった。

 そしてガキ大将がいなくなったあと、喜早くんは僕との距離をどんどん詰めてきた。

 そしていじめられて、ボコボコにされて、泣いている僕にこういったんだ。


「もうお前がいじめられないように俺が友達になってやる、だからほら笑えよ、人間ってのは下を俯いて生きるより上を向いて笑っている方が楽しいらしいぞ?」


 喜早くんはその時本当に僕を助けるために友達になってくれたのか、それともただ僕がほっとけなくて友達になってくれたか本心はわからないけど、その言葉に僕は救われたんだ。

 そしてそれが僕の初めての友達という存在との出会いだった。


             〜喧嘩を始めようか〜


「くそが数が多すぎんだよっ!!」


 となりにいる喜早くんが敵をなぎ倒しながら言った。

 鰯田くんたちと別れてから20分はたっただろう。

 それにしても相手の人数が多すぎて全然減らない。


「おいおいこれで終わりじゃあねーだろうな?」


 奥でずっしりと構えている大柄な男が言った。

 余裕そうな表情で僕らのことを見ている。まぁ妥当な判断か、僕じゃ絶対にあの大柄な男に勝てないしそれに加えてこの人数差だ。

 自分が負けるなんて一ミリも疑ってない。


「うるせぇ、こんくらいの人数全然余裕だバーカ」


 喜早くんが嘘丸見えの意地っ張りを見せる。

 やっぱりさっき言ってたここを任せろってのは、意地を張ってただけなんだね……

 はぁ全くカッコつけたがりなんだから……


「おいおい、とてもそんなようには見えねーけどな?やっぱりあれか?カッコつけたかっただけか?」


 あの大柄な男、さっきから煽ってくるだけで全く攻めてこないな。

 ただのビビリくんなのか、それとも部下だけで倒せると本当に思ってるのか……

 とにかく状況が悪いにもほどがあるね……

 相手の数が全然減る気配がないし、喜早くんの能力の発動条件であるテンションをあげるってのも全くと言っていいほど、達成できてない。

 これは本当に厳しいね……やっぱ僕がやるしかないのかな……

 まぁでも僕にとって一つ不幸中の幸いと言えるのは、たった今この場はただのゲームの世界ということ。

 つまりどれだけ殴っても人は死ぬことがない。


「しょうがない、僕がこの状況を何とかするしか無いか……」


 やってやるぞ……覚悟を決めるんだ……春川透夜!!


「喜早くん僕が雑魚を倒すよ……だから喜早くんはあの大柄な男を頼んだよ」


 そんな言葉の中から、僕の意図を汲み取ってくれたらしく、喜早くんは黙って頷いてくれた。

 よっし……下ごしらえは終わり、後は僕がやるだけだ。

 僕の意識が戻ったときにはすべて戻ってますように……そしてちゃんと意識が戻りますように。

 神様にそう祈った後、僕は眼鏡を取って服の中にいれる。

 それと同時に頭の中で何か音がし始める。


 ”おい変わるのか?もう少し俺は休んでいたいんだけどな”


 そこを何とか頼むよ……じゃないとゲームするとき変わってあげないよ?


 ”あ?そうかよ分かったって、変わればいいんだろ?変われば”


 ありがと、もうひとりの僕。


 ”じゃあいつもみたいに能力使ってくれや”


 僕はその言葉通りに、ゆっくりと体を透明にさせていく。

 そして体が透明になっていくのに比例するように、僕はだんだんと意識が遠のいていく。

 まるで海の底へと沈んでいくようだ……だけどこの瞬間はいつも心地良い。


 ”じゃあ後は頼んだよ、もうひとりの僕”


「あぁ、任せとけ。というわけで、さっさとかかってこいや雑魚ども!!」


 俺は拳を自分の手にぶつけ、気合を入れる。

 さぁ喧嘩を始めようか。

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