江ノ島デート・告白七宮ストーリー
鎌倉駅に着くともうそこには中嶋、朝凪、島村が揃っていた。
「遅かったわね。」
「先輩たちが早すぎるんですよ。まだ20分前じゃないですか。」
「風紀委員たるもの40分前集合は当たり前だろ。ほら、上を脱げ!」
「中嶋先輩、セクハラやめてください。」
「いいだろ?ほら、ここも元気みたいだし。」
中嶋が僕の股間をズボン越しにそっと撫でる。
「あ、ちょ、やめ……」
「恥ずかしがっててかわいいなあ。海野。」
「中嶋……」
朝凪先輩が何かを言おうとした時、七宮が、
「中嶋先輩、やめてください。」
「七宮……」
「海野くんはまだ自然長です!」
「七宮?」
この子も頭がおかしいのかもしれない。
僕の中で七宮の信用が少し下がった。
「中嶋、七宮。帰ったら反省文。あと、今後は風紀委員で決まりを作るわ。まず、セクハラ禁止、抜け駆け禁止。」
「朝凪先輩……」
僕の中で朝凪先輩への信頼が少し上がった。
「ごめんな海野。」
「次からはしないでください。」
「はい。」
「すみません。海野くん。」
「男子高校生のプライドをへし折るのはやめような。」
「はい。」
「とりあえず海野へのセクハラやめてバス乗りましょうか。先輩方。海野くんの安全を考えてバスは私が隣に座りますね。」
「まあ島村が一番安心できるかな。」
「決まりだね。それじゃあバス乗りましょう。」
江ノ島行きのバスに乗り込むと、二人がけの席でしまむらと隣になる。
「海野も大変だね。」
「まさか朝っぱらから触られるとは……」
「大丈夫。私は海野のことそういう風にみてないから。」
きっと島村も気を使ってくれているのだろう。
「うん。ありがとう。」
少し気まずい沈黙。
「そういえば島村はなんか今日したいこととかある?」
「そうだね……少し海とか見たいかな?」
「海。いいじゃん。」
「後展望台も行きたい。」
「僕も行きたかったんだよね。展望台。今日晴れだから絶対景色いいよな。後で二人で写真撮ろうぜ。」
「別にいいけど。海野って急に距離詰めてくることあるよね。」
「島村だけだよ。島村は距離詰めてもキモって流してくれる信頼があるから。」
「ドM?」
「ドMちゃうぞ。」
「でも二人で写真撮るくらいなら全然いやらしいことでもないからいいよ。」
「まじ?」
「断られると思ってた?」
「うん。」
「素直だね。私もそんな鬼畜じゃないから。」
「さすがっす。」
「煽てても何も出ないぞ。」
「ああ。」
「で、最近思ったんだよ。」
「なんて?」
「海野って男の人が好きなのかなって。」
「お前、腐女子だったのか。」
「内田と仲良すぎじゃ無い?一年の間で話題になってるよ。」
「うちの学年腐女子しかいないの?」
「それで内田と海野どっちが攻めかって話なんだけど……」
「聞きたく無い聞きたくない。」
「いま海野受け説が濃厚で……」
「ナマモノきついって。」
「そう言えば海野って中2中3ですごい人気だよ。」
「腐女子に?」
「まあ内海は栄養になる。」
「腐女子やん。」
「いま中2〜中3の間でファンクラブができてて、後輩に写真撮ってこいって話になってる。」
「へえ〜でも後輩に手を出すのはちょっと……同年代は?」
「海野のクラスの女子に聞いてみたんだけど、海野ってモテるって聞いてみたら全然って。静かな人だって言ってたよ。
風紀委員では騒がしいって言ったらインキャじゃんって。」
「まあ僕インキャだから。モテるわけないよなー」
そもそも僕みたいな人殺し、いや、怪物がモテるわけないか。
その時、中嶋が会話に入ってくる。
「それって同年代には全くモテないってわけでしょ。やっぱ話が面白くないとかなんじゃない?というか、同年代には価値を感じられてないっていうか。顔だけ見てるだけなんじゃない?」
「まあその後輩達面食いでしたからね。」
その言葉が僕の心にグサグサと刺さる。上げて落とすのやめて?
「まあ僕コミュ症だからね。」
「でも後輩達が顔はいいって言ってたよ。」
「でも、それって要は顔だけしか価値がないってことなんじゃない?」
「あはは、あげて落とすのやめようぜ。」
「安心して。後輩は騒いでるから。中嶋先輩もその辺に……」
「でもね……」
めっちゃ帰りたい……
てか女4で出かけるのとかマジできつい……
後普通に腹痛い……
「話面白くないのは事実だからね。まあ今度治してこうかな。」
中嶋のことはマジで嫌いだ。セクハラしてくるし、その上で人のことも侮辱してくる。本人はいじっているつもりなのだろうが少しやりすぎてる感じがある。
後、マジで腹痛い……
「というか、海野って……」
「ごめん。ちょっと腹痛くなってきたわ。ちょっと先降りてトイレ行ってくる。」
この辺にコンビニはあるだろうか。
我慢出来るのは後10分程。
「それじゃあ私が……」
着いてくるなよ!
女子にトイレ付き添いとかマジできついよ!
心の中で七宮に抗議する。
「先行ってて。マジでこなくてもいいから……」
「海野……待って……」
「ごめんなさい……もう限界が……」
「ごめん言いすぎた。」
「別に怒ってませんよ。中嶋先輩。色々と指摘して頂いてありがとうございます。それでは。」
「待って。」
マジで待てない!
僕はそれからすぐにバスを降りて走り出す。その瞬間の解放感と言ったら。
僕は速攻で近くのコンビニのトイレに駆け込んだ
トイレで苦しみながら色々考える。
でも七宮と話すのが一番楽しいよな……
いや、考えるのはよそう。
そう言えば前朝凪先輩助けた後、特殊部隊からスカウトが来てたな……そっちに行ってもいいかも……
僕は自衛隊の高校の名刺を眺める。
それから一時間後、外にでて、スッキリとした解放感を味わう。
その時、後ろから海野くん!と呼ばれた。
振り返るとそこには七宮がいた。
「お、どしたの?七宮。」
そういえば匂いは大丈夫だろうか。
「どしたの?じゃないですよ。探したんですからね。」
「ラインには探さないでくださいって書いたのに……」
「探しますよ。今日は海野くんと出かけるためにここに来たんですから。」
「別に俺みたいに話面白くない奴とじゃなくても七宮なら……」
お願いだ。多分まだ少し匂いが残ってる!近づかないでくれ!
「ああ、もう面倒臭いですね!私は海野くんの話がつまらないって思ったことはありません!それに海野くんのことは大好きです!いま海野くんの好きなところを100個言えって言われても言える自信があります!例えば気遣いをしてくれるとこだったり、ご飯を作るのが私よりうまかったり、いつも抜けてますけど、たまに本気を出して私を助けてくれたり、頭が良かったり、余裕があったり、たまにこういう風な人間らしい一面があったり、優しかったり、相手のことをできるだけ受け入れようとしてくれたり……そんなところが大好きです!私だけは海野くんの魅力をわかってるつもりです!海野くんに辛い過去があったこともわかってます!何があっても私だけは海野くんの隣にいます!同期のVtuberが隣にいます。友達として隣にいます。海野くんが望むのであれば一生隣にいます。私は何があっても海野くんが大好きです!」
生まれて初めて人に好きだと言われた気がする。
この十六年間、人に愛されたことはなかった。生まれた時から母親にはひたすら教育をされ続け、父親にはまるで玩具のように扱われた。格闘技の師匠からは指導と言われ、死ぬギリギリまで殴られ、海外に行った後は、現地の軍人を殺し回っていた。人からは人間兵器と言われ、畏怖の目を向けられていた。
手には血がべっとりとついていてそれが剥がれてくれない。僕が幸せになってもいいのか?
「海野くんがもし、大きな罪、大きな責任、大きな義務を背負っているのなら私も半分背負います!海野くんには笑っていて欲しいんです。海野くんはもう全てを私に委ねてください!絶対に幸せにします!」
「僕も七宮、いや、桜のこと、好きだよ」
「ありがとうございます。」
七宮は長いセリフを言い終わり、はあはあと吐息を漏らしている。
「その、さ。静かなところ行かない?そこでゆっくり話そう。」
「そうですね。」
「ありがとう。桜。」
近くの人気のない海岸へ移動する。聞こえるのは波の音のみ。僕らはそこら辺の岩場に腰をかける。
「……」
「……」
しばらくの沈黙の末、七宮が口を開く。
「海野くん。景色が綺麗ですね。」
「そうだな。」
「こうやって波の音を聞いていると落ち着きますね。」
「人類の源っていうもんね。」
「海野くんは私のこと好きですか。」
「大好きだよ。」
「私も好きです。ちなみにいつ好きになったんですか?」
「最初に会った時は印象最悪だったね。もう何だこいつって感じで。でも、ランニングの時に少し可愛いなって思った。」
顔が赤くなっているのが自分でもわかる。
「それでライブ終わって相棒になって、同じ学校になって、ご飯を作り始めた時だっけな。この人と一緒になりたいなって。桜とこのまま一緒にいれたら幸せだろうなって。」
「私、実は人間不信だったんですよ。昔、私と、女の子と、男の子の幼馴染3人組で仲が良かったんです。でも、中2の頃、その幼馴染の女の子が男の子のことが好きだって私に言ったんです。でも、男の子は私のことが好きだったんです。それが女の子に伝わってしまって、いじめられました。私は人が嫌いだったんです。
でもある日、海野くんとライブ配信をして、こういう人もいるんだって思いました。
それから何かある度にお姫様抱っこされたりとかしているうちに気になってましたね。
それで初めて家に入った日、私、海野くんの肩に弾痕があるのを見つけたんです。それからご飯を全然食べたことがないとか言い出したり、カレーライス食べるの初めてだって言い出したり。私がお世話しなきゃって思いました。」
桜ってこんな可愛いんだ。七宮の横顔を見ながら思う。時間は夕方。桜の顔が少しオレンジがかって見える。
「ちょっと甘えていい?」
「どうぞ。膝枕でもしてあげましょうか。」
「ありがとう。」
そう言いながら桜の膝に頭を置く。
「僕ね。昔、人を殺したことがあるん……ゲホっ」
その瞬間、嗚咽が漏れる。目からは涙が噴き出してくる。
「大丈夫ですよ。ゆっくり話してください。ほら、顔絵尾埋めてもらってもいいですよ。」
桜の膝に顔を埋めると何とも言えない安心感が生まれる。
少し心が落ち着いた。
そこからポツリポツリと話始める。
「僕、昔人を殺したことがあるんだ。それも一国分。」
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