第4話 接舷攻撃
艦隊の中心付近に位置するエクセルが乗艦するブルー・ホライズンは、ヒルドの旗艦を狙っていた。
「兵は奇道なり。戦いは騙し合いさ。挟み撃ちとみせかけ、一方は陽動で、その間に敵に肉薄する」
セナは近づくヒルドの船を見ながら、緊張して剣を握っている。
「いよいよ俺の出番だ。とにかく大将のヒルドの首をとってやる」
セナは提督のヒルドを狙って切り込むつもりだ。
「たのむぞ。と言いたいが、無理はするな。こちらの損害も大きい、できれば、ヒルド将軍を説得して早く停戦に持ち込みたい」
エクセルの言葉にセナは頷いたあと、もはや余裕すら見せて。
「水兵の練度は敵のほうが高いが、白兵戦となれば陸戦の兵士の方が強い。しかも、ここはラスタリアのフィールド、遠征するのではないので、兵站はほとんど必要なく、船に可能な限り多くの兵を乗せられる。こうして数倍の兵隊に乗り込まれては、成す術もなかろう。捨て身の戦法だが、さすがカシム殿下の策略、うまくいきそうだ」
ラスタリアの船は、重い大砲を取り除き、軽装にして船のスピードをあげ船首に防弾を施し、頭から敵艦に突っ込んで白兵戦を挑んだのだ。
なだれ込む、数倍の兵隊にヒルドの船の水兵は、にもなく殺られていく。しかも、接舷しているので、艦船同士の砲撃も安易にできない。
こうして、次々と敵の船に接舷して雪崩こみ、制圧すると次の船に向かっていく。船の数は敵の方が多いが、武装兵士の数はエクセルの方が圧倒的に多い。
次々とヒルドの船が占拠される。
無論、ラスタリアの船の損耗も激しく、乱戦のなか相打の状況になっていた。
◇
劣勢となったヒルドは、拳を握って震えている
「白兵戦とは……」
「提督、敵の旗艦が迫ってきます」
副官が叫びヒルドが振り返ると、青の帆の帆船が近づいてきた。
「ブルー・ホライズンか」
忌々しく睨むヒルドの瞳に、ブルー・ホライズンの艦首でマントを靡かせて立つセナが映る。
「あれは、ラスタリア最強の剣士セナ。一騎打ちをしようというのだな」
ヒルドが睨むように言うと、副官は
「セナは西域最強と言われています。一対一で勝ち目はありません」
「ここで逃げられるか! 」
ブルー・ホライズンが接舷しようとすると。
鮮やかな紫の甲冑に身を包んだヒルドが、艦首に立った。
セナが剣を抜くとヒルドも抜刀し、全員を制止させ一騎打ちを促す。それを見たセナも、周りの兵士を止め単身で敵の船に乗り込んだ。
甲板で、セナとヒルドが対峙する。
「さすが、ラスタリア王国最強の騎士、敵の船に単身乗り込んでくるとは豪気なり」
「ヒルド提督も、味方を止める騎士道、敬服する。逃げ出したガイア教国の腰抜けとはわけが違う」
「ガイア教国のようなクソどもと一緒にするな。参る! 」
ヒルドの突きの一撃をセナはいなして、下段から切り上げるが、ヒルドは受けた。
二人の動きが止まり、鍔迫り合いのなか
「さすがです、ヒルド提督」
「ばかにするな。これでも、オーデルの使徒、剣の腕ではこの艦隊で敵うものはいない」
「そうでしょう、ですから先頭にたって出られた」
さらに数回討ち合ったが、セナのほうが上手で、ヒルドは次第に防戦一方になり、息が切れてきた。
最後にセナが先鋭の一撃を打ち込むと、ヒルドの剣をはじき、喉もとに切っ先を突きつける……が、セナは止めをささない
「どうした! 止めを刺さぬのか」
ヒルドが睨むように言うが
「エクセル王子に言われている。それに、俺は女性を傷つけない」
「女だからだと。それは、私への最大の侮蔑と知ってのことか」
「エクセル王子は、いつも最良な方法より最善な方法を考えている。合理的な方法が見つからないときは、善悪で考える。ここで、貴殿を殺めるのは戦術上最良だが、人として善いこととは思えない」
「後悔するぞ」
「最善の行いに、後悔はない」
ヒルドは「フン! 」と鼻で笑うと立ち上がり
「とにかく負けだ、白兵戦を挑むとは。こちらの準備不足だ」ヒルドはあっさり負けを認めた。
「この戦法、エクセル……いや、第二王子あたりか」
セナは薄ら笑みをうかべ
「それは言えぬ、しかしお互い損耗が激しい。ここらで停戦しないか。撤退するなら兵をひく」
ヒルドは、苦笑いしながら
「ああ、完敗だ。これ以上戦ってもお互い無駄死だ」そう言うと、周囲に指図して停戦の旗をあげた。
「セナよ。戦争がおわるなら、もう一度手合わせをしてくれぬか」
「望むところです」
ヒルドは笑いながら
「それでは、我々は撤退しよう」
すでにヒルドの艦隊は、当初の三分の一程度になっている。一方、ラスタリアも捨て身の攻撃なので、被害は甚大で、さすがに動ける船はほとんどなく、セナは思惑通り停戦に持ち込んで安堵した。
こうして、乗り込んだ兵士たちが自艦に戻り、最後にセナが戻るとき、ヒルドがセナに声をかけた。
「私の役目はこれで終わりだ」
思わぬヒルドの言葉にセナは驚いた。
「どういうことだ! 」
「黙っておこうと思っていたが、セナ殿の言うように私も後悔したくない」そう言うと、ヒルドは負けたにも関わらず、上目遣いで笑みを浮かべ。
「はじめから我々は貴殿らをひきつける陽動だ」
ヒルドの言葉に、セナは血の気が引いた。
「なんだって! それであっさりと負けを認めたのか」
確かに違和感があった。かのアルカディアス最強と謳われるヒルド艦隊が、最後まで抵抗せず簡単に負けを認めるとは。
ヒルドはそれ以上語らず、素知らぬ表情で踵を返すと片手をあげ、船を西に回頭させた。
一方、セナは真っ青な表情で戻ると。
「ラスタリアへもどれ! 」
エクセル達は急ぎ、わずかに残った傷ついた船を反転させる。
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