8-8

夜も次第に更けていく東京。


特務課メンバー達は他部署の刑事と協力しながら、人質の闇を暴いていく。



「ちっ……どうしてこう小さな犯罪が後を絶たないんだよ……」


「日々、日本の技術や経済は発展しているからなぁ。発展すれば犯罪も周到になってくる。それが歴史ってもんだ。」


「辰さん、老人かよ!」


「おう、老人だよ!!」



これでいったい何件の事件を解決し、何人の軽犯罪者を逮捕してきただろうか?


朝から働き詰めの特務課メンバーをはじめとする刑事達にも疲労の色が見え始める。



「しかし……ぼちぼちこの状況をどうにかしねぇと……。俺たちだって機械じゃねぇ。体力が落ちれば事件解決だって遅くなるし、そもそもやんちゃな組織なんて逮捕できなくなるかも知れねぇ。そうなったら……人質が、死ぬ。」



虎太郎はまだ疲れを見せていないが、周囲の状況、無線から聞こえる刑事達の声を聞き、不安を抱く。



「確かに……ずっと後手と言うわけにもいかない。どうにか突破口を見いださないと……。」



司も、どうすれば現状を打破できるかを考える。



……その時だった。



「……大丈夫です。追い風はこちらに吹いたようですよ。」


志乃が、小さな声で言う。


「どう言うことだ?」


「都庁上空を見てください……。」


志乃の声に、都庁の方を見るメンバー。

そこには……。



「あれ……ヘリか?」


「ヘリだな……でも、自衛隊でも警察のでもないぞ?」


「えぇ……あれは、報道?」



一同、足を止めてヘリの機体を凝視する。

そこには……


『東京テレビ』


と言うロゴがはっきりと見えた。



「おいおい、なんでだ?」


一同が驚いた表情でヘリを見る。



「任意同行された人質の1人が、1枚のメモを持っていたらしく……。」


「そのメモには、なんて?」




「『捜査一課の稲取課長にしか供述はしないと言うこと。そして、稲取が出てきたら、このメモを渡すこと。』と言われたそうです……。」



そう説明した、その直後に、稲取が司令室に飛び込んできた。


「おい姉ちゃん!お前いつから知ってやがった!?」



息を切らし、困惑した様子で志乃に詰め寄っていく稲取。


「稲取一課長!?」


「なんだよ、何かあったのか?」


無線からしか聞こえない、緊迫した様子にメンバー達も戸惑う。



「メモにはこう書いてあったんだよ!『いちばん報道で影響力のある局に電話をしろ。都庁がジャックされたと。』ってな!」


「マジか……。」


「このタイミングで?絶妙じゃない……!」



東京テレビは、国内でも屈指の視聴率を誇る報道番組『NEWS24』を柱とするテレビ局。



「こりゃぁ……日本中が注目する事件になるぞ……!」


「すごい……」


「でも、いったい誰が?」



ここまで周到な準備をする人間は、特務課内では1人しかいない。

しかし、その1人はいま、自ら都庁に身を置いているはず。



「誰がも何も、このメモの字は北条さんの字だ。あの人……どこまで想定してたんだ?」


「北条さんの!?」



稲取の言葉に、捜査に出ている4人が驚きの声をあげる。



「しかし分からねぇな……。Fの野郎がそいつを人質にしたのは必然かも知れねぇが……その人質が犯罪を犯していて、しかも解放されるなんて計算……そんなこと出来るのかよ……。」



稲取が信じられない、と言った様子で呟く。



「それで、姉ちゃん、いつから知ってたんだ?北条さんが裏切っていない、と言う事実を……。」



稲取が志乃に問う。

志乃はクスリと笑うと……。



「……はじめから、です。」


……と、堂々と言った。



「北条さんが我々を裏切る可能性は皆無だと思っていました。北条さんほどの頭脳の持ち主が、どちらについた方がメリットがあるか、その計算を誤るはずがないと思っていたからです。そして、その『メリット』は……北条さんがいる、それだけで警察側に大きくある。それは分かっていましたから。」


「すげぇ……」


「僕、さすがにそこまでは計算してなかったよ……。」



志乃の信頼と『計算』に、メンバー達は驚いた。

そして……。



「もうさ、志乃ちゃんの前ではどんな演技をしても無駄だって事だよね。せっかくシリアスな演技を決めて見せたのにさー、結局4人しか騙せないんだもの。」


次に聞こえてきたのは北条の声だった。



「北条さん!」


「マジで人騒がせー!」


「まったく、人が悪いぜ。」



メンバー達が次々と北条に対しての不平を漏らす。



「ごめんごめん。敵を欺くにはまず味方から、だよ。でもさー、1人くらい無線で呼んでくれても良くない?信じてくれてたら、冗談だろう?聞いてるんだろう?とかさー」


「うっ……」


「無線機、持っていってないと思った……」



小さく笑う北条。



「北条さん、いまどこに?」


「あぁ、知事の執務室にいるよ。知事も一緒で、僕VIP待遇。」


「Fは?」


「あぁ、テレビ作戦が功を奏したんだろうね。慌てて出ていったよ。まぁ、すぐに戻ってくるだろうけど。」


「そっか……どうにか突入出来ないのかよ?」


「うーん、正攻法では難しそうだよ。なんか訓練を受けた軍隊みたいな人たちが入口付近に配置されてるからね。無理に入ったらその時点で蜂の巣にされそうだ。」


北条は冷静に、都庁の中の様子をメンバー達に伝えた。


「でも北条さん、どうして人質にうまいことメモを渡せたんだ?『ゲーム』にしたってあんたが都庁に行った後の話だろう?」



そう、メンバー達、そして稲取が不思議に思っているのは、なぜ北条が解放された人質にメモを渡せたのか?と言うことだ。


「あー、僕ね……都庁職員の事件について、個人的に幾つか追っていたから。犯人の目星も大体ついてた。その人宛に手紙をしたためておいた、ただそれだけの事だよ。正直、賭けだったんだー。まさかこんなに計算通りに事が進むなんて、オジサン驚きだよ。」


「嘘……だろ?」



北条の言葉に、一同言葉を失う。



「まず、Fに呼ばれた時点で、僕は『ある筋のハッカー』に独自に電話をして、犯人グループの配置を確認した。それと同時に、知事の秘書が執務室に入らずに警備室に入ったことも知った。そこで、職員の事件の犯人さんに、手紙をしたため、警備室の外側の窓からそれを差し込んだ。拾ってくれるかどうかは神任せだったけどねー。」



Fに呼ばれたあと、つまり都庁がジャックされたことを知っていた北条は、その現状をどうにか外部に伝える手段を考えていたのだ。



「でも、なんで人質に?」


「たぶん、『神の国』の大筋の目的は、死刑囚の解放なんだろう。でも、Fという人間の性格や前歴から、きっと何か自分が他の人たち、特に警察に対してマウントを取る事案が起こるだろうと推測した。彼、元は窓際族で見向きもされなかったらしいからね。」


「驚いた……そこまで計算していたって言うの……?」


「でも、上の……神の国幹部の意向は汲みたい。上の人にも良い顔をしたい。そうなれば、大筋を達するための余興として、都庁の闇をネタに遊ぶんじゃないかな?って思った。その中でも軽い犯罪の人質を解放するパフォーマンスを見せて、我々警察が『事件を解決すれば人質は助かる』って刷り込みも怠らなかった。まったく、賢い犯人だよ、Fは。」



やれやれ……と持論を展開した後に溜め息を吐く北条。


「じゃぁ、この流れ……予想していたってことか?」


「まぁ、大体だけどね。」



捜査に出ていたメンバー達が、言葉を失う。



「だったら最初から言えってんだ!さんざん振り回されただろうが!」


虎太郎が北条に言う。



「まぁまぁ。敵を欺くにはまず味方から、だよ。お陰で、Fの気持ちが乱れたじゃないか。」


「そりゃ、そうだけど……。」


「ここからは、こっちも全力で挑まないとだね。ひとり、恐ろしい人物がいる。狙撃手……香川くんを撃ったスナイパーが、都庁にいるよ。」



「なんだって……!?」



虎太郎が驚きの声を上げ、あさみが小さく舌打ちをする。


(厄介ね……。あの射撃精度は正直、脅威だわ……。私たちが敵とみなされたら、どこからでも狙ってくるに違いない……。)


特殊部隊にいた経験のあるあさみだからこそわかる、狙撃手の脅威。

自分の予想を超える射程距離を見せた狙撃手。

その射程距離は、常人では『ありえない』のだ。



「……突入に関しては、慎重になった方が良さそうね。迂闊に突入しようとしたら、きっと恰好の的にされて終わりよ。」



今のところ、目立った動きは見せていないが、それがまた、あさみにとっては脅威なのだ。


「大人しくしているのも、スナイパーとしての実力が高い証拠よ。騒いで実力を誇示しようとするヤツもいるけど、そうなったら狙撃手としての精度は下がるわ。だって、発射元を知らせることになるから。どこから撃ってくるか分からないから、狙撃手は怖いのよ。」



メンバー一同が息をのむ。



「つまり、このデカイ都庁のどこから自分の眉間を狙ってるか分からねぇ……ってことだな?」


「その通り。北条さん、狙撃手はいま一緒の部屋に?」


「……いや、テレビ局のヘリが来た時点で、どこかに行ってしまったよ。この部屋、今は僕と知事だけだよ。」


「そう……厄介ね。監視とカメラの死角をついて突入するなら、狙撃手の居場所を特定するのが大前提よ。」


「今回の事件、難易度が高そうだねぇ……。」



北条が眉間に皺を寄せる。



(きっと、その狙撃手は組織のなかでも重要なポジションなんだろうねぇ……。そんな彼が、ここに配置されたと言うことは……。)



北条の推理が始まる。

手帳に何やら書き込み、唸りながら執務室内を歩く。そして……


知事を、チラリと見る。



「この、東京都庁には、彼らが欲しがっているもの、または絶対に世にだしたくないものがある。そういうことだよね……人を殺してでも守りたい、何かが……。」



北条が導きだした結論は、ひとつ。


『神の国を追い詰める何かが、この都庁には存在する』


「みんな、僕もそろそろ動き出すことにするよ。この事件を早めに解決する鍵が、この都庁のなかにはあるみたいだ。いちばん……都庁のなかにいる僕が、それを探しやすい。」



「でも、北条さん1人では危険だわ……。」


「うん、ものすごく危ないだろうね。でも……」



久し振りに、北条の胸が高鳴る。



「君たちには、Fを少しだけでも足止めしておいて欲しい。みんなを……信じてるよ。」



Fと狙撃手、ふたりに探されては、北条が捕まるのも時間の問題だ。

少しでも、単独で動ける時間が欲しい。


北条は、仲間達を信じることにした。


「なかなかやりますね……しかし、次はどうでしょうか?」



次々と事件を解決していく特務課メンバー。

しかし、Fはまだ余裕の表情を見せている。



「今回の人質は……1人にしましょう。」



そして、次の人質が展望台にやってくる。



「紹介しましょう……今回の『目玉商品』です。彼の犯した『罪』を暴いてください。せっかくテレビ局の方もいらしてるんだ、しっかりと頼みますよ。テレビ局にも電話を繋いでおくとしましょう。今回はなかなか面白いイベントとなりそうなので、制限時間は設けないこととします。しかし、それではこちらが不利になりますからねぇ……。」



人質の男は、展望台に入った時点で、身体中が震えている。

それは、自らの死に対する恐怖からなのか、それとも、これから罪が暴かれようとしていることに対しての恐怖なのか……。



「この、人質の彼。その罪が明らかになったら、おそらく世間も彼の死を望むことになるかもしれない。解放されても、きっと彼の人生は真っ暗です。いま、ここで死んでしまった方が楽だと思えるほどに……。そこで、ゲームオーバーの条件は、ただひとつ。」



Fは、いつの間にか『狙撃手』とともに展望台に来ていた。



「……彼自身が死を選んだ、その時点で今回のゲームはゲームオーバーとします。優しいでしょう?犯罪者の望みを叶えてあげることが出来るのですから。」


「……この、外道が……!」



Fが自信ありげに語るゲーム内容に、虎太郎の怒りが沸々と込み上げてくる。



「難しいわね……。今回は、ただ事件を暴くだけではダメ。あの人質を『死なせない』ということが条件になってくるわ。でも……。」



司も、今回の人質解放の難しさが分かっていた。



「でも、事件を解明することで、彼を余計に追い詰めていくことになりかねない……。かといって、捜査しなければ人質は解放できないどころか、都庁立て籠り事件自体をいたずらに長引かせることになってしまう。他の人質の体力も心配だわ……。」


少しずつ追い詰められていく、特務課メンバー。



「あれって……。」


そんな中、あさみがスマホの画面を見てなにかに気づいた。

画面には、悠真が転送した展望台の様子が映し出されている。



「ねぇ、Fの隣にいる男、最初からあの場所にいた?」


「いえ……最後の人質と一緒に上がってきました……。」



あさみは、1人増えた男が気になる様子。



「あの、周囲への警戒のしかた……慣れてるわね。たぶん、あの男が『狙撃手』よ……。」



あさみの勘が、最後に展望台に上がってきた男は危険だと告げていた。


「この人質、名前が分かればすぐに警察の皆さんは過去の事件にたどり着くでしょう。しかし、その事件には、まだ『闇』がある……。」



Fが、展望台で人質の男を一瞥する。

男は、その『闇』と言う言葉を聞いた途端、ガタガタと震え出した。



「もちろん、共犯者もいます。せっかくなのでご登場いただきましょうか……。」


Fが目配せをすると、犯人グループの2人が、さらに男を2人、展望台に連れてくる。



「さて、名前はどうしましょう?私が公表しますか?それとも……自分の口で言いますか?」



人質の男3人は、恐怖で震えながらも、必死に言葉を振り絞る。



「頼む……許してくれ。もう罪は償ったじゃないか……!」



いちばん最初に展望台に連れられた男が、必死にFに懇願する。

しかし、Fの冷たい視線は変わらない。



「本当に、『全て』償いましたか?」


「あ、あぁ……もちろんだ!」



Fの問いに、男は何度も首を縦に振る。

しかし、それがFの気分を害したようだった。



「気に入りませんね……それでは何か?私が間違った情報を仕入れてきた、そう言いたいのですか?」


「い、いや、それは……頼むよ!許してくれよ!!」



真っ青な顔をして許しを乞う男は、Fに土下座をするような形となる。



「質問の答えになっていませんねぇ……!」


Fは、表情ひとつ変えること無く、男の手を踏みつける。


「う、うわぁぁ!痛い!やめて……!」


「私は、間違った情報を仕入れたのですか?」


「うっ、うぅぅ……!」



Fはさらに力一杯、男の手を踏みつける。



「間違って……ません!」



必死に振り絞った、男のひとこと。

その言葉を聞き、Fは不快そうに足をどける。



「彼の名前は……タムラマサキです。ヒントは、『解決済みの事件』です。警察の皆さんは、ひとつ見落としをしている。解決したと思っている事件……そこにはもうひとつ、『重大な事件』が隠されている。それを暴くのがあなた達、警察の役目です。……まだ、時効にはなっていません。」



Fが淡々と話を続ける。

この中で3人の人質達は皆、項垂れる。



「もう……おしまいだ。」



人質の1人が、そう小さく呟いたのを、北条は聞き逃さなかった。



「タムラマサキ……何処かで聞いた名前だ……もしかしたら!」



北条が一色に言う。


「誰かが来たら、私の足を軽く蹴ってくれませんかね?」


「足を……蹴る?」



北条は、一色の椅子のすぐ後ろの窓の前に立ち、手帳を開き始める。



「北条さん?どうしだんだ?」


「何か、分かったんですか?」



メンバー達が、北条に訊ねた。


「思い出した……」



過去の事件のメモを探し、北条が舌打ちをする。


「田村正樹……5年前の連続婦女暴行事件の犯人だ……。確かに、この事件に関しては解決と言う形で決着がついている。リーダー格の田村は懲役4年で去年出所したばかり。そしてその展望台にいるのが……犯人グループだ。F……彼が『招待』したのはきっとこの男達だよ。」



この事件、凶行犯では無かったため、当時一課に在籍していた北条には声がかからなかった。しかし、その事件、最後の被害者情報をもとに逮捕された『その後』がどうも引っ掛かっていたのだ。



「北条さん、なんでそんな昔の事件が手帳に残ってるんだ?」


虎太郎が訊ねる。


「僕は事件の情報の他に、解決したけど『納得してない』事件のページは残すようにしてるんだ。5年前のこの事件、僕はどうも引っ掛かってねぇ……。」



当時、逮捕された田村は、警察の聴取に素直に応じた。余罪は数件出てきたものの、逮捕後の真摯な姿勢から、刑期が短くなったとも言われているのだ。



「犯人グループは全員揃って犯行を自供。そして全ての事件への関与を認めた。これって、良い解決の仕方だったんじゃねぇの?」



虎太郎には、北条が何に引っ掛かっているのかが分からない。



「あっさりと供述し、罪を認めればそれだけ起訴も早くなる。そうすればすぐに刑の確定に……」


北条は、何かに気付き眉間に皺を寄せる。



「この事件の『闇』……闇と言えば、裏側、影になる部分……まさか。」



北条は、この事件にある『可能性』を感じた。



「志乃ちゃん……申し訳ないけど、この連続婦女暴行事件、最初の被害者発生から田村逮捕までの間で、この都内で『若い女性に関する問い合わせや各種届け』があったか確認してもらえないかな?」


「各種届け……ですか?」


「うん。遺失物、失踪、被害届……なんでもいい。若い女性が何かしら絡んでいる届けをピックアップして欲しいんだ。」


「はい……至急探します。」


北条の指示に、何も疑うこと無く志乃が応じる。



「僕の予想が当たっていたとしたら……警察はひとつ、罪を背負うことになる……。」


心なしか、北条が青ざめているように見えた一色。



「大丈夫ですか?良かったら、座って……」


「あぁ、すみませんね、大丈夫ですよ。ありがとう。」



心配する一色に、北条は気丈に微笑んで見せた。



「……北条さん、リストアップ出来ました。皆さんに送信します。」



「……あぁ、済まないねぇ……。」



そして、メンバー達と北条のスマホに、志乃からのデータが送信された。


「結構、あるな……この日の届け……」


捜索願や落とし物の届けなど、当時の被害女性達と同年代の問い合わせがこの日は多かった。



「これ……」



その中から、悠真がある届けを指差す。



「履歴をみたらさ……この人の捜索願、今まで継続してる……これ、未解決ってこと?」


「……え?」



各種届けは、警察のデータベースに登録されており、解決されるとその日が『解決日』として入力される。

小さな事件も大きな事件も、届けが出されたものに関しては必ずその処理をしなければならないのだ。



「この、大山みさきって女の人……まだ見つかってないよね?」


「あぁ……解決日の入力がない。」



「届けを出してるのは……お父さんみたいだけど……え、ちょっと待って……」



悠真が届けのデータを見て驚く。



「お父さん……都庁職員だ……。」


「……悪い予感しか、しないねぇ……。」



北条の表情が厳しくなる。



「悠真くん、大山さんの部署は?」


「うん、福祉保健局……」


「ちょっと、行ってみようかな……。」



直接、顔を見た方が捜査しやすいと言うのが北条のやり方。

北条は執務室を出ることにした。



「大丈夫?外には連中が徘徊してるんじゃ……。」


「まぁ、こちらから攻撃しなきゃ大丈夫でしょ。どのみち都庁からは出られないんだし、入るときにチェックも受けたし、またこの部屋に戻されるのが関の山ってもんさ。」



意を決して北条は執務室の外に出る。



「どのみち、いまの状況をどうにかしないと、Fのふざけたゲームは続くんだ。それに、このまま執務室でのんびりしてても、事態は変わらないよ。」


「そりゃ、北条さんが動けるのはこっちとしてとありがたいけどさ……。」


「もう夜も遅くなってきた。早くみんなを解放させて、犯人逮捕に踏み切りたいところだよ。犯人達は夜に備えて睡眠を調整できても、何も準備が出来ていない僕達、そして人質のみんなは強制徹夜になっちゃうからね。」



現状、都庁がジャックされている現状は、何一つ進展していない。

人質を守るための捜査を強いられているため、都庁解放が後手後手にまわってしまっているのだ。



「少しでも、Fの隙を突ければ事態は変わると思う。みんな、気を抜かずに行こう。」



執務室を出て、誰もいない廊下をゆっくりと、出来るだけ足音を立てないように歩きながら、北条はメンバー達を鼓舞した。



「とりあえず、俺はこの大山さんの家に行ってみるよ。」


「私は、他の未解決届けのチェックをするわ。」


「俺は……交番まわって、当時の事を知ってる人がいるか聞いてみるよ。」


「あたし、都庁へ向かってみる。外から侵入できるところを探してみるわ。」



そして再び、メンバー達は動き出した。


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