第34話 異世界行脚

 差し当たって二人は、丘の上に鎮座しているタイクーン城へと向かって歩いていた。

「グラム、お城って近いの? なんか小一時間くらい歩いている気もするけど」

「まだ三十秒と歩いてないじゃん」

「ああ、そうだった」

 妙なやりとりをしつつ、藤堂とグラムは丘の外周をくるくる回りながら登っていく。

「なんで一直線にしないんだろうね?」

「防衛の問題だよ。一直線で来やすいってのは、敵も来やすいでしょ?」

「なるほど」

 タイクーン城というのは実戦的な城らしい。ということは、グラムについていかないと罠を踏むかもしれない。多分それは死を意味するだろう。当のグラムも「気をつけてね」と言っているし。

 丘の半分くらいまで来ただろうか?

「お、来たな?」

「まったく、私を待たせるなんて、いい度胸してるじゃん」

 南雲センパイと兎塚さんだった。足元にはエキャモラとラモッグがいる。

「とりあえず城に向かうってことで藤堂もオッケーだよな?」

「はい」

 すると、藤堂のズボンが引っ張られる。

「どうした? グラム」

「おかしい。おかしいよねエキャモラ、ラモッグ」

「ふぁ〜そうだね」

「うん、おかしいわ」

 三人は首を傾げる。

「希望、人気がなさすぎる。確かにこの城は僻地に建っていたけど、でもこんなに人が歩いていないことなんて無かった!」

 よく見れば、確かに三英傑ズの他に誰もいない。そうだ、よく考えればだれともすれ違わなかった。行商人、陳情に行く人、兵士にすら会わなかった。

「よく気付いたね、ご褒美にこんな趣向はどうかな?」

 背後を見ると、そこにいたのはグラムだった。

「え? グラム? ずいぶん目つき悪くなっちゃって……」

 藤堂の足元にいるグラムとは別のカエルだった。グラムとは別の色をした服を着ている。外套を身につけている。

「カエルの、モンスターか」

「ゲロゲロ、その通りだよ。さあ、君たちも武器を取ったらどうだい? でないと……」

 カエルのモンスターの影から、クロウサギのモンスター、モグラのモンスターが現れた。容姿は旧三英傑によく似ている。

「死ぬことになるぜ!」

「うひょおおおおお!」

「ファ〜!」

 ニセ旧三英傑が襲ってきた!

 藤堂は剣を呼び出し、グラムもどきの攻撃を受けようとかまえた。だが、

「ぼくに似せるなんて、やるじゃないか」

「ウヒョオオオオオ! ファイア! ファイア! ファイアァァァァァ!」

「ふぁ〜、孝和たちには触らせないよ〜」

 戦っているのは旧三英傑だった。

「タイクーンの悪鬼と呼ばれたこのカエルめの、相手になれるかな?」

「ゲロゲロ、ピジョン様からいただいたこの体、負けるわけないじゃないか」

 カエルたちが剣戟を交わしていると、こっちでは魔道戦が行われていた。

「ウヒョオオオオオ! 血の流れよりも紅きもの……黄昏よりも暗きもの……」

「うひょおおおおお! 大魔法ね? こっちもまけないいいいいい! 右手に炎、左手に氷、合体!」

 大魔法合戦になりそうだった。

「ふぁ〜、ラモッグも負けないよ〜」

「ファー、勝つのはぼくだよー」

 両者は背後からカプセルを取り出す。カプセル上部のスイッチを押すと、

各々の前にちょっと前に見たようなロボットが現れ両者乗り込んだ。

 ロボットたちはレスリングのような戦いを始めた。

「一体、何が何やら」

「全くだな兎塚、おい藤堂ちゃんとついて来れているか?」

「いやいやいや、ノーノーノー」

「だよなあ、俺もだよ」

 旧三英傑の戦いを、呆然と見るしか無かった三人だった。

「加勢したほうがいいかな?」

 藤堂の提案は二対一で否決された。加勢したら逆に邪魔になるパターンだろう。

「天翔十字剣!」

「ゲロゲロ! ブザマだな、ホンモノのくせに! 喰らえ! 百烈剣!」

 藤堂はじっとグラムたちの動きを見る。確かに、コレほど参考になる戦いも他には無かった。

 天翔十字剣、百烈剣、天翔蓮華剣、真・鳳凰剣。

 次々繰り出される必殺技の数々、その間合いの取り方、呼吸、一挙手一投足を目に、心に焼き付けていた。

 それは兎塚さんも南雲センパイも一緒のようだった。

「等しく滅びを与えんことを!」

「矢をつがえるように……!」

「ふぁ〜なんとかバスターだよー」

「ファー、ちょっと厳しいかな?」

 凄まじい戦いは、旧三英傑の勝利で終わりそうだった。

「さあ、これが終わったら、ピジョンたちの居場所をはいてもらうよ!」

「ゲロゲロ、そうはさせない」

 グラムの体が輝く。ニセグラムもだった。

「「ギガ……! スマーッシュ!」」

 よく似ていると言っても、所詮はコピー品。ホンモノに敵うワケがなかった。

グラムはニセグラムを消し飛ばした。エキャモラも、ラモッグもそうだった。

 グラムたちは、藤堂の元へと駆け足で俯きながら戻ってくる。そして顔を上げた。

「「「てへっ、やりすぎちゃったぜ」」」

 南雲センパイは大笑いした。兎塚さんもクスクスやっている。

「ゴメンよ希望」

「……許す」

 グラムはホッと胸をなでおろす。

 と、景色がかき消えた。次の瞬間別の景色となった。

「鍾乳洞の中? いや、何かで見た気がする」

「次元の狭間のクリスタルルーム的な? そうだよね? ピジョン!」

 グラムたち、旧三英傑が向く方を藤堂たちも見る。

「よくお気づきで。チンケなカエルども」

 ピジョンはドラコ、ワキャワの二人を連れての登場だった。

「なあ、もういいよな? 面倒だし」

「そうですなあ。まあ頃合いかと思いますぞピジョン殿」

「どちらにしろ、そのメスガキと妹はワキャワがヤるわ」

 戦いは避けられない様子だった。まあ、藤堂たちとしても、避ける気もないが。

「どっちにしろ、お前らを倒さないと帰れないんだろ?」

 南雲センパイは肩をグルグルと回す。

「そうだ。うぬらに勝てる要素はないがな」

 ドラコは拳を鳴らしている。

「もう一度分からせてやるわ、ワキャワ」

「あら、胸の小さい娘が何か言っているわ」

 藤堂も南雲センパイも思わず「あ」と漏らす。しばらく震えたあと、兎塚さんは声をかける。

「行こうか、エキャモラ」

「うん!」

 全員が臨戦体勢となった。当然ながらバトルは避けられない。

旧三英傑をしまった三英傑と、ピジョンたちは各々が呪文を叫ぶ。

「「「「「メドア!」」」」」」

 変身した六人による、バトルが始まったのだった。

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