平日のトークシャウト!
渡貫とゐち
MEGANE show
面白い話をしてくれって?
面白いかどうかはともかく、なら、友人三人と一緒に映画にいった時の話をしようか。
学生の時だから……数年前のことにはなるけれど。
安心しろ、大丈夫だ、惚気じゃない。
そもそも相手は男だ。それに友人、と言ったんだから、恋人でもないだろう。
その後、恋人になっているんじゃないかって? お、鋭いね。まあそんな事実はないが。今もそいつらとは友人だし、たまに連絡を取ることもある。その友人には恋人がいるようだけどね。
とにかく、映画にいった時の話だ。
なんの映画? いや、内容はどうでもいいんだ、なにを見たのか俺も覚えていないのだから。当時話題になっていた実写映画だった気がするがな……、時間が経っても続編が作られていないから当たらなかったのだろう。供給側の事情を知らないから好き勝手には言えないが。
当時、友人たちはメガネをかけていてね……学生だからコンタクトレンズをしている人も少なかったんだ。少なくとも、俺の周りにはいなかった。
みんな、メガネだった。
そして今も、当時も、俺はコンタクトレンズを付けてはいなかったし、メガネもかけていなかった。つまり俺以外の友人はメガネをかけていたんだよ。
友人三人と一緒にいる時、感じてしまう違和感はなんだと思う? 輪になっているでもいい、横並びでもいい、縦に並んだ場合もひとつのグループとして考えれば気になるんじゃないか?
そう、俺だけメガネをかけていないんだ。
それのどこが悪いんだと、気にしないかもしれないが、当時の俺は必要以上に気にしたんだ。今だって思ってる。気になるくらいなら伊達でもいいからかけるべきだったんじゃないかって……。俺はあの輪の中にいて空気を読めていないんじゃないか? なんて思ったものだ。
友人たちは気にする素振りもなければ、きっと俺がそう思っていることにも気づかなかっただろうけどさ。どうでもいい話だ、それでも当時の俺は色々と考え過ぎていたから、気になって気になって仕方がなかった。
負い目も引け目も感じていた……メガネをかけていないだけで。
映画館で座席に座った時、自分だけが分かる露骨な不揃い感に、気味が悪かった。
友人、俺、友人、友人だったから……俺が端っこにいけばよかったのだけど、言える理由ではなかったからがまんした。左右をメガネで挟まれたら、俺もメガネをかけるべきだったんじゃないか? そんなことを今でも思ってしまうんだよ……。
オセロみたいに。
挟まれた俺はメガネをかけるべきだったんだ。
――つまらない話だろう? いいや、くだらない話だ。
そしてどうでもいい話である。
メガネをかけるか、かけないか、そんなことの指針は視力が良いか悪いかだ。
それ以外で、空気を読むことだけのためにかけるべきではない。
「ですねえ」
と、話したのに手応えがない反応だった。
面白い話をしてくれと無茶ぶりをされて絞り出してみればこれだ。場の空気は重い。この話への指摘も感想もなく、「あぁ、そう……」的な相槌しか返ってこなかった。
これなら盛大に滑った方がまだツッコミで挽回できたかもしれないが……タイミングを逃してしまった今、俺が転び直すことも周りが手を伸ばすことももうできないし、遅い。
だから目の前の料理に手が伸びる。
無茶ぶりするからこうなるんだから……いい勉強にはなっただろう。
周りの。
別に、俺は気にしない。
「……うん、良かったよ。意外と面白かった。反応できなかっただけでね、大丈夫っ! 面白さは後でついてくるから!」
「いや、今辿り着いてほしいんだけど……」
気を遣わせてしまったか。
メガネではなく、情けをかけられたようだ。
…了
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます