第2話
友人は椅子に横向きに腰かけると少年に向かって、聞いてくれと言わんばかりに早速愚痴をこぼした。友人の話を要約すると、次のようになる。
高校進学と同時にファスト・フード店でアルバイトを始めてかれこれ三カ月ほど経過して、なんとか一人ですべての調理の工程を覚え、こなせられるようになった。シフトは柔軟に対応してもらえるので休日をメインにして、平日は三時間入れるようにしていた。
昨日は日曜日で昼過ぎ、正確を期すのであれば十三時から働いて途中一時間の休憩と四回の十五分休憩を取ることになっていたのだが、同じ時間にシフトに入っていた大学生が急遽来られなくなってしまい、これではとても回らないというので店長も調理のヘルプに入ったそうだ。しかし、その店長がまるで使えなかった。この店長は叩き上げではなく、担当
結局、同じシフトに入っていたもう一人の高校生と二人で調理場を回すことになり、文字通り目を回すほどの忙しさでほとんど休めなかった。悪いのは大学生なのだが理由があることなので責められない。自然、店長に矛先が向けられるのだが、店長を任せるのであれば、最低限すべての工程くらいは頭に入れて、経験を積んでいてもらいたい。不測の事態とは突然起こるから不測なのだ。
たしかに人件費は余計にかかるかもしれないが、もう少し余裕のある人員配置をお願いしたい。そう話したところ、それは君の権限ではないと冷たくあしらわれてしまった。たしかに一介のアルバイトが口に出すことではないかもしれないが、現場のことを良く知っているからこその提言なのだ。上に立つ者として、下の意見を汲み上げる程度の度量と懐の深さを持ってもらいたいものだ、ということらしい。
友人の話を少年は、頷いたり、驚いたり、感心してりして聞いたあとで、まるでブラックだねと感想をもらした。まさにその通りと友人が結論を口にするのとホームルームのチャイムが鳴ったのは、同時だった。
担任は定刻通りに現われ、挨拶をして、休んでいる生徒の確認を済ませると、教室から出て行った。一時間目の教科書とノートを出して机に並べていると、ふたたび前の席の友人が話しかけてきた。
バイトをしていないのかと尋ねられた少年は、最近休日だけ近くの喫茶店でウェイターをやっていることを告げると、友人は少し満足したように頷いた。
当初バイトをしていないことを少年が話すと、欲しい物はないのかとか、デートには金がかかるだろうとか聞き返されていて、欲しい物は特別なく、彼女もいないと告げていたのだが、バイトを始めたきっかけは前者か後者かと興味津々に尋ねるので、スマートフォンを新調したいので前者が理由だよと話した。何故か友人は満足そうに頷いていた。
友人に彼女ができたのかと尋ねると、絶賛募集中だよと溜息まじりで答えるのを少年は温かい目で見ていた。友人が、そういうお前はどうなんだ、彼女はできたのかとしつこく聞いてきたので適当な答を探していると、一時間目の担当教諭が現われたので、この話はうやむやになってしまった。まあ、別に隠すことでもなかったので、次に尋ねてきた時には事実を話そうと思った。
授業が終了したが、友人はそのあと、結局彼女については話すこともなく、休み時間の話題はもっぱらSNSについて言葉を交わしただけだった。
少年は確信していた。やはりこの現実はとても夢には思えず、あの記憶が夢なのだ、と。
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