第60話:妻のレインが家を飛び出してからしばらく経った(父親視点)

 レインが家を飛び出してからニヶ月程が過ぎていった。


「どうしてだ……どうして我が家の金が減っていくんだ……」


 私は自分の執務室で頭を抱えながらそう呟いていた。


 ここ最近はずっとセラスを連れ戻すために色々と案を考えていたりもしたのだが、しかし今はそんな事を考えてる場合じゃないくらいマズイ状況に置かれていた。


 具体的に言うと、このアルフォンス領の税収がガッツリと減ったのだ。昨年と比べると1/10にまで減ってしまっていた。ここまで税収が減った理由が私には分からなかった。


 でもこのまま税収が悪化する一方だと今まで雇っていた大量のメイドを雇い続けるのも困難になっているし、生活水準も落としていかなければならなくなる。そんなのは到底許せない。


「くそ……セラスが居なくなってから何もかもが悪くなっていく! 私は何もしてないのに何故こうも酷い事が起きるんだ!」


 私は憤慨しながらそう言っていった。でもこんなにもイラつくのも当然の事だ。


 訳も分からずアルフォンス領の税収がガッツリと落ちていき、そのせいで私の生活水準を下げなければならないなんてそんなの到底許せないからな……!


 そしてあのゴミクズ男を発見出来ずに二ヵ月も経ってしまったというのも私をイラつかせる要因の一つになっていた。あのゴミクズ男をさっさと連れ戻して国王陛下から沢山の恩賞を貰わねばならないというのに!


 とりあえずあのゴミクズ男が冒険者をしていたのは知っていたので、私はウルスラ領にある冒険者ギルドにアルフィード家の使者を向かわせていったのだが……あっちの職員の女には「セラスという冒険者はこの近辺で聞いた事はありません」とキッパリと言われてしまったらしい。


 結局唯一の手掛かりだと思っていたその冒険者という情報が何の役にも立たなかったせいで、私はゴミクズ男を捜索をするのに非常に難航していたのであった。


「あぁ、でもそういえば……その使者から何やら奇妙な話を聞いたな」


 使者からその時に対応してきた冒険者ギルドの職員は、アルフォンス領の冒険者ギルドにいた物凄く綺麗な女の職員だったという話を聞いた。確か名前は……そうそう、ステラ・レアフォールという女だったな。


 何でもそのステラというギルド職員の女はウルスラ領の冒険者ギルドへと異動になったらしい。しかし急にあんなド田舎の僻地に飛ばされるなんて、きっとあの女は何か相当悪い事をしていたんだろうな。


「ふん、それにしても……あの女も中々に生意気だったよな……」


 私はステラの事を思い出して苦虫を嚙み潰したような顔をしていった。


 私はあのステラという女の事を知っていた。何故なら我がアルフィード家があるこの街に住んでいる女の中で一番美しい美貌を持った女だったからだ。


 だから私は何度もあのステラという女に私の専属メイドになるように打診をしていったんだ。


 メイドの仕事は何もしないで良い代わりに、毎晩私の夜伽を務めるという条件で高い給金を払うと言ったのに……それなのにあの女は私の打診をいつも断ってきたんだ。


 由緒あるアルフィード家の当主である私の打診を毎回断るだなんて、それは明らかに私の事を舐めた背徳行為だった。


「はぁ、全く。今思い出してもかなり忌々しいな。貴族である私の打診を断るなど馬鹿でしかない。きっとあの女はまともな教育を受けられずにここまで育ったのだろうな……」


 私はため息をつきながらそう呟いていった。きっとあの女の両親はろくでもない者達だったんだろう。貴族の言う事にはちゃんと従うという世の中のルールすら教えて貰えなかった時点で容易に想像が付く。


「まぁでも今更あんな女の事なんてどうでも良いな。あぁ、そういえば……今頃シュバルツは貴族学園で上手くやっているのだろうか?」


 私はふとそんな事を思い出していった。


 ちょうど数日前にシュバルツは王都にある貴族学園に入学していったんだ。なので私はシュバルツに何としてでも聖女であるアーシャと交流を深めるようにと指示を出していった。もちろんそんな指示を出した理由はある。


「国王陛下はあのゴミクズとアーシャ嬢を婚約させようとしていた。という事はつまりアーシャ嬢にはまだ婚約者がいないという事だ」


 だからこのままゴミクズ男が見つからなかった時のためにも、婚約者がいないアーシャとシュバルツの交流を深めさせていって、そのまま二人を婚約まで持っていかせようと私は考えていっていた。


 だってアーシャと婚約を決める事が出来れば王族との繋がりを持てるようになるんだぞ。こんな最大級の大出世チャンスは絶対に逃すわけにはいかないよな。


 それに国王陛下はゴミクズ男とアーシャを婚約させようとしていたのだから、それならばそのゴミクズ男の弟であるシュバルツと婚約する事になっても何の問題も無いはずだ。


 そもそもあんなゴミクズ男なんかよりもシュバルツの方が遥かに優秀な息子なんだから、国王陛下もアーシャの婚約者にするならあんなゴミクズ男よりもシュバルツの方が絶対に良いと思うはずだ。


 それにアーシャだってシュバルツの素晴らしい人間性を知ったらシュバルツと婚約したいと思うに違いないはずだ。


 という事で私はシュバルツとアーシャが上手く婚約まで持っていけるように、すぐにでもアーシャと交流を深めるようにとシュバルツに指示を出していったのであった。


「ふふ、だからきっと今頃シュバルツとアーシャ嬢は仲良く二人で学園生活を謳歌しているに違いないな。早くシュバルツから良い報告を聞かせて貰いたいものだ」


 私は笑みを浮かべながら自慢の息子であるシュバルツが聖女のアーシャと婚約を結べるように大きく期待していった。

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