第7話 大気圏外戦闘 観測例02

 幾度目かの新生児の誕生。そして、欠損の報告。

 それがキッカケであった。


「我々は、旅を続けるべきではない!」


 声の主は第二世代の青年。

 この造り物の大地で生まれ、造り物の世界で育った青年。


「地球には豊かな文化があった。豊かな資源があった。

 僕はそれを知らない! その残りカスだけをすすって生きていかなきゃいけない!

 次の世代に繋ぐためだに生きて死ねって、そう言われて来た!」


 続いて従ったの、地球生まれの老人であった。


「私たちはいい、自分たちで覚悟してこの船に乗り込んだ。

 けれど、この船で生まれた子供たちに選択権はない。

 小さな世界で役割だけを与えられて、星を見ずに死んで行く。

 そんなのが許されるのか? 生まれてくる生命に後の世代のために全てを捧げろと強要するのか。

 私たち親に、そんな子供を遺して死ねと言うのか?」


 掲げだのは武器とも言えないただの鉄の棒。けれど、従う人の数は少なくない。

 ナンムが熱源を確認した時には船内の人員の七割が敵であると判定された。


 怒号で船が揺れる。

 隔壁を乱暴にこじ開けようと打撃音が響き渡る。

 ナンムはどうするべきか迷った。


 ジウスドラの閉鎖区画には、戦闘用のドローンが残されている。

 地球教のテロから危機感を覚えたキャプテンが用意したものだ。それらを動かせば武装した市民は一瞬で鎮圧出来るだろう。

 だが、それを赦せるのか。


「判定をお願いします。

 暴徒でありますが、彼らは私やキャプテンが送り届けると誓った市民です。

 彼らに、発砲をして良いのでしょうか」


 管制室のスタッフは戸惑い震えるだけ。指示をしてくれる人間は居ない。

 ナンムはどうするべきか判断できない。

 現実逃避のように、船内の情報を収集する。


 破損し、機能が低下していく循環機能。

 暴走に加わらず、家で震えている市民。


 そして、震えている子供。

 声も出せずに、目の前の状況に何もすることも出来ない非力な存在がいる。


 誰が彼らを守るのか。

 誰が助けを欲しているのか。


「――攻撃を開始します」


 AIは決断した。箱舟の流血を強いることを。


◆◆◆


 暴動による影響はジウスドラに少なくない被害を与えた。

 鎮圧のために直接命を落とした人間はもとより、悲観的な感情が船の中に伝播し始めたのだ。

 結果、自殺者が相次ぐ。


 ジウスドラの住民には『自殺する権利』が与えられている。

 住民には一人一人苦しまずに死ねる薬が与えられ、その服用は個人の自由に任されている。


 ようやく船が落ち着いたころには、人口は出発時の1割にも満たなかった。

 そうなると、船内の維持をすることも難しい。


「提案します。ドローンに自律型AIを付与してオートマトンとして艦内の保守を任せたい」


 ナンムの提案に異を唱える人間は居なかった。

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