第6章:秘められたもの
第51話:ノートの持ち主
『クリストファ、ちょっとここ訳してくれる?』
『いいよ』
俺は自力で訳せない部分を、クリストファに頼った。
クリストファは英語圏の人だし、科学者だから俺よりもノートを理解しやすいからね。
「その人が、コールドスリープの研究者さんかい?」
「そう、俺の健康管理担当だった人だよ」
ジル陛下は霊が姿を現しても、やんのかポーズにはならなかった。
どっしり落ち着いた様子で、俺の膝の上に座っている。
さすが王たるもの、度胸が違うな。
訳してもらった内容によれば、薬物によって猫の遺伝子を変化させたという人物の研究チームは、北海道や沖縄を中心に実験を行っていた。
その理由は、北海道や沖縄には野良猫がたくさんいたからだそうだ。
仔猫だけを連れ去り親猫を残しておけば、すぐに発情・交尾をして次の子が生まれるのも都合が良かったんだろう。
猫たちのフォースは軍事利用される予定だったようで、日本にある米軍基地内で密かに実験が進められていたという。
実験は野良猫だけでなく、ペットショップやブリーダーから買い取った純血種も使われた。
ノートには、イエネコで成功した後、西表島で交通事故死したイリオモテヤマネコからコッソリ採取した毛から作り出したクローンを使った実験もしたと書いてある。
そのクローンを西表島に複数放した結果、イリオモテヤマネコの遺伝子に知的生命体への進化因子が組み込まれたという。
「私の祖先は大陸で作られた種だから、このノートの人物にとっては入手しやすかっただろうね」
「じゃあ、やはり陛下の系統はメインクーン?」
「そうだよ」
メインクーンはアメリカ原産の猫で、アメリカにいた短毛種の猫に欧州の長毛種の猫を交配して誕生した種といわれていた。
陛下の祖先は多分、ブリーダーかペットショップから買い取られた仔猫なんだろう。
「実験に使われた薬物で健康を害した猫はいないのは奇跡みたいな気がしますね」
「10年の予定が2000年も凍ったままだった君も奇跡みたいなものだけどね」
ノートには実験の結果も残されていて、死んだり具合が悪くなったりした猫はゼロと記されている。
それを奇跡だと言ったら、陛下から俺も奇跡だと言われた。
俺のコールドスリープは10年が成功したら次は20年の予定だったけど、一気に200倍長くなったのは想定外。
猫を知的生命体に進化させる実験、結果は大成功だ。
残念だったのは、当の研究者たちが猫文明誕生を見ることなく死んだことかな。
もしもフォースの軍事利用まで進んでいれば、人体消滅の毒ガス攻撃を防げたかもしれない。
ちょいと、遅かったな。
とはいえ、この研究が無ければモリオン博士たちが遺跡調査をすることはなく、俺もコールドスリープから目覚めさせてはもらえなかっただろうな。
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