10 こんなにもあおい空の下で
第37話 オーゾの恐ろしさ
「さあ、少しくらいは楽しませてくれよ?」
オーゾはそうつぶやくと、ダガーナイフ六本空中に現れた。その刀身は薄ぼんやりと赤く輝いていて、オーゾの魔力に反応し宙に浮かんでいた。
「さあ、行くんだブラッドダガー。文字通り血祭りにあげてこい」
ラスターはブラッドダガーの攻撃を、剣で対応する。クネスも杖でなんとか対応していた。だが、バーストはそうはいかなかった。
「ダメだ、的が小さすぎてバーストじゃ対応できねえ!」
アルガはバーストコックピットハッチをあけ、バーストから飛び退く。バーストにブラッドダガーが集中し、むさぼり食うように装甲に穴をあけ、関節を破壊していく。
バーストはスクラップになってしまった。
「ごめんな……すまないラモッグ」
『ふぁ〜。孝和、このたたかいは負けられないからぁ、いっしょに勝とうね?』
「心強い相棒だ」
次の瞬間、ブラッドダガーはバーストの動力炉を破壊、大爆発を起こした。
ラスターは爆発に巻き込まれなかった最後のブラッドダガーを叩き折り、オーゾへと向かっていく。
「まだまだここからだぞ?」
オーゾは魔法を唱える。
「ドラゴニック・バースト」
それは仮面戦士クネスが使用した、先ほどまでのオーゾを倒すのに一役買った極大魔法。そのまま食らえば、遺伝子の痕跡すら残さない程の威力だ。
「くっ、魔力障壁を!」
クネスは三人分の魔力障壁を張る。
「兎塚さん!」
「動くな! 気が散る!」
魔力の奔流の中、クネスは必死に魔力障壁を張る。
「ふむ、ではこれではどうか?」
オーゾは、空いた左手で同じ魔法を放つ。
「うそ!」
再びオーゾの「ドラゴニック・バースト」が、三英傑を飲み込む。
魔力の奔流が過ぎ去った後、ラスターとアルガはなんとか立っていた。クネスの魔力障壁に、自らが作った魔力障壁を足したおかげだった。
だが、クネスはそうもいかなかった。
「兎塚さん! 大丈夫か!」
「兎塚! どこだ! ……クソっ」
すぐに返事がなかった。兎塚さんはもういないのかもしれない。
「まずは一匹か。ま、もった方か」
「貴様! オーゾ!」
怒りに身を任せたラスターは同様のアルガとともに、オーゾに向かっていく。
「怒りか、どうせならこのオーゾを憎めばいい。憎め! 憎め! 憎め!」
「オーゾ!」
「そうだ、それでいい。その憎悪こそ我が糧」
笑っているオーゾまでもう一歩! ラスターは加速する。
「はぁッ!」
ラスターの放った天翔十字剣は確実にオーゾを捉えていた。
「手応えがない?」
ふり返ると、そこにいたはずのオーゾがいない。
「誰か、探しているのか?」
背後から声がする。ラスターはそこに向け剣を振る。オーゾはラスターの腕を掴んだ。
「なんだコレ!」
「オーゾの腕であるが」
そういうことではなかった。ラスターが剣を持つ腕が動かないのだ。行くも引くもできない。オーゾはそれをさせない。
「藤堂!」
オーゾめがけ、アルガは巨大レンチを振るう。オーゾは空いた手でレンチも掴む。
「ぐ、ぬぬぬ……」
剣もレンチも動かない。
「どうする? その程度なのか? それとも、まだ隠しているものがあるのか?」
ラスターは空いた手でオーゾに触れる。そして、
「食らえオーゾ! クラッシュブラスター!」
それは今のラスターが使える最大の攻撃魔法。中級魔法とはいえ、この至近距離。オーゾも無傷では済まないハズ!
爆発が起きる。
「どうだ……!」
爆炎が収まる。オーゾは当然のように無傷だった。
「無傷……うわ!」
オーゾはラスターをアルガを同じ方向へ投げ捨てた。十メートルは飛んだだろうか? 常人ならミンチだ。
「大丈夫か? 藤堂」
「ヘッ、南雲センパイこそ」
「俺は大丈夫だ、余裕のヨッちゃんよ」
どことない昭和感は健在だった。
「南雲センパイ、なんかいい案あります?」
「俺もそれを聞こうと思ってた。藤堂も何もないのか」
ラスターは首を縦に振る。
「なら、賭けるしかねえな。イチかバチかだ」
「出た! 昭和の男が必ず言うヤツ。でも必ずなんとかなるセリフ」
アルガは仮面の下でニヒルに笑う。
「行くぜ! 藤堂! ド根性ッッッッ!!!」
気合いと共に、ラスターとアルガは駆ける。
「……」
オーゾはただ佇むだけだった。
ラスターはオーゾの左肩に一撃を喰らわせる。オーゾはそれを避けない。表情すら変えない。
「今だ!」
ラモッグは剣にレンチを叩きつける! ラスターの剣はオーゾにめり込んだ。
「ふむ、まあなんとか次第点といったところか」
オーゾは左肩から青い血を流していた。
「このまま一気に……!」
ラスターはそのまま剣をめり込ませようとした。だが、オーゾの右手の一撃で、アルガ共々吹っ飛ばされたのだ。
「いてて……!」
次の瞬間、オーゾが爆発した。いや、よく見ればオーゾの目の前の地面が爆発している。
「このオーゾに、使わせるとはな」
オーゾの目の前に浮かんでいたもの、それは一本の剣、漆黒の握り、黄金の鍔、赤く輝く剣身!
「とくと見るがいい。これが災禍の剣、ディザスター」
オーゾが剣を持つと、剣は一層輝きを増した。流していた青い血はすでに止まり、キズも回復していた。
「ヘッ、ディザスターだかなんだか知らないが、オーゾ、お前さんを倒せばジ・エンドだ。」
アルガはオーゾに駆けていく。
「まって、南雲センパイ!」
オーゾは剣を下段にかまえる。
「うおおおお!」
剣身がドス黒く輝いたと思うと、オーゾはアルガとの間合いを一気に詰める。
そして。
「秘剣! カラミティブレイク!」
オーゾの秘剣は、ラモッグに当たる。
アルガは弾き飛ばされ、百メートルは飛んでいった。
「南雲せんぱあああい!」
「残りは貴様一人だが、どうする?」
次の瞬間ラスターは剣を上段にかまえ、オーゾに突撃していった。
「うむ、それでいい」
ラスターはオーゾに襲いかかる。
力は明らかにオーゾに分がある。
だが、ラスターは諦めなかった。そう、ここが踏ん張りどころだった。
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