第六十二話 王宮にて表彰式
今日は王宮で表彰式があり、明日にはアレッツォへ向けて帰る日です。
豪華な昼食会もあるそうで、羨ましいですねえ。
一昨日は王宮でも野外パーティーだったので楽な服装で良かったのですが、表彰式は玉座の間で行われるので正装でなければいけません。
今朝早くから宮内庁秘書官のアデーレさんがやって来て、式に着ていく衣装のチェックをしています。
着替えは各自部屋にて。
ジーノはバルの結婚式に着ていたスーツで良いとのことでしたが――
「ネクタイの締め方が雑です。私が締め直しますから」
「ああ、はい……」
(うへへ…… アデーレさん、イイ匂い~ やっぱ大人の女だなあ。チューしたら叩かれるだろうか)
何を考えているのやら、ジーノはまただらしないデヘデヘ顔になってます。
そりゃ美人さんが、顔が近すぎませんか?という体勢で彼のネクタイを締めているのですから、仕方がないといえばそうなんですが……
ビーチェは持参してきた、制服に類似したブレザーと膝丈のプリーツスカートで、彼女は学生ではありませんが年齢的に学生と同じなので良いとのこと。
ウルスラは、そんなの持ってたんかい!と言いたくなるような、パンツスタイルのビジネススーツです。
アデーレさんもビジネススーツですが、ウルスラはさらに胸が二回りほど大きいのでサイズが合っていても目立ちますね…… 羨ましい。
出発です。
アデーレさんは運転士付きの魔動車で迎えに来てくれてました。
街で走っている魔動車と違い、ずいぶん豪華ですね。
見た目はクラシックカーですが、日本でいうレ◯サス相当なのでしょう。
三人はそれに乗り込むと、ビーチェとジーノは豪華絢爛な内装をキョロキョロと確かめています。
「すっげえ…… 椅子がフカフカ。中も広いよなあ。」
「これいくらするんだろ?」
「あなたたちが狩ってるジャイアントボアを十頭くらい売ったら買えるんじゃない?」
ビーチェのつぶやきにウルスラが応えました。
ということは三千万リラくらいでしょうか。
こんな車で素敵な殿方とデートをしてみたいです……
「十頭かあ…… 何ヶ月に一頭しか捕れないから、それまでにお金使っちゃうよね」
「陛下が乗る魔動車はもっと高いはずよ。ジャイアントボア三十頭分かな」
「「ひぇぇぇぇっ」」
お金の話になってしまい、アデーレさんは苦笑い。
そんな話をしながら、あっという間に王宮の玄関口まで到着しました。
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王宮の廊下は、まるで映画◯ー◯の休日に出てきた宮殿のよう。
壁には大きな絵がたくさん飾られ、彫刻がいくつも並んでいます。
天井も絵が描かれていますね。
神界の偉い人より人間の方が良い暮らしをしてますよ。
「ほえー お城の中も豪華だねえ。大きな絵がいっぱい飾ってある…… ウチの国ってそんなにお金持ちだったのかあ」
「彫刻もいろんなのが置いてあるな」
(あの裸の女の彫刻、いいおっぱいしてるなあ)
「なに彫刻ジロジロ見てんだよ。スケベッ」
「ち、ちげーよ!」
「シーッ 静かにしなさいっ」
アデーレさんに案内され、キョロキョロする二人。
ちょっとうるさいのでウルスラに注意されてしまいました。
よくアニメに出てくる中世の王侯貴族ではありませんから大勢のメイドさんのお出迎えはなく、アデーレさんに連れられてきたのは小さな控え室。
とは言えこちらも壁面の装飾が見事で、絵も飾られています。
「では、私は到着の報告をしてきますから、しばらくこちらでお待ちください」
アデーレさんはそう言うと、控え室を退出しました。
二人は落ち着かないのか、どうしてもキョロキョロと部屋の周りを見ています。
何故か気配を感じなかったのか、一人の給仕係がいるのを見つけて少し驚いてました。
コーヒーを入れる準備をしているようです。
「――どうぞ」
二十代後半であろう美人な給仕係は、必要最低限の素っ気ない態度でテーブルにコーヒーを三人分置きました。
ジーノが、隣に座っているビーチェにヒソヒソと話しかけます。
(おい、あのメイドさん絶対
(あたしもわからなかった。さすがに殺気は感じなかったけれど。そうだ、このスプーンを投げつけたらどうなるかな?)
(ええっ? やめとけって……)
ビーチェはジーノの制止を聞かず、コーヒーカップに備え付けてあるスプーンを指に挟んで美人給仕係に投げつけました。
――スパッ スタッ
「おおおっ すっごーい! 本当に受け止めた!」
「お客様、お戯れが過ぎますよ。行儀良くして下さいませ」
「ああ…… ごめんなさい……」
美人給仕係もスプーンを指に挟んで受け止めました。
えー 北◯◯拳の二指◯◯把じゃないんですから……
彼女はビーチェに注意し、スプーンをコーヒーソーサーに返しました。
ビーチェに投げつけ返さないかと心配しましたが、それは無かったですね。
ウルスラはその様子を見てプークスクスと笑っています。
美人給仕係はその後、無言で立ち控えています。
まるで空気のように存在感がありません。
ここまでの
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小一時間ほど退屈そうに待っていると、アデーレさんが戻ってきました。
間もなく表彰式が始まるとのことで、玉座の間の隣にある控え室まで移動しました。
「うはあっ 本当に緊張してきた。ドキドキ……」
「偉い人がいっぱい来てるんだろうなあ」
「あなたたち、恥を掻くようなことはしないでちょうだいね」
「わかってるよ……」
五分もしないうちにアデーレさんが呼びに来ました。
若い二人はガチガチになってアデーレさんに付いていき、その後ろをウルスラが余裕綽々で歩いています。
側の扉から王座の間へ入ると、国のお偉いさん方や役人が部屋の両側に数十人ズラッと並んでいました。
三人はその最前列に加わります。
反対側の最前列にはドナートさん、マルゲリータさん、サビーナさんがそれぞれ正装を着て並んでおり、マルゲリータさんがこちらへ小さく手を振っていました。
たぶんジーノに向かってでしょうね。
「皆さん、ようこそ。間もなく陛下がお見えになります。その後呼ばれたら壇上の前に行って下さい」
「「は、はいっ」」
三人に声を掛けてきたのは、皇弟アルバーノ様。
ちょーイケメンで、
静かで控えめな印象で、コロッセオのVIPルームでも目立たず隅で観覧されていました。
「私が動くとおりにやってね。呼ばれたら
「「うん……」」
ウスルラが二人にそう言い聞かせました。
彼女はヴィルヘルミナ帝国の玉座の間でも、バルたちと同じ事をやっていましたからね。
――ゴゴゴゴッ
玉座の間の大きな扉が開きました。
皆がそちらのほうへ注目します。
「国王、アルフォンシーナ・ディ・ステファーノ陛下、御入来!!」
扉の近くにいる誰かが大きな声でそう言うと、王冠を被り正装のドレスを着た陛下が一人で玉座へ向かってゆるりと歩いて行きました。
さすがにVIP室や野外パーティの時と雰囲気が違い、威厳がある姿ですね。
陛下が玉座に着くと、三人の近くに立っている宮内庁長官が前に出て言います。
「ベアトリーチェ・ペコラーロ、ジーノ・カヴァリエリ、ウルスラ・ユーティライネン、前へ!」
ウルスラが先に、若い二人はギクシャク歩きながらも壇上の前へ行き
陛下は三人をジッと見つめています。
「ベアトリーチェ、ジーノ、ウルスラ、顔を上げよ」
陛下がそう言うと、三人は顔を上げました。
ジーノは、陛下の神々しいほどの美しさに呆けたような表情をしてますね。
「この三人は、我が国に長年大きな脅威をもたらしていた野盗集団ソーニョ・ネロとその首領ゴッフレードを見事打ち倒した。よって、国民を代表し国王アルフォンシーナ・ディ・ステファーノの名において感謝と敬意を込めて表彰する」
宮内庁長官が表彰状を、彼の第一秘書官である三十代くらいの男性が大きなアタッシュケースを持って壇上に上がり、長官が表彰状を渡しました。
ウルスラが立ち上がると二人も真似をして立ち上がり、三人揃って壇上へ上がりました。
三人は陛下の前にある一段低い壇上で再び
周りからは大きな拍手が湧き上がりました。
続いて第一秘書官が重そうにアタッシュケースを持って、陛下の横に立ちました。
「これは討伐に対する賞金だ。とても重いが君なら持てるだろう。フフフ」
真ん中にいるビーチェに秘書官がアタッシュケースを渡し、彼女は両手で受け取りました。
ビーチェの手にずしりと重くのしかかるアタッシュケースに、彼女は冷や汗を掻くほどでした。
(うわあ、これいくら入ってんだろうなあ。三人で分けてもすごい金額かも)
「それから君たちはマフィアのリ・ドレ・デル・ソーレのアジトを突き止めて退治してくれたそうじゃないか。国中で悪さをして我々を悩ませていたが、あそこがアルテーナにある重要拠点ということがわかって、撲滅への大きな一歩を進んだわけだ。感謝する」
再び、周りから大きな拍手。
一番の功績はスパルタコなのですが、ウルスラが何も言わないので二人も黙っています。
もしあの男を急に王宮へ呼び出しても、身なりがまずいですからね……
宮内庁長官と第一秘書官が下がると入れ替わりに眼鏡を掛けた細身の中年男性、警察庁長官が壇上へ上がり厚めの封筒をウルスラに手渡しました。
「陛下が急に思いつかれたものでね。用意できたのはこれだけであるが受け取ってくれたまえ」
「ありがとうございます」
警察庁長官が下がると、陛下は三人にこう言いました。
「パーティの時にも少し話をしたが、魔物が増えている現在において君たちの戦力は非常に貴重だ。本当はドナートたちと同じように専任で魔物を討伐をして欲しいのだが、二人は未成年だしウルスラ殿は薬師の本業があるから強要は出来ない。せめてここから遠い我が国の南部の様子を見ながらいつも通り生活してくれ」
「「「はい」」」
陛下が玉座に戻り、謁見はこれで終了。
ウルスラがやや腰を低めに後ずさりで壇上を降ります。
二人も同じように壇上を降りますが――
「あっ」
ビーチェが段差を踏み外し、このままだとコケて無様なことになってしまいます!
「よっとっ」
――ヒューッ スタッ
「「「「「おおおおっ」」」」」
――パチパチパチパチパチパチパチパチパチッ
ビーチェは持ち前の運動神経でアタッシュケースを上に投げ、後ろ向きのバク転をしながら体勢を直し、タイミング良く落ちてきたアタッシュケースを受け止めました。
すると周りから歓声があがり、またまた拍手が湧き上がりました。
でも…… 見えちゃいましたよ。
「ほほぅ、白ですか」
「やはり若い子は白に限りますな」
「冥土の土産にいいものを見せてもらったわい。ほっほっほ」
「美しい。あの脚で蹴られたい……」
「あの子はきっとピンクも似合うぞ」
何てことでしょう。
ざわざわと小声でそんなことを言ってるのが聞こえますが、この国のお偉方はどうなってるのですかね。
幸いなのかわかりませんが、ビーチェには聞こえていないようです。
ウルスラは呆れた顔をしていますが、怒ってはいませんね。
ジーノは、いつものビーチェ過ぎて何のことかわからない顔でヘラヘラしてますよ。
「ふふふっ ビーチェよ。思わぬ余興になって面白かったぞ。では遠路はるばるご苦労であった。明日は気を付けて帰ってくれ」
「「「ありがとうございます」」」
陛下はそう言うと、長官たちと一緒に別の扉から退出していきました。
表彰式はこれで終了し、皆がホッとしています。
他のお偉方もゾロゾロと解散していき、親しくなったドナートさんとマルゲリータさんだけが三人のほうへやって来ました。
「もう明日帰るんだな。いつかビーチェと再戦してえよ」
「またボコボコにしてやるよ。ヘヘッ」
と、二人は握手を交わしました。
ジーノは――
「えーん、寂しいわあ。あたしもアレッツォへ付いて行っちゃおうかなあ」
「あー ははは……」
「俺たちはもうすぐ休みが終わるだろ。じゃあな三人とも、またいつか!」
「じゃあ!」
ジーノはクネクネした動きのマルゲリータさんに絡まれてましたが、彼女はドナートさんに首根っこを掴まれて去りました。
皆で手を振りながら……
「皆さん、ご苦労様でした。陛下が昼食を一緒にと希望されてますので、またしばらく控え室でお待ちください」
「うほっ 待ってました!」
「緊張が解けたらお腹へったよー うふふ」
「あなたたち…… あっ お酒はあるのかしら」
アデーレさんからそのような案内があり、皆は大喜び。
そして再び、スプーンを指で受け止めた美人給仕係がいる控え室へ。
食前なので、この国では珍しいマルベリー(桑の葉で血糖値上昇を抑える効果)のハーブティーを、彼女は出してくれました。
ビーチェたちは早速アタッシュケースと封筒を開けました。
アタッシュケースの中は札束がぎっしり詰まっています。
私は今日もお礼金が頂けると思いますが、比べものになりませんね……
「うっわっ これいくら入ってんだろ……」
「たぶん三億かな。三人で分けて一億か…… ソーマで儲かっちゃったからそれでも少なく見えちゃうわー うっふっふっふ」
ウルスラは金の亡者みたいな笑い方をしてますね。
しかしそんなに稼いでどこに使い処があるんでしょ?
「封筒は?」
「三百万だね」
「それ、全部スパルタコのおっちゃんにあげたら? おっちゃんがいなかったらマフィアが見つからなかったよ」
「あいつはどうせ娼館にみんな貢いで無駄遣いをしていまうからダメね。昔あったんだよ」
「あー そりゃダメだわ」
「娼館で三百万つぎ込むバカはいるとはねえ」
「まあ今度会ったときにメシでも奢るさ」
「でもせっかくの功績が、おっちゃん可哀想だね。あっはっは」
娼館といえばバルもアレッツォの娼館で随分遊んでいたようですが。
ビーチェが聞いたらシカトされるに違いありませんね。
そしてアデーレさんから案内があり、三人は会食が行われるダイニングルームへ向かいました。
---
会食には陛下と、他に皇弟アルバーノ様も。
前国王が亡くなっているのでアルフォンシーナ様が国王を継いでいるわけですが、この二人の他に王族らしい方は先ほどの表彰式でも見かけませんでしたね。
おや、いつの間にかスプーンさんも部屋に控えていますよ。
ビーチェは彼女についてこっそり陛下へ尋ねました。
「ああ、ロザンナ(Rosanna)か。彼女は強いぞ。オーラは君らより低めだが、格闘技能の洗練さはマルゲリータよりずっと上だ。だから給仕の他に私の護衛もやってる。時々稽古もつけてもらってるぞ」
「じゃあ陛下もお強いんですか? マルゲリータさんにも教わっているようだし」
「私などまだまだだ。最低限、自分の身を守るだけの力しかない。先日の試合で君たちの力を見たら、
スプーンさんは、ロザンナさんというんですか。
名前がわかって良かったです。この先ずっとスプーンさんと呼ぶところでした。
会食は皆が楽しく出来たようで、口数が少ないアルバーノ様もビーチェたちが話しているアレッツォのことも興味深く聞いていました。
王族の姉弟はこの時間をとても好ましいと思ったことでしょう。
さて、いよいよ第二章は終わりに近づいてきました。
アレッツォへ帰るまでの続きは次回です。
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