第26話:やんのかステップと幽霊

 コールドスリープ中で仮死状態になっていた俺は、人類滅亡の原因になったという隕石群を見ていない。

 世界各地に降ったという隕石は、人々に一体なにをしたんだ?

 いろんなものが超長期保存されているOISTなら、何か情報が残っているかもしれないと思い、俺は遺跡調査チームと共に今日も調査に来ている。



「10年後に会おうって言ってたのに、どうして起こさなかったのかなぁ?」


 自分が眠っていた冷凍睡眠装置を眺めながら、俺は独り言みたいに呟いた。

 俺を起こす筈だった人は、10年経つ前に死んだのか?

 猫たちの話では、コールドスリープ研究ユニット内には、俺以外に人間はいなかったという。

 もしかして、人々が寝静まった真夜中に何かが起きたのか?


「んにゃあぁぁぁ~っ!」


 突然、ポウ博士の悲鳴が通路の奥から聞こえた。

 何かに驚いたみたいだ。


「今の悲鳴は、ポウか?」

「どうしたんだろう?」

「なんかビックリしたみたいな?」

「まさか、またキュウリが突然背後にあったとか?」

「いや、さすがにそれは無いだろ」


 モリオン博士たちと俺は、怪訝に思いつつ現場へ向かった。

 通路の先で、【やんのかステップ】している白猫=ポウ博士がいる。


 やんのかステップとは、毛を逆立てて尻尾を膨らませ、これでもかというくらい背中を丸めたまま、サイドステップで移動する姿のこと。

 俺の記憶では、やんのかステップをするのは、猫が怖いものに負けまいとふんばるときだったような?

 ちなみにポウ博士は、ミカエルが転送したキュウリに驚いたときも、やんのかステップをしていたよ。


「ポウ博士、どうしたの?」

「む? なにかいるようだ」


 俺が問いかけた直後、その場にいた猫たちが全員【やんのかポーズ】になった。

 やんのかポーズとは、ステップは踏まずにその場で毛を逆立てて、思いっきり背中を丸めながら足を踏ん張るポーズだ。

 なんだろうと思った直後、俺は鳥肌が立った。


 猫はこの世のものではないものが視えるという。

 俺は二千年前は霊感なんて無かった。

 でも今、通路の突き当りにあるトイレから、スーッと出てくるモノが見えた。


「シャーッ!」


 真横を通られたポウ博士が、威嚇と共に飛びのいて避ける。

 ホログラフのように実体のない映像のようなモノは、猫たちには見向きもせずに真っすぐに俺に近付いてきた。


『あら? まだ生きている人間がいたの?』


 心の中に流れ込んでくる【声】。

 フォースを使う念話テレパシーとは違う。

 話しかけてくるのは、今はもう生物ではなくなっているモノ。

 けれどそれは、二千年ぶりに見る【人間】の姿をしていた。


『もう随分昔に、みんな消滅したと思っていたのに』


 水色の地に白百合が描かれたロングワンピースを着た女性。

 見た目の年齢は俺と同じで18歳くらい。

 お亡くなりになったのがいつなのかは知らないけど、俺が会ったことがない人だ。


『コールドスリープで眠ってたのを、猫たちに起こしてもらったんだよ』

『コールドスリープ? ああ、貴方いつも凍ってた人ね』


 ……なんか覚えられ方が微妙な気もするが。


 俺たちはようやく、二千年前に何があったのか知ってそうな人(幽霊)に会えた。



※やんのかステップはこちらの画像参照です

https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818093085614854255

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