第37話:かつて暮らした部屋

 ミジュンの唐揚げを食べたら実家がどうなっているか気になった俺は、二千年ぶりに里帰りしたいとモリオン博士にリクエストした。


「俺が生まれ育った家に行ってみたいんだ。鉄筋コンクリートでできているから、取り壊されてなければ残っているかもしれない」

「調査チームも一緒に行ってもいいかい?」

「うん、もちろん」

「では、次の調査はタマの実家だね」


 モリオン博士たちも興味があるらしく、みんなで行ってみることになった。

 古代の人々がどのように暮らしていたのかを探る遺跡調査、実際に住んでいたことがある者が同行すれば調査が捗るだろうね。

 OISTも俺がいた場所ではあるのだけど、生活の9割がコールドスリープ中で、自分の部屋は持っていない。

 コールドスリープが解除されているときは、俺の健康管理を担当するクリストファの部屋で同居していた。


「確かこの引き出しに……お、あったあった」


 二千年前の記憶を頼りに、実家の鍵を探しに学生寮へ入ってみると、昔のままの小箱に鍵が入っていた。

 この小箱はクリストファがくれた物で、俺が10年後に目覚めたときに鍵が紛失していたらいけないからって箱に保管したんだ。

 10年どころか二千年後になっちまったけど。

 鍵はクリストファの部屋の中にきちんと保管されている。


「今まで預かってくれて、ありがとな」


 机の隣にあるベッドに視線を向けて、俺は呟いた。

 そこには、ハローキティ柄のパジャマだけが横たわっている。


 クリストファは金髪碧眼の知的なイケメンなんだけど、キティマニアだった。

 プライベートの服や小物には、さりげなくキティが入っている。

 研究室では白衣や制服を着ているので、知っている人は少ないだろうな。


 ケイトの話では、未知の化学兵器が学園を襲ったのは真夜中だったという。

 学生たちは何も知らずに眠ったまま、毒ガスによって消滅してしまった。

 クリストファも、このパジャマを着てベッドで眠っていたんだろう。


「ちゃんと成仏したか? 海の向こうの楽園ニライカナイへ行けたか?」


 小さな声で問いかけても、返事をする者はいない。

 俺はパジャマを畳んで枕の横に置いた。



 里帰り&俺の実家調査隊の出発日。

 お馴染みのメンバーが俺に群がる。

 実家の場所をイメージできるのは俺だけだから、みんなは俺の空間移動に加わるらしい。


「ではみんな、タマに乗って」

「「「は~い!」」」

「って、やっぱり俺、乗り物?」


 横綱ボディのミノルとアババを含む遺跡調査チームに加えて、ハチロウとミカエルまで乗っかる。


 総重量、35キロ超えてると思うよ。

 俺の足が痺れる前に移動しよう。


 俺はフォースを発動させ、みんなまとめて空間移動に入った。



※37話の画像

https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818093086354658790

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