幕間5 まだ何者でもない者に仕える系メイド
「雷光波ァァァ――ッ」
両手の掌に魔力を収束させ、雷と光に変えて、一気に放出した。
直線上に放たれた赫黒い閃光は、ゴブリン達を飲み込み消滅させる。
「ハアハアハア。どう? シヴァ」
「スペルとしてはだいぶ形となりましたね。これでしたら、中層以下にも単騎で潜っていけるでしょう」
シヴァからお墨付きを得た私は、安堵の息を吐いた。
なんとかゴブリンを倒せるぐらいに形になったものの、それまでは酷かった。
両手の掌に魔力が上手く収束されずに魔力が拡散したり、いざ放つ際に雷の割合が高くしすぎて斜めに行ったりと、直線に放つだけでも一週間ぐらい時間がかかった。
私がいるのは自宅地下にある深層まであるダンジョン。
あのマンションから引っ越しをするに辺り、シヴァが見つけたダンジョン付きの物件である。
ダンジョンに近ければ近いほど魔素濃度が濃ゆくなり、自身の持つ魔力の質が上がるらしい。ただし下手に魔素を取り入れすぎると、魔人または怪人に変化する可能性があると、シヴァは笑いながら語っていた。
――笑い事じゃあないよね。
この物件に関しては、シヴァが術式を使い、適度な魔素を吸収できるようにしてくれているので、私が魔人・怪人に変化する可能性はゼロだという。
どうして私がそんな危険な物件に住んでいるかというと――私は強くなることを選んだ。
弱いから朱雨悪に付け込まれ良いように扱われ、弱いからアイツは私を捨てた。だから――私は、誰にも無視できないぐらい強くなる道を進むことにした。
ただの女子大生(元)が誰にも無視できないほど強くなりたいという荒唐無稽な事だけど、シヴァは真剣に聞いてくれて、強くなるための修行工程も考えてくれた。
雷光波は中・遠距離用のスペルとして。近距離においてはシヴァが使っている「開闢終焉流」という流派を教わっている。
――ちょっと開闢終焉流って厨二病過ぎて恥ずかしいけど、きちんと強いので文句は言えない。
「さて、お嬢様。この先はこのダンジョン上層のボス部屋です。このまま闘いますか? それとも帰るのも有りですよ」
「せっかく「雷光波」をモノにしたんだから、挑戦したい。――シヴァは、手を出さないでね」
「かしこまりました」
金属で出来た扉の前で1分ほど立っていると、扉は音を立てながら左右に別れて開き始めた。
パーティーでは何度も挑んだ上層ボス戦だけど、単身で挑むのはこれが初めてだ。
少しだけ緊張をしながらもボス部屋に入ると、扉は音を立てながら閉まる。
ボス部屋は、ドーム上の拓けた空間であり、その中心部にはゴブリンがいた。
「あれはゴブリンファイターですね。近距離戦に特化した好戦的なゴブリンです。――お嬢様、ご武運を」
「うん」
ゴブリンは挑発的な笑みを浮かべ、私に向けて疾走して来る。
私は両手の掌で魔力収束させて、疾走してくるゴブリンに向けて「雷光波」を放った。
直線上に放たれる赫黒い1条の光。それをゴブリンは地面を蹴り上げ、空中に飛ぶことで回避したのだった。そしてゴブリンは体勢を変えて、空中から蹴りを仕掛けてきた。
数歩下がり回避する。
地面に着地したゴブリンは、足で砂を蹴り上げた。砂の粒子が目に入り、視覚が閉ざされる。
「しまっ――」
ゴブリンは嗤いながら、私の方に向かってくるのを感じる。
――ゴブリンのおおよその位置は把握できた。
シヴァとの修行の一環で、雷のスキルを利用して、微弱な電磁波を飛ばしてソナー代わり使用する事ができるようになっていた。
精度はまだまだ甘い部分もあって、達人が使うとさせる「制空権」ほどではないけど、ゴブリンの位置を把握することぐらいは出来る。
ゴブリンは視覚を奪ったことで余裕が出来たのか、そのまま無造作に殴りかかってきた。
私は魔力を拳に溜め、シヴァと一緒に特訓中でまだ未完成のスペルを放つ。
――開闢終焉流・
拳に溜めた魔力がゴブリンに当たる感触がした。
一瞬、ゴブリンの悲鳴をあげたような気もしたけど、声は直ぐに周辺の破壊音で掻き消える。
ぅっううう。出力が安定しないどころか、放出が止まらないッ
「お嬢様。それ以上はダメです」
シヴァの声が耳元で聞こえた。
そして黒白無常を放っている手に針を一本打ち込まれたことで、続いていた魔力放出が止まった。
私は息を切らしながら、膝を地面に付けたのだった。
……
……
……
上層ボス戦を終了した私は、家へと帰還することにした。
イレギュラーでもない限りは階層ボス戦の強さが、その次の階層に出現するモンスターの強さの基準となる。
上層階層のボスに少し手こずったこともあり、安全マージンを考えてのことだった。
「お嬢様。例のアレが完成しました」
「え。本当に出来たの?」
「はい。お嬢様の望みを叶えることはメイドの嗜み。この程度のことできなくてどうしましょう」
胸を張ってシヴァは答えた。
シヴァには、正体を隠したままダンジョン配信を出来る手段を考えてもらうことにしていた。
流石に魄霊冥無として、そのまま配信する勇気はまだない。……思金大学で、友達とか喋る人はほとんどいなかったけど、そのままダンジョン配信をした場合、特定される可能性も無きにしもあらず。
……それに、アイツとの関係は白紙になったとはいえ、血の繋がりがあるってだけで、なにかしてくる奴らがいないとも限らない。
そこで姿を隠してダンジョン配信できる手段を考えてもらっていた。
「お嬢様には、さきほどのマッサージを行った際に、スキル「インスタント・メタモルフォーゼ」を与えております」
「え? あ、の。マッサージのときに?」
「はい。全身隈なく解すことで、スキルを与えやすくなるのです」
「そ、そうなんだ。始めて知った」
私は少しだけ顔を赤らめながら頷いた。
全身の揉みほぐしによるマッサージ……。
まるでAVの体中にオイルを塗って、その、するような感じで、いつものように私は中学生の施術で人に聞かれると羞恥で死にかねない喘ぎ声やら、色々と出していたことで、スキルを与えられたことには気が付かなかった。まあ、そんな余裕がなかったのだけど。
「そ、それで、『インスタント・メタモルフォーゼ』ってどんなの?」
「簡単に言えば即席変化術です。私が使うメタモルフォーゼとは異なり、組み入れ設定した人物のみ変身することが可能となっています。説明されるより、実際にやってみた方がいいでしょう」
シヴァに促されて『インスタント・メタモルフォーゼ』のスキルを使用した。
すると私の身体にノイズが奔り、私の身体が身長など諸々変わっていく。
鏡の前には、VTuberのようなアニメ調の姿をした存在が立っている。
――これが、私?
黒い髪に所々に白のメッシュが入っていて、身長は元々の私よりも少し低く、顔も童顔っぽい
「名前はそうですね……。世のVTuberは分かり易い名前が多いので、その姿の時は、
「
「喜んでいただいたようでメイド冥利に尽きます。では、これから新ジャンル、VirtualSeekerとして、配信を行いつつ、実力を伸ばしていく形でいいでしょうか?」
「いや、新ジャンルって大げさすぎない?
「いますが、アレはダンジョン配信者の切り抜きや、コラボで解説するぐらいで、本人がダンジョンに潜ることはありません。下手すると中の人が発覚しますからね。それに変身系スキルはものにもよりますが、再現度が高いものは重要人物に成り済ます事もできることから、表立って使用される事はほとんどありません。
このスキルは
「な、なる……ほど?」
「とりあえず、その姿で探索になれていきましょう。まずは地下の中層を突破することができれば、配信するに辺り、安全マージンをある程度は確保できると思われます」
「……中層突破、か。私だけでできるかな」
「お嬢様なら出来ますよ。それに、私もいます。お嬢様が強くなる事を望まれるのでしたら、その願いを叶えてみせましょう」
「うん。ありがとう、シヴァ!」
私はシヴァに笑顔を向けてお礼を言った。
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1章の閑話はここまでとなります。
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