第10話:癒しの手
人間の手に癒し効果がある。
アンナから聞いた人間にまつわる言い伝えは、いつからのものだろうか?
人間がいた時代から?
二千年前はそんなの聞いたこともなかったな。
人間側には伝わっていなかっただけかもしれないけど。
とりあえず、俺の手には癒し効果があることは、アンナが証明している。
癒しってどの程度までだろう?
少なくともアンナの疲労回復には役立ったようだ。
まあ、それはおいといて。
雉鍋に使う野菜を取りに……
もとい。
古代遺跡調査のため。
俺は調査チームと共に、またOISTの研究棟に来ている。
「こっちは農作物の研究をしていたのかな?」
「植物がたくさんあるね」
OISTでは、さまざまな分野の研究が行われていた。
農業を専門にする大学ほどではないかもしれないけど、農作物の研究もしていたんだろう。
そしてここにも、保存技術の研究が生かされている。
「お! 野菜の種がある!」
長期保存研究に使われた野菜の種を発見!
園芸店で売っている小袋入りのやつだ。
種まき時期から育て方まで袋に詳しく書いてある。
「プランターとかもあるかな……あった!」
ホームセンターで買ったっぽいプラスチックの野菜ポッドまであるぞ。
肥料が混ぜ込まれた家庭菜園用の土も一緒に見つかった。
「へえ、良さそうなトイレね」
「って、これ猫トイレじゃないから!」
後ろから覗き込んで言うのは三毛猫のミケ。
俺は慌ててトイレ誤認を訂正しておいた。
そういや、猫たちは砂や土が入った箱型トイレを使っていたな。
プランターで野菜を育てる前に、みんなにこれはトイレじゃないって言っておかないとウ〇コされそうだ。
「お! こっちにもいい物あるぞ!」
って声がしたので振り返ると、黒白タキシード猫のアババが陶器の大きな植木鉢を見つけていた。
丸いボウル型の植木鉢が、猫たちを魅了する。
「おお! いいねそれ!」
「おっとミノル、これはオレが先だ」
ミノルに先を越されまいと、アババが急いで植木鉢に入ろうとする。
しかし彼は、運動神経が鈍かった。
「あっ!」
植木鉢のフチでツルッと足を滑らせて、バランスを崩して転倒したアババ。
更に運悪く、棚から落下。
胴体着陸(?)みたいに腹から床に落ちた。
もっと運が悪いことに、少し遅れて落下した分厚い陶器の植木鉢で、ゴンッ! と頭を強打してしまった。
「おいおいおい、大丈夫か?」
あまりのドジッ子+不幸っぷりに驚き呆れた俺。
アババに近付いてみると、笑い事で済まない事態になっていた。
目の焦点が合っていないアババの頭が、異常に腫れ上がってきた。
泡を吹いてピクピク痙攣しているから、だいぶヤバそうな気がする。
「大丈夫じゃなさそうだ。頭蓋骨が陥没している」
「えぇっ?!」
「私、医者を呼んでくるわ!」
アババの状態をフォースで調べたモリオン博士が告げ、ミケが慌てて瞬間移動で医者を呼びに向かう。
ミケはすぐ戻ってきたけど、医者は連れてこなかった。
「どうしよう。先生が往診に出ていて留守なの。帰ってくるのは夜になるって」
「早く治療した方がいいが、治癒のフォースが使える者は他にいないから待つしかないか」
ミケとモリオン博士の会話を聞きながら、俺はアンナが言っていたことを思い出した。
俺の手にあるという「癒し効果」はどの程度まで癒せるのか?
「ちょっと試してみる」
「ん? 何を試すんだい?」
「人間の手にあるっていう、癒し効果」
「そういえば、祖先が残した文献に少しだけ書いてあったな。試してみてくれるかい?」
「うん」
俺はアババを撫でてみた。
二千年前の俺には、何も特殊能力は無かったけど。
アンナは俺が撫でたら疲れが癒えたと言っていた。
少しでも回復効果があるなら、何もしないよりはマシかもしれない。
そう思いながら触れた俺の手から、緑色の光が滲み出てくる。
光はアババの頭部を覆った。
腫れが急速にひいて、目の焦点が合い始めて、意識が戻ったタキシード猫がムクリと起き上がる。
何があったか一番分かっていないアババは、俺の手に気づいて不思議そうに首を傾げた。
「あれ? オレ何かした?」
「滑ってコケて棚から落ちて植木鉢が頭に直撃していたよ」
「うへっ?! 災難すぎるだろ……」
そんな会話をしていると、他の猫たちが集まってきて俺の手をジーッと見つめてくる。
緑色の光はアババを完治させてしばらくすると、スーッと消えてしまった。
「驚いたな。人間にはこんな凄い治癒のフォースがあるのか」
「治癒のフォースが使える者は少ないから、助かるわね」
「タマが治してくれたのか。ありがとう」
猫たちは驚きつつ喜んでくれた。
しかし俺、いつの間にフォースが使えるようになったんだろう?
※第10話の裏話と画像
https://kakuyomu.jp/users/BIRD2023/news/16818093084706238251
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます