第2話 王都へと
窓から差し込む朝の陽の光で、私は目を覚ました。いつもより早く起きた私が部屋を出てリビングに行くと、リビングで朝の掃除をしていた侍女のアメリアは少し驚いた顔をしていた。
「サリーナ様、おはようございます。今日はいつもより起きるのが早いですね。何か用事でもあるんですか?」
「おはよう、アメリア。今日はちょっと王都に出かけようと思って」
この世界で自分がやりたいことを見つけるには家の中に閉じこもっていたら、きっといつまでたってもやりたいことが見つからない気がした。
「そうなんですね。では、少し早いですが朝食の準備をして参りますね」
「ええ、ありがとう。アメリア」
アメリアは私に軽くぺこりと頭を下げてからリビングから立ち去って行く。
私はリビングにある茶色い椅子に座り、窓から差し込む陽の光を見つめていた。
***
「良い天気ね〜」
朝食を食べ終え、家を出た私は王都へと続く道を歩いていた。
リディリア伯爵家は王都から少し離れた高台に位置する場所に建てられている為、今私が歩いている王都へと続く坂道から王都の街並みと港町の景色が見えるくらい見晴らしが良い。
「それにしても、サリク。貴方も一緒に来るなんてね。私、一人でもよかったのに……」
私の後ろを歩く、側近のサリク・ローディオに少しばかりの不満を溢すとサリクは少しおかしそうにくくっと笑っていた。
「サリーナ様は本当に素直ですね。ですが、私はサリーナ様の側近ですので、お出掛けの際は私をお連れ下さい」
「わかってるわよ。じゃあ、今日はとことん付き合ってもらうわよ」
「はい、荷物持ちでも何でも致しますよ!」
サリクはにこやかにそう言えば、サリーナは柔らかい笑みを浮かべて「頼りになるわ」と告げた。
***
王都へと着いたサリーナとサリクは他愛のない会話をしながら王都の道を歩いていた。
「そう言えば、サリク、貴方って甘いものは食べられる人?」
「甘いものですか?」
「ええ、チョコレートケーキとか、苺アイスとか、生クリームが乗ったパンケーキとかね」
サリーナは今、食べたい物をぽんぽんと口に出していく。そんなサリーナの言葉を聞いたサリクは何故か眉間に眉を寄せていた。
「食べれないという訳ではないのですが、あまり甘すぎる物はちょっとという感じですね」
「そうなのね」
サリクの返答的にあまり甘い物は好きではないという感じなのだろう。と思ったサリーナはこれから行こうとしていた王都で有名なパンケーキ専門店に行くのをやめて、別の所にしようと決めて行く先を変える。
「はい。サリーナ様はこれから何処に行かれますか?」
「そうね、ちょっと洋服がほしいから、服屋に行くわ」
サリーナの言葉にサリクは『わかりました』と言い頷き返した。
***
ワンピースが欲しかったサリーナはサリクの意見もありながら、服の買い物をすませて店を後にする。
「ありがとう、サリク。一緒に選んでくれて」
「いえいえ、どういたしましてです」
「ええ、ん……?」
「どうしました?」
「あそこにある黒いテントって何かしら?」
サリーナがそう言い指差した先にはガラス細工専門店の隣にポツンと佇んでいる黒いテントがあった。
サリクはサリーナが指差した黒いテントに目を向けると少し驚いた顔をして話し始める。
「サリーナ様、あの黒いテントが何なのかご存知ないんですか?」
「ええ、知らないわ」
「そうですが、あれはですね。占い屋です。仕事や恋愛のこと。または人間関係など。色々なことを占ってくれるお店ですよ」
サリーナは『なるほど』と言い頷きながら、転生前の世界にも占いはあったわね。と心の中で呟く。
「やってみますか?」
「ええ、やりたいわ!」
特別、何か占って欲しいことがある訳でもななかったが占いに興味を惹かれたサリーナは黒いテントの前へと足を運んだ。
「あ、サリク、貴方は外で待っていてちょうだい」
「わかりました。お待ちしてあります」
サリクはぺこりと軽く会釈をして、サリーナが黒いテントに入って行く背を見送った。
「いらっしゃい。お嬢さんが占ってほしいことはなんだい?」
黒いテントの中に入ったサリーナは中年の女性の前にある椅子に座ってから答える。
「私が占ってほしいことは少し先の未来のことよ」
「ほう、少し先の未来ね。わかった、では、お嬢さん、手を出してくれ」
「ええ、」
占い師の女性にそう言われてサリーナはそっと机の上に両方の手を置く。
「ほうほう、なるほど」
「手相占い?」
「ああ、そうさ」
机の上に置かれたサリーナの両手を交互に見つめながら占い師は何やらぶつぶつと呟いている。そんな占い師をサリーナが見つめること数分後、占い師の女性は顔を上げてサリーナを見て口を開く。
「お嬢さんの少し先の未来はとても良いものになるだろう」
「本当……?」
「ああ、」
「そう、ありがとう」
サリーナは占い師の言葉をあまり信じることが出来なかった。占いなんて当たる時もあれば当たらない時もある。未来なんて誰にもわからないのだ。良いものになるなど、言葉ではいくらでも言える。サリーナはそう思ってしまう自分自身に少し呆れてしまう。
「サリーナ様、どうでした?」
「ええ、まあ、よかったわよ」
「おお、そうですか。それならよかったです」
黒いテントの中から出てきたサリーナを見て待っていましたと言わんばかりに声を掛けてきたサリクにサリーナは優しい笑みを溢す。
「では、帰りましょうか」
「ええ、そうね」
サリーナはサリクと共に家へと続く帰路を歩き始めたのであった。
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