第35話:潮干狩りへ行こう

 バーベQセットを手に入れた俺は、魚介類も焼いて食べたくなった。

 魚はイナリにリクエストすればいつでも手に入る。

 でも、貝や海老は手に入らない。


 貝は、基本的に猫には毒となる食べ物だ。

 二千年より更に昔、俺が生まれる以前は「猫が貝を食べると耳が落ちる」という言葉があったという。

 それは、猫が貝を食べると発症することがある「光線過敏症」という病気の症状に由来する。


 猫が貝を食べると、貝に含まれるピロフェオホルバイドαという毒成分が血中に溶け込む。

 毒成分が溶け込んだ血管に日光が当たると炎症が起き、かゆみや腫れが生じ、最悪の場合は壊死してしまう。

 毛が薄く日光に当たりやすい耳は特にその症状が出やすいため、壊死した耳を見た人々が「猫が貝を食べると耳が落ちる」と言い伝えたんだ。


 ほとんどの貝はダメだけど、アサリは少量なら大丈夫。


 とはいえ、アサリはチアミン(ビタミンB1)を分解する酵素「チアミナーゼ」が多く含まれ、チアミンが不足すると、「チアミン欠乏症」になるので、食べ過ぎは危険。

 チアミン欠乏症は人間でいう「脚気かっけ」で、疲労感、筋力低下、歩行障害、視力障害および発作などの症状が起きて、悪化すれば死に至る。

 チアミナーゼは生のイカやスルメにも含まれ、チアミン欠乏症が「猫がイカを食べると腰を抜かす」という言い伝えの由来になっている。


 ホタテは、猫に与えてもよいとされている数少ない貝だ。


 ビタミン・亜鉛・タウリンが豊富に含まれ、高たんぱく低カロリーで、適量であれば猫の健康をサポートしてくれる。

 但し、食べてもいいのは貝柱と貝ヒモのみ。

 他の部分は毒性が強かったり消化が難しかったりするので、猫たちが食べることは禁忌とされる。


 ほとんど危険物(毒)ゆえに、猫文明の食材に貝は無い。

 でも海岸へ行けば、貝はある筈。

 バーベQセットがあったエリアから潮干狩りに使う熊手やロングドライバーやバケツも見つけたので、俺は大潮の日に潮干狩りへ行ってみた。


「オレはあっちで魚を獲ってるから、何か手伝うことがあれば念話で言ってくれ」

「うん。もしもタイドプールで貝を見つけたら教えて」


 大潮の日はタイドプールに魚が取り残されていることが多い。

 イナリはその魚狙いで、一緒に来ている。


 珊瑚礁の遠浅の海岸。

 人類滅亡二千年後の時代、ペットボトルや空き缶など人工的なゴミは1つも落ちてない。

 空も海も青く澄んだ場所で、最後の人間となった俺は、漁業権に妨げられることなく貝を採った。


 狙いはリュウキュウアサリ。

 大きめのアサリで、網に乗せて炙り、パカッと開いたところへ醤油をかけて焼いたら最高に美味い。

 二千年前は滅多に見つからないレア貝だったけど。


「お~、あるある。採るヤツ他にいないもんなぁ」


 今となっては取り合うライバルはいないので、独り占めだ。

 欲張らずに自分が食べる分と猫たちの味見用(ちょっとだけね)を採って終了した。


 イナリも魚獲れたかな? と振り返ってみたら……


「見てくれ! 今日は大量だぜ!」


 ……フォースで空中に小魚を数十匹浮かべながら、ドヤ顔でこっちに来たよ。


 魚屋(だった筈)すげぇな。

 

※35話の画像

https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818093086353877774

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