第四話「迷子の子猫ちゃん事件」5


 翌日の放課後。再び子猫のリオンを探すため、東奔西走する折座屋と武村。

 昨日の事が気にかかるが、だからといって考えてもどうにもならない。

 ただのチンピラの内輪揉めだろう。そう結論付け、リオンの捜索に集中するべきだ。

「とはいえ、だ」

 時間は限られている。週末を除けば、捜索に充てられるのは放課後の数時間だけ。

 効率的に動く必要があるが、効率的に動くという事が折座屋は苦手だった。

「どうしたもんだろう」

「とりあえず、行動あるのみ、だよ」

 ひとり言のつもりだったのだが、隣から返事が返ってくる。

 そちらへと視線を向けると、武村がニコッと微笑んでいた。

 笑っている場合ではないとは思うが、だからといって暗い顔をしていれば見付かるというものでもない。

 それに、聞き込みを継続するにも悪影響になるかもしれない。

「由比さんからこれを預かって来たんだ」

 と言いつつ、武村はかばんから紙束を取り出した。よくよく見ると、チラシのようだ。

 迷い猫探しのチラシだ。名前と特徴。それから連絡先が書かれている。

「おお、これはいいな」

「でしょ? 由比さんが昨日徹夜で作ったんだって」

「そうなのか。それはありがたいな」

 折座屋は紙束からおおよそ半分の量のチラシを受け取った。

 今日の活動方針が決まった。このチラシを配りつつ、また聞き込みをしながら探す。

「……なかなか難しいね」

「そうだな。誰も見ていないというのがなんとも言えんな」

 昨日から探し始めたわけだが、現在までそれなりの人数に声をかけたはずだ。

 なのに、ひとりとして目撃情報がないのはどうした事だろうか。

 体が小さいから。すばしっこいから。あまり気にするような人がいないから。

 理由をあげればきりがない。それでも、ここまで見付からないものだろうか。

 見付からないどころか、目撃証言のひとつも出てこないとは。

「折座屋くんって猫飼った事あるの?」

 特に何か理由があったわけではなかった。もしかしたら、捜索のヒントが見付かるかもしれないと思っただけ。

 それだって何か根拠があったわけじゃない。ポツッと頭の片隅に湧いた、ちょっとした疑問だというだけだ。

「俺は……猫は飼った事ないな。どうしてだ?」

「別になんとなくだよ。わたしも飼ってた事ないんだけれど、猫の習性? みたいな事を知ってたら猫探しに役立つかなって」

 折座屋は手にしていた紙束を見つめて、思案する。

 確かに、そういう事を知っていたらリオン捜索に役立ちそうではある。

「なるほど。武村は猫に詳しいんだな」

「ううん、全然詳しくないよ」

「えっと……」

「全然詳しくない」

 二回言わなくてもわかるが。

 折座屋はそう口にしそうになって、寸でのところで言葉を飲み込んだ。

 言っても仕方のない事だし、空気が悪くなったりしても困る。

 何より、口にしても仕方のない事だ。

「それで、このチラシを配るのはいいとして、他にアイデアはあるか?」

 正直なところ、折座屋たちだけでは手詰まりに感じていた。

 リオンの捜索を開始してまだ間もないが、はやくも見付かる可能性は低いように思われる。

「アイデアかあ……パッと思い付くのは餌でおびき出す事、かなあ」

「なるほど。それはいいアイデアだ」

 実際のところ、効果はありそうだった。試してみるのも悪くないだろう。

「ところで、そのリオンだが、最後に見たのはどこだったか知っているか?」

「え? ええと……確か由比さんの家だったと思うけれど」

「詳細な場所はわかるか? 玄関からとか窓からとか」

「えー……」

 武村は虚空を見上げ、記憶を探る。

 しばらくそうしていたが、やがて首を横に振った。

「わからない。由比さんからはそのあたりの事を言われてないから」

「そうか。だったら……」

「由比さんに訊いてみようか?」

 武村は頬を掻きながら、そんな提案をしてくる。実に真っ当な提案だった。

 リオンがどこから家の外へと出て行ってしまったのか。それがわかるだけでも、今後の方針が決められるようになるだろう。

「それで、今日はどうしようか?」

 武村に問われ、折座屋は周囲を見回す。

 あごに手を当て、思案する。今日の活動方針はどうしたものだろうか。

「……とりあえず、このチラシを配ろう。もしかしたら、見た人がいるかもしれない」

「わかったよ」

 おおむね、昨日とやる事は同じだ。道行く人に聞き込みをして、リオンを探す。

 違うのは、折座屋たちがチラシを持っているかいないかだ。写真付きのそれがあるだけで、だいぶ違うだろう。

 今日のところはそれを配りながら、リオン捜索を続ける。そんなところだろう。

「よし、じゃあやるか」

「うん、そうだね」

 そういうわけで、今日もリオン捜索を開始するのであった。

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