ガチ恋にハマった私⑨
遥香がホストへ行くことになったのは半年前に陽向に誘われたからだ。 それまでは大学生活を過ごしつつ配信を行う毎日を過ごしていた。
配信も今と違ってしたい時にするといった形でそれなりに充実していた。
「陽向ー。 明日の休日はどこへ行こうかー?」
「あー、ごめん、遥香。 明日は彼氏と会う約束をしているんだ」
「あー、そうだったね・・・。 彼氏とデートするのって楽しいの?」
「楽しいよ?」
「ふぅん。 私、彼氏とかいたことがないからなぁ」
同性の友達と遊ぶことの多かった遥香にはまるで想像がつかなかった。 高校は女子高で中学時代も地味な格好をしていて異性からほとんど意識されることがなかった。
「同性同士と異性では別の楽しさがあるかな」
「へぇ・・・」
「遥香は今好きな人もいないんだっけ?」
「いないよ。 だって周りに興味湧く人がいないんだもん」
「まぁ男子って子供っぽいところがあるからねぇ」
「陽向は大分年上の人と付き合っているんだよね?」
「そうだよ。 私はバイト先で出会った人だけど普通はそういう出会いってなかなかないよね」
「うーん、まぁ・・・」
遥香も配信をしていて見てくれる人は年上の男性が多いがどんな人なのか分からないのに恋愛に至るはずがない。
「それに遥香は彼氏がほしいっていう欲求はないんでしょ?」
「んー・・・」
「何か遥香にはトキメキが必要な気がする」
「トキメキィ?」
「そうだ、遥香! これやってみてよ!」
そう言って見せられたのは恋愛アプリ。 女性を主人公にしてイケメンと交流を深めることができる乙女ゲームと呼ばれるもの。 選択肢を選び物語を進めるタイプのもので初心者でも取っつきやすい。
「これ私が普段遊んでいるものなんだ。 無料チケットが大量に余っているから全部使ってシナリオを読んでみなよ」
「・・・」
あまり興味がそそられなく露骨に嫌な顔をしてしまう。
「そんな顔はしないの! さぁ誰を相手にする?」
「別に誰でも・・・」
「好きな性格、タイプとかは?」
「特にないかな」
ということで王道の俺様系のメインキャラを攻略することになった。 一時間程かけ全ての物語を読み終える。
「どうだった?」
「・・・いや、よく分かんない。 何これ? 互いに好きになっては駄目っていう約束をしているのにどうして最終的に二人は結婚したの!?」
「はは、そういうお話だから」
「それに恋に落ちる瞬間よ。 たった一度守られただけで恋に落ちるもん? いくら何でもこの主人公はチョロ過ぎ」
「あー、もういいよ、遥香! じゃあ別のところへ行こう!」
「別のところって?」
陽向は遥香からスマートフォンを返してもらい席を立った。
「キラキラと輝くお店だよ」
そういうことでアイドルショップへとやってきた。
「確かに物凄くキラキラはしているけど・・・。 これって全て加工のおかげじゃん」
「まぁまぁそう言わずに。 遥香が物語でトキメかないなら容姿で勝負しようかなと思ったの。 とりあえず回ってみよ? 気になる人が見つかるかも」
陽向はどこかのコーナーで止まることを予想していた。 だが遥香は足を止めることなく店内を一周回り終えてしまう。
「あれ、もう終わり?」
「遥香、気になった人はいなかったの?」
「特にいなかったかな」
「こんなにイケメン揃いなのに・・・。 遥香は面食いでもないんだね」
「画面越しではそもそも何も伝わらないし。 アイドルってあれでしょ? 人前ではよく見えていても裏の顔はどうなのか分からないよ?」
「そんなこと言わないの。 ・・・あ! なら今からホストへでも連れていってあげようか?」
「え、ホスト? あのチャラそうな人が多いところ?」
「何そのイメージは。 でもまぁチャラいっちゃチャラいか。 そこなら年齢が上の人が多いし直接会うこともできるから。 みんなイケメンだよ?」
「ホストもアイドルと一緒でしょ? 接客業だからいい顔をするのは当たり前。 裏ではどんな顔をしているのか分からない。 そんな気味の悪いもの・・・」
「それは遥香が直接会って話して確かめてみたらいいんじゃない?」
その言葉がきっかけだった。
―――そっか、そうだった・・・。
―――私をこの世界へ連れ込んだのは陽向なんだ。
―――私がこんな惨めな思いをするのは陽向のせいなんだ!!
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