9-7

「嘘……でしょ?」


捜査四課・司はビルの外から、爆発の様子を見ていた。



犯人グループの男達が飛び出してきた。

これで、みんな脱出できる。

司はそう思っていた。


しかし、何を聞いたのか、課長の熊田が飛び出すようにビルの方に向かうと、同じタイミングで北条が弾かれるように飛び出してきた。



このときに、司は違和感を覚えた。


なぜ、北条と一緒に灰島は出てこないのか。

なぜ、犯人グループは先に出てきたのに、北条があのような飛び出し方をするのか。



胸騒ぎがした。


司に通話を繋いだ状態で、『あのようなこと』を言ったことも、違和感のひとつであった。



「だから決めたんだ。これからはもうひとりじゃない。一緒に寂しさや悲しさを分かち合えるようになろうって。無事に戻ったら言うつもりだ。一緒になろうって……。」



無事に帰るつもりであれば、わざわざ通話を繋いだ状態で人に話さなくても、戻ってきてから言えば良い。



「まるで、遺言みたいに……。」



そう思った瞬間、ビルが爆発したのであった。



「…………え?」



何となく、予感はしていた。

もしかしたら灰島は、無事に戻っては来ないかもしれないと。

灰島は、何らかの覚悟をしたのかもしれない、と。



しかし、そんな縁起でもない予感は外れて欲しい、司は心底そう願っていた。



「いや……だ。」



あのビルの倒壊の具合では、灰島は単独での脱出など出来ない。

それどころか、無事に生きていられるかも怪しい状況である。



「ちょっと……話が違う……。」



ゆっくりと、ビルの方へと近づいていく司。

その目は生気を感じさせない、虚ろなものになっていた。



「帰ってきて……そうしたら、一緒になるんでしょう?」



倒壊したビルの残骸からは、時折小規模な爆発が起こっている。

ガス管や可燃物に引火しているのだろう。

近づくことも危険な状態になっていた。



「一誠……いっ……せい……。」



もうすぐ、ビルの入口のあった場所に差し掛かる。



「おい!!」



そんな司を、熊田が抱えるように押さえた。

そのまま熊田は司を持ち上げ、まるで荷物のように遠くへと退避していく。

その後ろを、重い足取りで北条が歩く。



「イヤ!!離して!まだ一誠があのビルに!!」



『氷の新堂』


常に冷静沈着で取り乱すところなど見たことがない彼女が、半狂乱で暴れだす。


その光景に、熊田は怒りに身を震わせた。



「黒幕の野郎……絶対に見つけ出して、痛い目に遭わせてやるぜ……!」



絞り出すように呟く熊田。

そして……



「いやぁぁ!!一誠~~~!!!!」



少しずつ炎に包まれていくビルに向かい、司は必死に愛する者の名を叫ぶのであった。

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