ゆるゆるにちじょう
はみのめ
第1話「嘘だろお前」
これは、すべての戦いが終わった、セミの声が響く夏の日の出来事。俺たちは壮絶な戦いで負った傷を癒すために、「日常」に戻ろうとしていた。
「ロゼ〜、今日の夕飯自分で作れるか〜?」
足を組みながら新聞を眺めているロゼに語りかけた。相変わらず黄金の目は綺麗だし、焦がしたような茶色の髪も特に手入れとかしてないのにサラサラだ。
「別に良いが……。急にどうした?」
「料理のアイデアが尽きたから、一旦料理をお休みしたいんだ〜!」
「そうか、アイデアが湧かないなら仕方ない。作ってもらってる側の人間だからな。お前の言う通りにしよう。だが……俺、料理できないんだ」
いや、そんな馬鹿な話あるか? ロゼ、お前は今年で何歳になる。俺と一歳差だから127歳ではないのか? え。お前、俺と会えない100年間何をしていたんだ? ほら、簡単なものとか……できるだろ?
嫌な汗が出てるのを感じながらも、俺は恐る恐る、「なんで料理ができないんだ?」と聞いてみた。
「それが、一回だけ俺にカレーを作ってくれと師匠に頼まれたことがあっただろ?」
「ああ、そんなこともあったな……」
随分と懐かしい話題を持ち出したな。なんてことない日常すぎて師匠がロゼにカレーを作らせてたことを今の今まで完全に忘れていた。
「野菜室から食材を見つけたは良いものの、なぜか包丁だけが見つからなかったんだ」
「ふむふむ、それで?」
俺は早くも苦笑いしていた。「ツッコミください、ツッコミが枯渇しているんです!」というレベルでツッコミどころしかなかったが、ツッコミたい衝動を抑えて話を聞いていた。
「仕方がないから、俺の能力から斧を出して食材を切ってたんだ」
「なぁにが仕方がないだ。馬鹿になったの間違いだろ」
俺が知らない間にこんなことが起きていたなんて鳥肌でしかない。恐すぎる。だから俺と師匠しか食事を作っていなかったのか。確かに、ロゼに作らせたらゲテモノしか生まれない。少なくとも、カレーなんて作らせた日には食材全てがミンチになってて具材のないカレーが完成するだろう。そもそも、一般的に言われるカレーとしての形態を保っているかもわからないが。
「食材はほとんど切り潰れるしで大変だったんだぞ? それをたまたま見かけた師匠が、『お前はもう料理するな』と菩薩のような顔で……」
「当たり前だわ。というかなんで斧で切ろうと思った? 薪割りじゃないぞ?」
ロゼは困ったような顔をして、「刃物ならなんでも良いかなと……思っただけだ」と呟いた。
「とりあえずお前は食材を汗水垂らして野菜や肉を生産してくれている農家さん全員に土下座して回れ」
俺は呆れ顔で軽口を言ったのだった。
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