俺の彼女は死ぬほど顔面が可愛いけど処理にこまる小ボケが多い不思議さん、あとクール、あと無邪気、あとつよい

山下敬雄

第1話 公園のビーバー

まだ日が高い昼頃、人がそこそこ行き交う休日の噴水前でデートの待ち合わせ。

予定時刻を過ぎ30分待ったが、彼女はなかなか来ない。


「はい、パックンチョ」


と思ったら、いきなり折り紙のパックンチョが俺の頬をおそった。


彼女だ。


俺の。


んな当たり前のことよりパックンチョの遊び方は書かれた数字をたしか選ぶのだが、────ない。


「ん? ない? ──ナニが?」


俺はパックンチョの遊び方を彼女にかんたんに説明した。とはいっても自分でも曖昧なものだが……。合ってなかったらこの場でシャツのボタンを一個外す覚悟だ。

うん、ちょっと待ち侘びて、熱い。


「数字をかいて…ひらく? それで中吉しょうきち…? へぇー? あ──じゃ、大吉、パックンチョ、はは」


なんとパックンチョで俺は鼻を食べられた。

こんな可愛い彼女とデートできる時点で大吉だとは言うまい。てか物理的にいえない……その、呼吸器的に。


「ぱっくんぱっくんぱっくん…え? パックンチョはもういい? へぇー──大吉なのに?」


痛いほど大吉だけどもういいと啄まれた鼻をおさえながら俺は言った。


「あ、噴水────」


彼女は俺の横をするりと透明な水のように過ぎ去り噴水の小さな段をのぼって深呼吸した。


「おと」


「────」


彼女は一緒にそれをやるように俺の方をチラリと後ろ目に見て促す。

俺は渋々付き合い深呼吸する瑞々しい彼女の横顔を拝みながら、やがて俺も恥じらいを捨てていっしょに目を瞑ってみる。

共に目を閉じる隣の彼女とそうしていると……不思議とこの街の周りの喧騒が消えて、噴水、水のクリアな音色がきこえてくる。



「家、いこ、キミの家」



浸っていた水属性の暗がりから耳元至近で聞こえた彼女の吐息がかった声に、びくり。

俺は目を覚まして、彼女の顔をみた。

そしてさっき聴こえた言葉を振り返り考える。


「ええーー……」


俺は戸惑うも、彼女はこうなったら聞かないと知っているので。

首を縦にしぶしぶ振った。

彼女も俺のそんな硬い動きをたのしげにトレースして、


「ふんふん、うんうん、はは、うなずきかた、へん、ふふふ」


意気揚々にオシャレした待ち合わせのデートは30分待ったが5分もたたず、俺の家への帰り道となった。




「ぱっくんぱっくんぱっくん……けんけん、ぱっくんちょ、のっ、お・ま・け・つ・き」


けんけんぱの足遊びとパックンチョが不思議合体している……。


まだパックンチョのことを引きずっている前方の路地で遊ぶ彼女を俺は微笑ましく見ている。それだけで幸せともいえるから、俺の彼女ってすごい。


「あ、ぱっくんこっちーー! はは、パーク」


俺はぱっくんで、彼女が指さす横道にあるのが公園パーク。とすると当然ここが今から俺の家だ。


「あ、エゴとエゴやろ?」


シーソーだからだろうか?


しばらくところどころ塗装のはげた年季の入ったシーソーを遊ぶ。

彼女はけっこう、このシーソーがうまい。

運動神経というヤツなのだ。


ギッコン、ギッコン、活力を増した彼女は俺を尻が浮くほどに持ち上げはしゃいでいる。


これは一種の挑発? いや?


どうでもいい。そうきたなら──


俺は彼女のために全力のギッコンをみせた。


こいつぁただのギッコンではない、全力ギッコンだ!!

なぜそんなに頑張る?

答えはエゴだ! エゴというんだろう!

彼女のエゴに応える、俺のな!!!


彼女と釣り合いたいそんな一心で、釣り合わない揺れるシーソーにチカラを込めていく。

激しいシーソーの音、彼女と俺の笑い声が上下する激しい攻防に、ひらり彼女のしゃれたスカートが────


いや、狙っていない! 断じてそんなこと今気づいた! ……んだよ?


でも、彼女はきっとそんなことに気づいていない、気づいているかもしれないがそれよりも彼女は笑ってたのしんでいる。


「はは、エゴとエロ? はははひゅーーーん」


「……」


いや、俺は狙ってないのよ……断じてほんと。



俺は精一杯以上なぜかこの彼女とのシーソー遊びをがんばっちまったが、気がつくと息切れ。

やがてきしむシーソーの音がとまって、上下していたお互いの位置がしずかに釣り合っていく。


疲れて少しうなだれる俺の元に、


「かっこよかったよ、キミのギッコン」


少しだけ呼吸が乱れた彼女は、耳元でそんなことを俺に言う。

もう惚れてるので俺は彼女に惚れないけど、胸がキュンとなったのはきっと惚れ直したという現象なのだろう。


「バッコン」


言い忘れていたのだろう逆の耳にバッコンを吹き込まれた。


「ぎっこんばっこんぎっこんば~~、ぎっこーーんぎっこんばんぱーくぅー♪」


彼女はナゾのリズムを上機嫌に口ずさみながら俺の元から離れると、また自由に、また彼女に良く似合う水のありかへと行き俺を手招いて呼んでいる。


公園のあの水の出る鉄の丸いヤツだ。

正式名称は3歩歩いて忘れた。あるのかも知らないけど。


今にもぴゅーぴゅークジラの潮吹きのように上に水を吹いてやがる。


なんかこういうの、なっついなー。

ノスタルジーという言葉はコイツに使ってもいいのかもしれない。


「ぴゅっぴゅっぴゅーー、はは」


俺はそれを言わないでと彼女にやんわりと言った。


「? なんで?? え? うんうん。あぁーー、はは」


「きんじょのクジラが怒るかぁ、なるほど、はは、それは怒らせたいねぇ──てぃっ!」


「わぱーーーーっ!??」


飛んできたのは水鉄砲、撃たれた俺はナゾのわぱボイスを発してしまったが、今の、巻き戻せないのはこの世のバグだ。


噴射口に指を押さえてヤル、あの裏技だ。

俺もネットで2度調べたことがある。


てか長い! てか、めっちゃ濡れたぁーー。


「はははは、ははは、ててーぃ、ぴーーー! ははは」


てか彼女さんめっちゃ笑ってるから濡れてもいいや。俺ってそういう生物。


俺はここでカワウソのマネをして彼女へと突貫した。やられてばかりではいられない、俺小学2年のとき水鉄砲の大会で2位だし。


「でりゃあああ!!!」


現代のカワウソってこんな感じだよな? たしか狂暴だとラジオできいたことがあるぞ?


まぁ、手持ちに水鉄砲があればその話は変わってくるか。


「くんなくんなぁー、ぴーーーー!」


「ちぃっ! たかが左目をヤラれただけだ!」

「勝負はこっからだろ! そうだろっ、ビーバー!!!」


俺はまったく避けれないカワウソをあきらめ名前からしてつよそうなビーバーになり彼女を追いかけた。ついに肉薄しさっきから俺を打ち濡らす固定砲から離すことに成功し。


パックンチョ、


はしゃぐ彼女を後ろから捕まえた。


「くんなくんなぁーー、あはははは、ヤバっ」


「あはははは──え、嗅いでる? ハナイキ?」


無論、嗅いでません。

でもビーバーは嗅ぐかも?


「ふふ、くすぐった」


あいつら齧歯類?

ま、それかどうかで変わってくるか。

ビーバーチャンスは。


「げっしるい? ビーバー…チャンス? なにそれ?」


「あーー、あーー? あー、すりすりするからリス? んー、たしかにリスはそうかも? はは」


俺がながながと後ろから抱きついていたカタチは、


「それっ、ぴぴーーん、ビーバーチャンスっ!」


いつの間にか、ビーバーチャンス返しで俺が前で彼女が後ろになっていた。


んだとコラァ??

俺がバックを取られる??

それってあの夏の小2以来!?


「ビーバーってリス? うんうん、へぇー? じゃぁ、」


俺はなぜか耳をかじられた、左の耳、耳たぶだ。いや……耳たぶどころではない全たぶだ。


くそっ! 全たぶを噛まれちゃー、……。

くぅーーくそっ! なんて狂暴なリスなんだろう。ちがったビーバーか。どっちでもいいけど、耳たぶって神経があんまり通ってないからこのあと無くなってないか心配だ。


「かじかじぃーー」


かじかじ言いながらかじるなんて、それってカワイイって気付いた。

ソレ、人類で流行れ。


それから


「かじかじたぁーーいむ♡、ふふ」


が結構つづいた。


いやなにこれ……俺の耳って…


「あ、どんぐり味♡」


え!? 俺の耳、そんな味ぃ!?

どんぐり詰まってねぇよなぁ!?

え、どんときだ?? どんぐりつまるのどんときだ??


「どんぐりしゅまるのしょんひょきひゃ♡」


「なんでぇ!?」


あそっかーー、俺の耳を通して思考盗聴してるんだぁーーはっはっは。


「あ、チョコ味♡?」


「うそっ、俺の耳がトッ○!?」


俺って、凄まじく味変わるんだなぁー。

どんぐりからチョコの味変は俺が初だろう。


「ふふっ、アメ味♡、じゃ、かじかじ♡」


アメは齧るタイプ、俺の彼女。







今度はまた前と後ろの役が逆に入れ替わり、


「ん、かじらないの?」


「何味か、おしえて?」


ビーバーチャンスはうれしいことにまだ継続。

俺の彼女はすごく……────


「ふふ、かじるときって、かじかじ、いうんだ、ふふふ、え? スイカ味? ふんふん? 塩がちょーど…いい? はは、──ヤバっ」







せっかくのオシャレ着が水に濡れて、耳がなかなか涎にまみれた公園で遊んでいたとは思えない状態の俺たちは。


「すなのしろは、くっずーーー★」


次は公園らしく砂にまみれよう。

公園の砂場はだれもいない穴場だ。


俺のがんばって建てた城は彼女の手に無惨に壊されていく。

そして俺がまた建てる、彼女がくずす壊す。


なるほど戦争がなくならないわけだ。

でもこっちはたのしいからいっか★


「あ、そーだ。────すな」


そう柔らかに言った彼女は、俺の砂まみれの両手のひらに自分の手のひらを重ねた。


そしてすりすりと────


「なにこれ、ずっとしあわせバフがかかるヤツ?」


「うん、しあわせバフのおまじない、ずっと、ふふ」


らしい。

城を8つつくったご褒美がこれなら、俺の彼女は天下統一しても不思議ではない。

「世が世なら」


「あ、ヨガ、やろ?」


指さすのは雲梯うんていのことだな。

ん? 俺、よく出てきたな雲梯って単語。


「え、ヤルの?」


彼女は砂遊びをやめ、手をパパッとはらい、既に雲梯の方へとかけていった。

そしてまた手招いている、どうやら俺にこの遊具の一番手を譲ってくれるらしい。


「んだと??」


「ふぁいとー! あはは」


雲梯の端っこに立った俺は見上げながら考える。


けっこぅなげぇな……。


公園の雲梯はガチ雲梯だった。

俺は雲梯をやったことはないが、これがガチ雲梯だと分かったのは本能が冴えているから。


腰に両手をあてながら俺が雲梯の青いバーを見上げつづけていると。


「ぜんぶいけたら────ね?」


「!?」


全部いけたら? ね?


それってぇ……ね?


俺は右側のくの字にした俺の腕に抱きつく彼女を見た。


────ね? と、彼女は唇をうごかし声に出さずにもう一度。


「ゆくしかない」


「ゆくしかない、────ね? はは」


「そうゆくしかない」


「ふぁーーいとっ」


彼女はまた耳元で俺にささやいた。

ここで戦わない奴らは笑うにちがいない。


目一杯、いや耳一杯にこだまする元気をもらった俺は今垂直ジャンプで出陣した。


しかし、スカっと……。


慌てて着地した俺はガチ雲梯判定師の顔を見た。


「はは、──ガチ?」


俺はしずかに頷いた。かなしそうに頷くことしかできない生物になっていた。


「ツルった?」


俺はまた頷いた。ツルったことを砂で汚れた両手のひらをアピールして彼女に示した。


「んー? ──よーし、よーーーし、よーーーーし、ふふっ」


ツルった俺は今彼女に慰められている。

頭を髪をよしよしと……ゆっくり、ゆっくり、とても気持ちがいい。


3セットぐらいされたよしよしタイムが終わるまで、俺はじっとしていた。


すごく頭がぽわぽわする。


「はは、オキトシン、しってる?」


しらん。


おきとしん、しらん。


でもなんとなく勢いで頷いておいた。


「手ぇ────かして?」


もちろん俺は貸した、差し出した。

手のひらはまたさっきの砂場のときと同じようにすりすりと、しあわせ感が彼女のしなやかな手と擦り合わさる度に増幅していく。


「しあわせバフ、どう? すりすりすりすりーー、すりすりすりすりーー」


とてもしあわせ────────。







ツルっと滑ったというよりは、蛇の毒牙にやられたようにじわじわと腕のチカラが抜けていく。


天から────砂の地獄。



「くっそ情けねぇなぁ……」


落下した俺は痺れる手を伸ばしながら天を見上げる。青い雲梯のすだれから差し込む光がフツウに眩しい。


「んだよこれ……一歩も動けねぇんだ──がっ!?」


「がががが……」


「はぁはぁ……ふふ、ね? がんばりましょう、賞、はは」


俺は見上げた、伸ばした手のひらが酷く邪魔だ。

俺は抗った、だが抗えない。


真上にぶらさがる彼女は地に情けなく伏した俺をつつむ影になり、俺を見下ろし笑った。


元気にはためくスカートを見送っていく……。

彼女はそのまま青い橋を華麗にわたりクリアしていった。


「わたーーーーーっ、ふふ、────どぅ?」


そんなやさしくて容赦がないところも、きっと好き。

俺も彼女に何か賞をあげたいなどと思ったが、

彼女がすぐに俺の元に駆けてきた。


「ねぇねぇ────どぅ?」


それはどっちの意味だろう?

彼女は耳元でいたずらっぽくささやく。


「え? よくみえなかった? ふっふふ、てぃっ!」


俺は不意にデコピンをくらった。

俺の彼女のデコピンはそこそこ威力があるので、痛い。


デコピンの衝撃をつかいながら俺は挑んだ雲梯の三分の一消化したコースをゆっくりと見上げた。

これが俺と彼女の差。

でも彼女は俺の彼女。


「ん? どうしたの? ──てぃっ! デコ出てるで賞、はは、ふふっ」


彼女はいっぱいくれる、この距離は──とてもしあわせだ。




「てぃっ!」


「いてぃっ!?」


「アレっ? 痛かった? ────ツバ、つけてみた。ふふっ」


ゆびさきが触れて湿ったのは、舌を出しながら笑う彼女。

俺は己のデコをさするのはもったいないと感じたので、微笑みながらもう一度青いすだれの天を見上げた────。


「てぃっ!」


腹筋に衝撃。たしかにめり込んだ彼女の空手拳。


「ぐひゅっ!? ひゅ、ひゅんでぇ!?」


俺はやられた腹筋をおさえながら、我慢するが少し腰を曲げうずくまる。俺が苦しそうな表情で、下から心配そうに覗き込む彼女の顔に問うも──


「ちょっと、はずかしかった? はは、ビーバーパンチ、ふふ」


照れ隠しのビーバーパンチだったらしい。


齧歯類で最強はビーバーに決定。



「あ、ぐるりん! やろ?」


地球儀のことだな。

しらないけど。


駆け出した彼女は────ぐるりんの外周に飛び乗り取り付きながら、


回って回ってごきげんよう。俺に向かいずっと手を振っている。


無邪気な笑い声がここまできこえてくる。


もちろん俺は帰らない、ガチ雲梯とビーバーパンチで腹筋がちょっときついけど、俺の彼女が笑って回っているから。



俺もそのスカスカな地球儀ほしに飛び乗った────────。







地球儀の檻にいるのは俺だ。


もう一度言う、


地球儀の檻の中にいるのは俺だ。


猿ではない。

人間の俺だ。


彼女が回してくれる地球儀は格別だ。

あるか? 彼女に地球儀を回してもらったこと?


俺は考える人になりながら、地球儀の中でいっしょに回らされている。

俺の腹筋は痛いし、俺の腕は痛い、全部このゆるい公園パークにある場違いのガチ雲梯が悪いのでクソかわいいビーバーパンチは悪くない。


不意に飛び出てきた手と握手をする。

シェイク、シェイク、頭も体もシェイクハンド。

俺の三半規管はまだもつのでこの程度はへっちゃらだし、檻に入れられた彼氏役は案外こっちはこっちで盛り上がってる。


「はは、シェイクえらいえらい、きみはなんのどうぶつ?」


「ステゴサウルス」


俺はなんでかそう言っていた。語感がいい感じだったんだろう。

そういうと彼女はより笑った。


「ステゴサウルス? あーー、──げっしるい?」


ほらね? たのしい。


外周に取り付いた彼女はすごい、忍者みたいでかっこいい。俺はこうやって一緒に回って彼女が問う度になんとかザウルスになり座っていることしかできないが。


彼女が笑うならそれでいい。

それにしても部屋から窓のヤモリ見てる感覚。

今、それ。


といってもウルトラスーパー可愛いヤモリさんなので、ご褒美に持ってきたおやつのジャガ極ロングを与えてみた。


と思ったら俺がもらう方であった。

なんのマジックか、地球儀の内側に置いていた俺のジャガ極ロングの容器を彼女が持っている。

でもさすがにこのスカスカから提供される餌は危険なので、外周に張り付いていたヤモリを俺の家の中に招き入れてみた。


彼女は器用に回りながらも家の空気ドアから侵入し俺の隣席に座った。


「ね? ────コレ?」


振り向いた隣の彼女はジャガ極ロングを一本咥えながらこっちをみている。

俺はそっと一本……彼女の持つお菓子の容器から拝借した。


そして彼女と同じように咥えてみた。

咥えたままのコレでいつものチャンバラごっこをしていたら、やがて彼女の方がポッキリと折れたので……。


てかこれいつまで回ってんだ?


地球儀がひとりでに回ることをやめない。

俺がくだらないことを考えながら斜め景色を見ていると。


彼女の顔が、唇がむしゃむしゃと音を立てて近付いてきている。


勝者は敗者から与えられるそれがこのジャガ極ロングの決闘におけるルールであるが、この極めて長い乾燥ポテトの距離が────待ち遠しくもあり怖くもある。


俺と彼女の距離が縮まっていく。


ゆっくりと、ゆっくりと、


恥じらい見つめ合ってこのまま自ずと目を閉じてしまいたくなるような、完走間近のむしゃむしゃ音……。



ずぷっ……とハマったのは俺の方。


極ロングソードが死角の下から俺の右鼻へと刺さった。


「ははっ、ふふふっ、かおっ、やばっ」


俺は間抜けな顔をしていた、色仕掛けと騙し討ちに成功した彼女はめっちゃ笑っている。


許せないなんて思わないが、俺はキレてないけど、彼女が笑っているならそれでいいのか?


「あ、ねぇねぇ。────ビーバーチャンス」


そう言うと彼女はまた、ジャガ極を咥えている。


俺はここでビーバーチャンスが来るとは思わなかった。千載一遇とはこのこと、辞書にのっている。


俺は目を閉じて待ち受ける彼女に、迷わず────


「ふっ、げっしるい、ははふっっ…!」


彼女の笑い声に目を開けた、なんで彼女は笑っているのか。彼女は自分の端正な右鼻をぷにぷにしながら、この状況のお笑いポイントがどこなのか教えてくれた。



俺は、何かがポッキリと────折れた。




それでも地球儀はぐるりんと回っている。


彼女は笑っている。



「え? ビーバーチャンス、いいの?」


彼女はずっと折れた先を咥えたままだった。


覚悟を飲み込んだ俺は


むしゃむしゃと、その乾燥ポテトの綱を進んでいった────



「チャンス…………すごい、ね? ────……」




終わったころには2人を乗せた地球儀は止まっていた。


それはきっと、


自転をしていたふざけた不思議なパワーが切れて、


ちゃんと────するために。


止まったんだろう────。





つづく

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