第18話 さくらの後悔
お隣の亜梨花さん宅にてー。
「ププちゃん、よちよち、ミルクおいちかったでしゅか〜? げっぷ出まちたか〜?」
「お〜! お〜!✨✨」
お隣の亜梨花さんにお呼ばれして、亜梨花さんと駿也さんの娘、茉梨花ちゃん(2歳)が、赤ちゃん人形のお世話をしている様子を近くで見ていたスミレちゃん(1歳)は、昨日まで振り回す事にしか使っていなかった赤ちゃん人形に新たな価値を見出し、感動したような声を上げていた。
私はそれを微笑ましく見守りながら、一緒にお茶を飲んでいた亜梨花さんに話しかけた。
「茉梨花ちゃん。おしゃべりが本当に上手ですね〜。スミレは同じぐらいの子に比べてゆっくりだから、羨ましいです」
「いやいや〜、茉梨花も1年前はそんな感じだったよ?
子供の成長なんてあっという間なんだから、スミレちゃんもすぐにこっちがもうやめてって止めるぐらい喋るようになるわよ。これがダブルになるかと思うと想像できないわ〜」
苦笑いしながらも、少し膨れたお腹を愛おしそうに撫でる亜梨花さんは、既に雅也さんとの子を宿していて、4ヶ月後には出産予定日だそうだ。
「ふふっ。でも、駿也さん、雅也さんも茉梨花ちゃん溺愛ですし、お二人目が生まれたら賑やかになりそうですね」
「まぁね。二人共茉梨花の事もすごく可愛がってくれてそれは有難い。時々甘やかし過ぎる事があるのは困るけど……。
さくらちゃんは、二人目とかどうなの?」
「え。そ、そうですね。そのうち……」
亜梨花さんに聞かれて曖昧な答えをして私が目を逸らしたのに、亜梨花さんは首を傾げた。
「あれ? どした? スミレちゃんに子供服のモデルになってもらえないかっていう話も、まだ良二くんにしていないんだよね?」
「え、ええ。すみません。最近良二さん忙しくて……」
「そうなんだ? まぁ、返事は急がないけどさ、最近、さくらちゃんも良二くんも浮かない顔してる事が多いから、ちょっと心配……。
うちも、君達夫婦には散々お世話になってるから、何かあったら相談するんだよ?」
「は、はい……。ありがとうございます……」
心配そうに亜梨花さんに気遣われ、思わず涙ぐみそうになってしまった。
ダメだなぁ、私……。最近、知らず知らず暗い顔をしてしまっているのか、亜梨花さんだけでなく、お父様や、秋桜ちゃん、色んな人に心配されてしまっている。
『良二さん……。どうかお願いです。
香織さんと私と、一夫多妻制を利用した婚姻関係を結んでは頂けないでしょうか?』
私が軽率にもあんな事を言ってしまったせいで、良二さんとの間がギクシャクするようになってしまった……。
あの時は、良二さん、香織さんも共に幸せになれる未来を確信出来たような気がしたのだけれど、それは私の独りよがりだったみたい。
『大体スミレはどうするっ?
母以外の妻がいる事で、周りの人からどんな風に噂されるか、どんな思いをするか分からないのかっ!?』
良二さんに厳しい表情で叱責された事を思い出す。
私はスミレちゃんに母親として失格の発言をしてしまったのだろうか……。
良二さんに幻滅され、嫌われてしまったんだろうか……。
良二さんの信頼を取り戻して、前のような関係に戻るにはどうしたらいいんだろう……。
私が考え込んでいると……。
チャリラリー♪チャラリラリー♪
「……!」
着信音が鳴って、スマホの表示を見ると、発信先は秋桜ちゃんだった。
「ちょっと友達からの電話に出てもいいですか?」
「うん。どうぞどうぞ?子供達見てるからだいじょぶだよー?」
「ありがとうございます!」
亜梨花さんにお礼を言って、私が電話に出ると……。
『あ!さくらちゃん?ごめんなさい!私、最近のさくらちゃんが心配で、龍馬さんに相談したら、『よし!良二くんを問い糾してやる。』ってすごい剣幕で、飛び出して行っちゃって……!』
「ええっ!?」
電話越しの秋桜ちゃんに、半泣きで切迫した状況を伝えられ、私は目を剥いた。
✽
✽
それから、亜梨花さんに事情を伝えすぐにお暇すると、権田さんに車をお願いした。
キキッ。
権田さんの車が到着すると、スミレちゃと共に準備万端で待ち構えていた私は、権田さんに必死の表情で頼み込んだ。
「権田さん、急にすみませんが、私達を実家までお願いします!」
「まーふ!」
「さくらお嬢様。それは、全く構いませんが……、石藤様が旦那様に呼び出された件については、そこまでご心配には及ばないかと……」
「え?お兄様だけでなく、お父様も良二さんを呼び出したのですか??」
「龍馬お坊っちゃまも……でございますか?」
私も権田さんも目をパチクリさせて、互いの知る情報を伝え合った結果――。
私との仲がうまく行っていない事について、お父様とお兄様がそれぞれ良二さんと話し合おうとしたらしい……。
「旦那様は、ただ石藤様と冷静にお話をされたいものと思われますが、龍馬お坊っちゃまは心配ですね。
急ぎましょうか!
さくらお嬢様、スミレお嬢様、どうぞお乗り下さい」
「はいっ」
「あいっ」
権田さんに言われ、私はスミレちゃんを連れて車に乗り込んだのだった。
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