第2話

 大聖堂を後にした私たちは、旅道具や武器防具などが数多く揃えられている百貨店へとやって来た。この店は、数少ない百貨店であることから、王都アリバナシティの中でも特に有名な店である。


「じゃあ、金貨100枚ずつ渡すから、各自で必要なものを揃えてね」


 ユミは早速砕けた話し方でそう言って、金貨が入った袋を取り出すと、私を含め3人に金貨を100枚ずつを渡してきたのだった。

 そして私たちは約1時間ほどを自由時間とし、一旦解散することにしたのである。


 と言っても、私はこの百貨店には用はないので別の店へと移動することにした。別の店に向かい、一体何を求めているかと言えば傭兵だ。


 理由はシンプルである。

 直接私の指示に従ってくれる手足となる頭数が欲しいからだ。それに、魔王軍には妙な慣習もある聞く。だから、それに対する備えのつもりでもある。

 

 そういうわけで、私が今向かっている店は、傭兵の雇い入れを斡旋している酒場である。


「いらっしゃい! 」


 私が酒場に入ると、元気な声を出して店主が出迎えた。彼の名はテオドルと言う。


「おう、カルロじゃないか……」


「傭兵を雇入れたいのだが」


 と、私はシンプルに用件だけを言った。


「なるほど。また傭兵の雇い入れがしたいのか」


「そうだ。金貨3000枚払うから、一応信用できる傭兵3人に掛け合ってくれ」


 実は私はこの酒場の常連客であり、ここ最近は理由があって何度か傭兵を雇っていたのである。


 傭兵団を雇い入れていた理由は当然、頭数が必要なのだが、命に関わる危険なことをしてきたからだ。そこらの一般人を雇ったとして、いざ戦闘になった際に何も出来ず死んでしまったら最悪だからな。


「また教会の図書館でも荒らすのか? そんなことをしても無駄だろうに。この馬鹿が。賭博に負けてやけくそになっている連中と一緒じゃないか」


「いや、今回は旅のお供が欲しくてな」


「ああ、以前言っていた勇者のお守として魔王領へ行くとかいう話だったか……。じゃあ、いつも通りの説明をすりゃ良いんだろ? 」


「ああ。いつも通り頼む」


 私はそう言って、酒場の店主に約束手形を渡した。


「よし。まあ、とりあえず任せておけ」


「それと適当に飲み物もよろしく」


 私は適当に飲み物を注文して待つことにした。

 そして、店主は私に飲み物を出してから別室へと移動したのである。



 酒場で飲み物を飲みながら待つこと、およそ20分。

 すると、別室から戻ってきた店主が如何にも歴戦の戦士というような恰好をした男を連れてやって来たのだった。


「カルロ。こいつは3人で行動している傭兵のリーダーだ。まああとは、好きに交渉してくれ」


「なるほど」

 

「あんたがカルロか。俺はこの道で10年は食っている。あとの2人も腕は確かだ。で、アンタさえ良ければ、さっそく契約を締結したいところだが……どうだ? 」


 この道10年のベテランってわけか。

 話が本当なら、腕前は信用できるかもしれない。


「そうか。では念のために確認するが、命の危険が伴う可能性についてはご理解してほしいのだが、そのへんは大丈夫か? 」


「おう。元々傭兵は金のために死にに行くようなもんだろ。1人当たり、金貨1000枚もくれるんだ。魔王領だって天使領だってついて行ってやるぜ! 」


 口はどうやら達者のようだ。

 そして、まさに目的地は彼が今言った魔王領なのだがな。


「あんたらを雇ったとしても、何をさせるかはそこまで具体的に決まっていない。指示は必要な時に出す」


「なるほど。いざって時の頭数が欲しいわけか? それでも構わん。好きにしてくれ」


 よし、彼らに任せることにしよう。


「それはどうもありがとう。では、あんたらに任せるとしよう」


「ああ。じゃあ、これからよろしくな」


 こうして、私は3人の傭兵を雇い入れた。


 店主立ち会いの下、互いに契約書にサインをし、その後はとりあえずの行動方針を話し合い、私は百貨店へ戻ることにしたのだった。


 そして百貨店に戻ると、ユミたちはそれぞれお望みの品を買い揃えていた。


「カルロ。どこへ行っていたの? 」


 ユミがそう訊ねてきた。


「ああ、ちょっと近くの知り合いに挨拶してきたんだ」


 と、私はテキトウにそう返した。


「そうなんだ。ところで今日は王都で一晩過ごして、明日から旅を始めようとマリーアたちと話をしたんだけど、どうかな? 」


「別に構わないよ」


 本当はなるべく早く魔王領へ向かいたいのだが、まあ1日くらいは良いだろう。


「わかった。じゃあ早速宿屋を見つけよう」


 と、ユミが言う。

 こうして旅のスタートは明日に持ち越しになったのであった。




 そして、その日の夜。

 皆が寝静まった頃のことである。私もベットで横になっているのだが、なかなか寝付けないでいた。


 妙に、私は何かを警戒しているのだ。いわゆる第六感というものが、反応しているのかもしれない。


「……」


 不意に、ドアが開く音が聞こえたのであった。


「何だ貴様! 」


 私は暗闇に向かってそう言った。否、暗闇にはだいぶ目も慣れてきていたのだ。

 だから、そこに人影があったのは見えた。もちろんそれが誰であるのかまでは、判らなかったが。


「……」


 人影はすっと、消えていった。

 部屋から出ていったのだろう。


 盗みか暗殺か。

 果たして何が目的なのだろうか。前者なら単なる偶然に過ぎないだろう。

 しかし後者なら先日も、酒場の入り口付近でそのような事件に遭ったばかりだ。今後もこのようなことが起こるかもしれない。


 全く心が休まらないものだ……。

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