2の倍数の日は、異世界で恋愛します。

サアロフィア

第1話 恋愛小説の神様との契約

成功して幸せになれるなら、異世界に行ってみたいなあ。でも、インターネットとかアイスクリームとかチョコレートを手放したくないなあ。


この世界と異世界を自由に行ったり帰ったり出来たら最高なのよねえ。でも、そんなのライトノベルの世界にも見当たらないのよね。無制限に行き来したら、世界のバランスが崩れるからだろうなあ。


ということを考えていたら、ある日の夜、夢の中で神様に会いました。やったー。


「ワタシは、ハーツレーンという恋愛小説の神様です。ご希望を叶えてあげましょう。」

「よろしくお願いします。」

「ただし、ワタシの小説として発表させてもらうから、プライベートは無くなるよ。それでも良いですか?」

「素敵な王子様との恋愛ができるなら問題ありません。」

「では、契約成立ですね。2の倍数の日は、異世界に行ってもらいます。朝の8時ちょうどに異世界に転送されます。毎朝の身支度は早めにしてくださいね。それと、リュックサック1つ分の荷物は異世界に持ち込めます。」

「はい、分かりました。」


という訳で、2024年8月18日の日曜日の今日から、異世界にレッツゴーですわ。



異世界に飛ばされた先には、紫色の髪と紫色の瞳をした王子様が待ってました。


「ようこそ。マエアオ王国に来てくれて、ありがとう。ワタシは、この国の王子様であるデルフィニウムだ。フィニーと愛称で呼んでくれ!」

「かしこまりました。フィニー様。」

「フィニーで良いよ。」

「では、フィニー。ワタシの名前は…」

「神様から、イチカと呼ぶように指示されている。1つだけの花、つまり、唯一の姫として愛するように、と言われている。」

「一花ですか?」

「そうだ。しかし、イチカは、2の倍数の日しかマエアオ王国にいないのだろう。 という訳で、側室を迎えるからな。悪く思わないでくれ。」

「会った当日から、浮気宣言ですか?」

「イチカが、毎日この国に居るなら、側室は無しにするよ。」

「どうぞ、側室を迎えてください。ワタシも国に帰りますから、おあいこですね。」

「ご理解いただき感謝する。」



ワタシは早速、フィニー王子の父上、母上にお会いした。ふたりとも、歓迎してくれた。特に、母上に手を握られて言われた言葉が気になった。

「あなたは【最後の希望】です。どうか、フィニーをお願いします。」


初日は、王子様と宮殿内でイチャイチャして過ごした。王子様だけあって、美形だし、賢いし、ワタシは満足な1日を過ごしてから、元の世界に帰った。



後日、元の世界で、デルフィニウムの花言葉をインターネットで調べた。


紫色のデルフィニウムの花言葉

良い意味は、「高貴」「上品」「優雅」「永遠」

悪い意味は、「傲慢」「激しい愛着」

だった。


側室の件を認めて正解だった。

「激しい愛着」なんてされたら、息がつまってしまうからね。


「傲慢」という花言葉は間違っていると思ったが、数日も経たないうちに、「花言葉は正しい」と思い知ることになった。



ワタシは、王子に連れられて、国中を視察した。これは、王子の妃になったワタシのお披露目を兼ねていた。まあ、それは良いのだが。


王子の部下らしき者たちが、王子に駆け寄って、板に書いた図解と文章を見せて、真剣な表情で説明していた。


「王子様、この部分の工事につきましては、この図解のように変えさせてください。」

「ボクの案より素晴らしい方法が有るはずが無いだろう。言われた通りにするように、いいな。」


王子の部下らしき者たちが、すがるような目でワタシを見てきた。


わかるわよ。妃の言葉なら聞くかもしれないから、仲裁して欲しいんでしょ。高く付くからね。でも、どう言えば聞く耳を持ってくれるかなあ?


「フィニー、あなたは土木工事にも詳しいのね。とっても素敵だわ。」

「まあな、これが才色兼備というものさ。」

デルフィニウム王子様は、誉められたと思って嬉しい御様子だ。


「あなたより詳しい専門家は、この世界にはいないと思うわ。」

「その通りだが、今、ボクに話しかけた部下たちは、ボクの次に詳しいんだ。なんと言っても、ボクが厳しい面接をして選んだからね。」

「その部下たちに活躍する場所を用意するなんて、理想の王子様よね、フィニーは?」

「まあな。で、イチカはボクに言いたいことがあるようだな。」

「流石は、フィニー。ご明察よ。あなたより優れた人はいないわ。だから、あなたが意見を述べてしまったら、誰も意見を言えなくなってしまうわ。なぜなら、あなたより適切な意見を言うことは不可能ですからね。」

「その通りだ。続けてくれ。」

「あなたは王子様として、あれもこれもと多くのことを決めなければならないわ。すべてを、あなたが決めていたら、時間が足りなくなって、ワタシと過ごす時間が減ってしまうか、疲れすぎて、病気になってしまうわ。そんなのイヤよ。」

「確かに時間は有限だから、足りなくなってしまうな。」

「その通りよ。結論を出すときにも、前もって調べることが多すぎて、眠る時間やワタシとのラブラブ時間が減ってしまうから、そうならないようにするべきよ。」

「その通りだな。それで、イチカはボクにどうしろって言うの? 分身の術を使え!なんて言わないよね。」

「あなたが一番詳しく正しい判断ができることを最大限に活かすために、部下たちから3つくらいの案を出してもらえませんか? それを見て、あなたが最も良いものを選んで決定すれば、100点にはならなくても、95点の出来栄えが、国中に満たされることになるわ。」

「確かに良い方法だ。早速、そうしよう。王子様として、考えがブレることは良くないかもしれないがな。」

「そんなことないわ。部下に臨機応変を求めることは嫌がらせにしかならないけれど、最高責任者が臨機応変に判断してくれたら、部下たちにとっては神様だわ。」

「イチカ、神様に頼んで来てもらって大正解だ。ボクは良い妃を選んだ。自分で自分を誉めてあげたい。」

「ええ、今夜のベッドの中で、ワタシにあなたを讃えさせて欲しいわ。」

「ああ、楽しみにしている。」


フィニーが部下たちの意見に耳を傾けるように考えを変えたことで、マエアオ国の状況は一気に良くなった。ワタシは、【神の娘】と呼ばれるようになりました。異世界に来て良かったと思っています。



フィニー王子様との夜は最高でした。まるで、壊れやすいガラス細工のようにワタシの身体を愛してくれて満足しました。


これで、側室さえ決まらなければ最高なのになあと思いながら、元の世界に帰りました。



ワタシは元の世界に戻った日は、異世界のマエアオ国に必要なものを買い揃えることにしている。とは言え、リュックサックに収まる量には限度が有るから、厳選することが大変だ。


異世界恋愛ではなくて、ファンタジーの場合は多くの量を運べることが分かった。


ハーツレーン様は、恋愛小説の神様だから仕方ない。ワタシにとって、王子様との恋愛は、必要不可欠、つまり、絶対に外せないからだ。



2の倍数の日がやってきたので、王子様のもとに帰りました。王子様に、側室の方を紹介してもらおうと思ったら、意外な返事が返ってきた。


「そのうち決めるよ。急いで決めなくてもいいだろう?」

「まあね。でも、決める前に候補者と会わせてよね! 性格に問題ある人はイヤだからね。」

「ああ、覚えておこう。」


その日は、王子様の母上様、つまり、王妃様にお茶会に誘われました。


美味しいお茶と美味しいケーキを御馳走されて、ワタシが満足して食休みしたときに、王妃様がワタシの手を握って、涙を流しておっしゃいました。


「あなたは【神の娘】だと、こころの底から納得したわ。」

「どういうことでしょうか?」

「あの子は、側室を選ぼうとしたのだけれど、傲慢すぎると断られてしまったのよ。」

「そんなことないでしょう。話し合える相手ですわ。」

「それは、あなただからよ。他の者では、論破されて聞く耳を持たないのよ。」

「この間、工事の人の案を聞かれてました。」

「それは、あなたが説得してくれたおかげよ。おかげさまで、多くの関係者から御礼を伝えて欲しいと言われたわ。あなたは、最高の妃だわ。」

「過分なお言葉ありがとうございます。」

「わたしは、どんなことが有っても、あなたの味方をするわ。だから、ワタシの息子と仲良くしてね。」

「ええ、喜んで。」

「あの子は、今日の夜を楽しみにしているわ。導いてあげてね。」

「ワタシの好みはお伝えしますが、ワタシは女性の代表ではありませんわ。」

「それなら、心配いらないわ。他の女性は目に入らないくらい、イチカさんのことが好きみたいだから。」

「それは光栄です。」



その夜、ワタシは、フィニーの寵愛をたっぷりと受けた。ハッキリ言って、ワタシの体力が限界で朝まで保たない。側室のひとりくらいは作ってもらう方が良いと思った。


花言葉の「激しい愛着」は正しかった。


良い意味の花言葉である「高貴」「上品」「優雅」「永遠」も、フィニーは満たしていた。


彼以上に良い物件は存在しないと思うので、ワタシの体力を増強するべきだ。ワタシはそう決心して、運動して身体を鍛えることにした。


後日、【小説家になろう】で、ワタシの話が新作として公開されていた。


主人公の女の子の名前が、ワタシの本名ではなく、一花いちかという名前になっていて安心したが、少し寂しい気もしたのだった。


終わり

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